借地権を相続したときはどうする?名義変更の方法と注意点

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借地権とは

土地の権利には、所有者(地主)がおり、地主と契約を締結することで利用することのできる、借地権と呼ばれる形態があります。正確には、土地の賃借権または地上権として借地権が成立します。そして、所有権も借地権も、他人から受け継ぐときは、名義変更手続にあたる登記申請が必要です。まずは、権利の基本的な性質から押さえましょう。

借地権と所有権の違い

借地権と所有権では、利用実態は同一であることが多いものの、権利の性質としては全く違うものです。違いをまとめると、下記のとおりになります。

比較項目 借地権 所有権
土地の権利 利用権 完全な支配権
期間 有期(更新可能) 無期限
譲渡・売却 制限あり(地主の承諾必要) 自由
固定資産税の負担 建物のみ 土地と建物
建物の取扱い 契約終了時に制限あり(基本は更地にする) 制限なし

土地の賃借権と借地権

亡くなった人が有する権利が借地権かどうかを登記簿で見分け、必要な名義変更を終わらせるには、どうすればいいのでしょうか。理解しておきたいのは、一般的に借地権と呼ばれるものが「賃借権」と「地上権」の2種類にわかれる点です。

賃借権と地上権で共通するのは、土地上の建物に借地人の登記(所有権)がある点です。異なるのは土地の登記の有無で、賃借権は土地に登記されないことがしばしばあるのに対し、地上権は必ず土地に対しても登記があります。このことから、賃借権を受け継ぐときは最低限建物の登記が必要になり、地上権を受け継ぐときは土地および建物の登記が必要だと言えます

借地権の分類

借地権には主に普通借地権、定期借地権、旧法借地権の3種類があります。相続では、すでに長期間にわたって賃借権もしくは地上権が設定されていることが多く、相続開始を機に「いつまで土地を借りられるのか」が問題となることがあります。これに備えて、簡単に借地権の種類を押さえておきましょう。

普通借地権

借地借家法に基づく一般的な借地権で、原則として契約期間は30年以上です。更新は可能ですが、建物の再築による更新は地主の承諾付きで一律20年、立ち退き料の支払いなどの正当な理由があれば地主による更新拒絶が認められるなど、当事者を公平に扱う判断が見られます。

定期借地権

借地借家法の施行に伴い導入された新しい権利で、契約で定めた期間(50年以上)で終了し、更新はありません。設定する権利の種類は、契約終了時の建物の買取について、買取請求権を認めない一般定期借地権および事業用定期借地権と、特約で建物を地主に譲渡する建物譲渡特約付借地権に分類されます。

旧法借地権

旧法のもとで設定された借地権で、堅固建物の場合は60年、非堅固建物の場合は30年の存続期間があり、現在でも効力を持ちます。地主側の意向による契約解除が困難で、当事者の合意により借地借家法下の契約に置換することもあります。

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借地権は相続の対象となる

借地権(賃借権もしくは地上権)は、銀行に対して有する預貯金債権(口座の残高)や所有権のある土地と同様に、相続の対象となります。このとき、相続と遺贈では、地主との関係や必要な手続に違いがあるため、それぞれの特徴を理解しておくことが重要です。

【相続】地主の承諾は不要

借地権を相続する場合、原則として地主の承諾は不要であり、承諾料も発生しません。相続人は、被相続人の死亡と同時に自動的に借地権を取得し、地代の支払い義務についても引き継ぎます。もっとも、借地上の建物を売却して代金を分割する(換価分割)のように第三者への譲渡を行うときは、その譲渡の際に、地主の承諾または家庭裁判所の許可が必要となります。

【死因贈与・遺贈】地主の承諾または家庭裁判所の許可が必要

死因贈与・遺贈とは、死因贈与なら贈与契約書、遺贈なら遺言書によって、相続権のない人などに財産権を譲渡する行為です。上記のように贈与扱いとなるケースでは、原則として地主の承諾が必要となり、この際、借地権価格の約1割程度の承諾料を支払うのが一般的です。なお、地主が承諾しない場合、家庭裁判所に借地権譲渡の許可を求める申し立てをすることができます。

相続・遺贈の際は相続登記を行う

相続の遺贈のどちらで借地権を受け継ぐにせよ、必要なのは相続登記です。正確には、相続を原因とする移転登記と呼ばれる、名義変更の手続を要します。借地権を別の誰かから受け継ぐのであれば、登記申請によって名義変更しなければならないのは、すでに述べたとおりとなります。

借地権の名義変更(相続登記)の流れ

借地権の名義を変える手続は、一般的な不動産相続と同様の流れで進めますが、借地権特有の注意点もあります。相続人の確定から始まり、遺産分割協議や必要書類の収集、そして登記申請まで、段階を踏んで進めていく必要があります。

相続登記の流れ

借地権の相続登記は、おおむね所有権の相続登記と同様に、遺言の確認や相続人の調査を経て行います。大まかな流れは、以下の1から5のとおりです。

【1】遺言書の確認

借地権者が亡くなって相続が開始したら、有効な遺言書の有無を確認します。遺言書があるケースで、公正証書遺言または保管制度を利用した自筆証書遺言でない場合は、家庭裁判所に検認を申し立てる必要があります。

【2】相続人の調査

遺産分割協議を有効に成立させたり、遺留分(相続人に認められる最低限の