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離婚時に住宅ローンの名義変更はできるのか
離婚した元夫婦が別々の場所で暮らすとき、住宅ローンが離婚後にも残っている場合は、住宅ローンの名義人に対して支払い義務が発生します。
これを避けるため、住宅ローンの返済を「これから住む人」の名義に変えたい場合があります。しかし、住宅ローンの名義変更は非常に難しく、基本的には借り換え・組み直しで対応するしかありません。詳しくは、次のとおりです。
原則的にローンの名義変更は不可だが例外もある
住宅ローンの名義変更は、原則として認められていません。これには金融機関の審査基準、契約上の制約、そしてリスク管理の観点から複数の理由があります。契約時点に遡ってみると、申込者の収入や勤務先、返済能力などを厳密に審査した上で融資を決定しています。名義変更は、この審査を経ていない人物を新たな債務者とすることを意味するため、金融機関としては簡単に承諾できません。
なお、稀に名義変更が認められるケースもあります。このときの金融機関の判断基準は、新名義人の返済能力です。重要な審査基準の1つに、年収に対する年間返済額の比率である「返済比率」という項目があり、住宅ローンの元の名義人と同程度(一般的な目安は35%から40%程度)であるかが重視されます。
基本的には借り換え・組み直しをする
離婚に伴い住宅ローンの名義変更を必要とする場合、もっとも一般的な対応策は、借り換えまたは組み直しです。借り換えとは、現在の住宅ローンを一旦完済し、新たな条件で別の金融機関からローンを組むことを指します。一方、組み直しは同じ金融機関内でローンの条件を変更する方法です。これらの方法を通じて、実質的に名義変更と同様の効果を得ることができます。
ただし、借り換えや組み直しには新たな審査が必要となります。新しい名義人の年収、職業、勤続年数などが審査の対象となり、返済能力が認められなければ実行できません。また、手続には一定の費用がかかることも考慮する必要があります。さらに、金利が変動する可能性もあるため、総返済額の変化にも注意が必要です。
家の名義変更は銀行の承諾が必要
離婚するときに家の名義を変えようとするときは、まず「家の名義」(家自体の所有権を持っている人の名前)があり、併せて「住宅ローンの名義」(住宅ローンを支払う人の名前)があることを理解しましょう。ここで重要なのは、住宅ローンの名義はもとより、家の名義変更にも、銀行の承諾が必要となる点です。
実際には、前者は銀行との契約になるため債務者都合での手続はできないものの、後者に関しては法務局(登記所)に必要書類を出すことで実行できてしまいます。ここで気をつけたいのは、ローン返済が滞ったときに家を差し押さえる権利である「抵当権」が自宅に設定されており、この権利の設定にあたって「家の名義変更を債務者が勝手に行うこと」が認められていない点です。
簡単に言えば、住宅ローンの名義変更ができていないのに家の名義変更を勝手に実行してしまうと、銀行との契約に違反したことになります。その結果、分割返済が認められなくなり(期限の利益喪失)、残債をまとめて一括で払うよう求められないとも限りません。そのため、銀行の承諾なく家の名義変更を進めることは、極力避けるべきと言えるでしょう。
離婚時に住宅ローンの名義変更ができない場合の対処法
住宅ローンの名義変更が困難な場合、別の方法で問題を解決する必要があります。簡単には、まず自己資金での完済を検討し、家を残すために夫婦間・親族間での売買を視野に入れ、最終手段として任意売却を検討することになるでしょう。
自己資金での住宅ローン完済
自己資金で住宅ローンを繰り上げ返済し、借入残高をゼロにするのは、もっとも単純で確実な解決策です。資金調達の方法としては、貯蓄の取り崩し、退職金の活用、親族からの援助などが考えられます。また、個人向けローンを利用することも選択肢の1つです。なお、繰り上げで返済した場合、住宅ローン控除の残年数分が受けられなくなる点があるので注意が必要です。
夫婦間・親族間での売買
夫婦間や親族間での売買は、第三者への売却を避けたい場合の有効な選択肢です。家族内で解決できること、住み慣れた家に今後も住み続けられる点で、自己資金での完済の次に良い方法だと言えます。売買を検討するときは、夫婦それぞれの資金状況を確認し、明らかに不足があればそれぞれの実家で相談することになるでしょう。
夫婦あるいは親族同士で家を売買するときに重要なのは、適正価格の設定です。一般的には、不動産会社の査定額を参考にしますが、明らかに市場価格より低い価格で売買すると、差額分が贈与とみなされ、離婚時の財産分与ではかからない贈与税が課税される可能性があるので注意が必要です。
任意売却
任意売却とは、債務者自身の意思で不動産を売却し、その売却代金でローンの返済に充てる方法です。通常、不動産業者を介して行われ、一般的な不動産売却と同様の流れで進みます。この方法のメリットは、自己破産を回避できること、競売に比べて高値で売却できる可能性が高いことです。また、住宅ローンの残債が売却金額を上回る場合でも、金融機関との交渉次第で残債の減額や分割返済が認められることがあります。
任意売却のデメリットとしては、何よりも住む場所を失うことが挙げられます。加えて、売却までに時間がかかる可能性があることにも注意しましょう。金融機関との交渉では、返済計画の提示や誠意ある対応が重要で、不動産会社および司法書士のサポートは不可欠です。
住宅ローンと家の名義変更にかかる費用
離婚時に住宅ローンと家の名義変更を行う場合、さまざまな費用が発生します。これらの費用は、手続の種類や金融機関、物件の価値などによって大きく変動します。予想外の出費を避けるためにも、事前に必要な費用を把握しておくことが重要です。
住宅ローンの名義変更にかかる費用
住宅ローンの名義変更にかかる費用は、借り換えを行うかどうかで大きく異なります。稀なケースですが、借り換えをせずに名義変更できる場合は、費用がほとんどかかりません。しかし、現実的には借り換えを行うケースが多く、その場合は以下のような費用が発生します。
借り換え先との契約に必要な費用
- 融資事務手数料:借入額の1~2%程度
- 地震・火災保険料:10年で15~20万円程度
- 保証料:借入額の0.2~2%程度
- 印紙税:1~20万円程度(借入額による)
- 抵当権設定のための登録免許税:借入額の0.4%
借り換え元への返済に必要な費用
- 全額繰上返済手数料:0~5万円程度
- 抵当権抹消のための登録免許税:1件につき1000円
家の名義変更にかかる費用
家の名義変更は、所有権移転登記を法務局(登記所)で行います。必要な銀行の承諾にも若干の手数料がかかる場合がありますが、ここでは、登記申請の費用に絞って相場を確認しましょう。詳しくは以下で解説しています。
所有権移転登記のための登録免許税
離婚による財産分与の場合、固定資産税評価額の2%に相当する登録免許税が課税されます。たとえば、固定資産税評価額が2000万円の家を名義変更する場合だと、課税額は40万円です。
登記申請時の必要書類(交付手数料)
必要な書類の交付手数料については申請先の市区町村によって異なりますが、おおむね以下の金額となるケースが多いでしょう。
- 印鑑登録証明書:200~300円
- 住民票の写し:200~300円
- 戸籍謄本:450~750円
- 固定資産評価証明書:300~500円
司法書士報酬
家の名義変更に関する司法書士報酬は、一般的に3万円から12万円程度です。ただし、案件の複雑さや物件の価値によって変動する可能性があります。
離婚後も相手名義の家に住めるのか
住宅ローンの名義変更をするか否かはともかく、離婚後も相手の名義(かつ住宅ローン返済も相手方)の家に住み続けることは、不可能ではありません。もっとも、その際には、使用貸借契約か賃貸借契約のいずれかを結ぶ必要があります。
注意したいのは「ローン返済中である」「家の名義はあくまでも相手である」の2点において、最悪の場合、予期せぬ退去を強いられる可能性がある点です。まずは、相手の家に住み続ける方法から整理してみましょう。
ルールを決めて合意すれば住み続けられる
相手の家に住み続けることは口約束でも可能ですが、最低限、明確なルールを決め、書面で合意することが重要です。必要な合意事項には、居住期間、使用範囲、費用負担、退去条件などが含まれます。このとき、契約の種類として「使用貸借」と「賃貸借」の2種類があり、その内容に応じて契約の性質が変わる点に注意しましょう。
使用貸借と賃貸借の主な違い
- 使用貸借:賃料を無料とする場合(貸主が有利)
- 賃貸借:相当額の賃料を定める場合(借主が有利)
また、この合意に法的拘束力を持たせるために、公正証書を作成することも検討したほうが良いでしょう。公正証書は、裁判所で強制執行することができるため、より確実な保護を得られます。さらに、将来的な状況の変化に対応するため、定期的な見直し条項を設けることも重要です。
たとえば、子の成長に伴う居住期間の変更や、収入状況の変化による費用負担の見直しなどを盛り込むことで、長期的な居住の安定を図ることができます。
離婚後も相手名義の家に住むリスク
相手名義の家に住み続ける場合、さまざまなリスクが生じます。基本的には「いつ退去になってもおかしくない」と考えて、買い取ることを検討したり、次の家がすぐ見つかるように準備したりすべきでしょう。どんな危険性があるのか挙げていくと、次のようになります。
ローン滞納で競売にかけられる
離婚した相手方の家に住む問題のひとつは、相手方の返済状況を把握できないことです。万が一、住宅ローンの滞納が続くと、家が競売にかけられる可能性があります。
競売のプロセスは、金融機関による競売申し立て、裁判所による競売開始決定、物件の評価、入札、落札者の決定という流れで進み、最終的には第三者の手に渡ってしまいます。そうなれば、新しい借主と契約して住み続けることは不可能ではないものの、退去を求められる可能性も十分に考慮しなければなりません。
勝手に売却されて他人に渡る
相手名義の家は、法的には所有者が自由に処分できる財産です。そのため、事前の取り決めがない場合、所有者が勝手に売却してしまうリスクがあります。
このとき、新たな所有者との賃貸借契約(もしくは使用貸借契約)は継続しますが、やはり退去を求められないとは限りません。また、第三者に借主の権利を主張するためには、あらかじめ賃貸借契約を締結して登記しておく必要があります。
使用ルールについて揉める
離婚の相手方が「大家」という立場である以上、使用ルールに関するトラブルが起きる可能性があります。具体例としては、修繕費の負担、間取りの変更、同居人の制限などが挙げられます。
これらのトラブルを解決するためには、事前の取り決めが非常に重要と言えるでしょう。契約書に使用ルールを記載し、トラブルが発生した場合の解決方法もあらかじめ決めておくことが有効です。
名義人の都合で解約される
最初に締結したのが使用貸借契約(賃料を無料とする契約)の場合、貸主側の都合で比較的容易に解約できることが大きな問題点です。終了事由・解除事由について、使用貸借は「期間を定めない契約ならいつでも貸主側から解約できる」と定められているためです。
期間の定めがあっても、延長・更新は貸主の一存で決まります。この点において、賃料の支払いをして、借地借家法による借主の保護の強い「賃貸借契約」にしたほうが有利です。
賃料の負担が重くなる
賃貸借契約(賃料を支払う契約)を結んだ場合、借地借家法の適用により居住の安定性は高まりますが、今度は「支払いを継続できるか」が問題となります。これは、特に収入が不安定な場合にリスクとなります。
たとえば、介護や育児の都合で失業したり、収入が大幅に減少したりした場合、賃料の支払いが大きな負担となる可能性があります。このリスクに対処するためには、賃料の見直し条項を契約に盛り込むことや、収入の変動に備えて貯蓄を行うことが重要です。また、家賃補助制度などの公的支援の利用も検討すべきでしょう。
住宅ローンがある家の名義変更の注意点
離婚に伴い住宅ローンがある家の名義変更が必要になった場合は、いくつかの重要な注意点があります。特に名義人以外が住むことによる契約違反のリスクや、住宅ローン控除の適用条件の変化には気をつけなくてはなりません。詳細は次のとおりです。
名義人以外が住むのは契約違反にあたる
住宅ローンの契約では、通常、ローンの名義人がその物件に居住することが条件となっています。そのため、離婚後に名義人以外の人が住み続けると、契約違反となる可能性が高くなります。この問題は、別居期間中でも発生する可能性があるため、注意して適切に対応しなければなりません。
住宅ローンの名義人が自宅を離れることになったケースでは、一度銀行に相談しておくのが無難です。事情を説明すれば、一時的な条件として名義人が住まない(名義人でないほうの家族だけで住む)ことは認められるでしょう。ローンの名義変更ができず、相手が返済負担しながら所有する家に住もうとする場合にも、同じように許可を求める必要があります。
住宅ローン控除は条件次第で適用できる
離婚に伴い住宅ローンの借り換えや名義変更を行った場合でも、条件を満たせば住宅ローン控除を引き続き受けられる可能性があります。適用条件としては、以下のようなものがあります。
- 離婚による財産分与として、元配偶者から住宅を取得していること
- 取得した住宅に実際に居住していること
- 住宅取得後6か月以内に入居していること
- 所得税の課税所得があること
ただし、注意点として、住宅ローン控除の残りの適用期間は、元の住宅ローンの残り期間に限られます。また、控除額は新しいローンの年末残高に応じて計算されるため、借り換えによってローン残高が減少した場合は、控除額も減少する可能性があります。
さらに、住宅ローン控除の適用を受けるためには、確定申告が必要となります。離婚に伴うさまざまな手続の中で、この点を見落とさないよう注意が必要です。適用条件や手続について不明な点がある場合は、税理士や金融機関に相談することをおすすめします。
借り換えで住宅ローンの名義変更する場合の注意点
住宅ローンの借り換えで名義変更を行う場合、主に以下の条件を満たすことが求められます。
- 不動産の所有権を借り換えする人の単独名義(または父母・子との共有)である
- 借り換えする人が居住する不動産である
- 離婚協議書などのコピーを提出する
前述でも少し触れていますが、ローンを支払う家には借り換えを行う人が住む必要があるため、元夫名義で借り換えした家に、元妻が住むことはできません。また、借り換えを行った金融機関によって上記の条件が異なる場合があるため、あくまで一例として捉えて金融機関に確認するとよいでしょう。
また、借り換えは場合によって、前回より利息額高くなるなど住宅ローンの条件が厳しくなるケースがあります。借り換えができる=前回と同じ条件という図式が成り立たないことも起こり得るので、借り換えの審査が通った場合でも安易に手続を進めず、前回との条件を比較するなど慎重に対応することを心がけましょう。
離婚時の住宅ローン名義変更は難しい
離婚に伴う住宅ローンの名義変更は原則として不可能で、借り換えや組み直しによる対応が一般的です。借り換え・組み直しができない場合は、自己資金もしくは親族の資金で借入残高を清算するか、任意売却して引っ越す方法となるでしょう。また、相手名義の家に住み続ける場合も、基本的には賃貸借契約にしたほうが良いと言えますが、今度はその原資や契約締結の方法が問題になるでしょう。
分譲マンションや戸建の財産分与は、住宅ローンの部分を含めて複雑な問題を抱えています。その必要性に迫られたときは、司法書士などの専門家や、価値を評価できる不動産会社などに相談することをおすすめします。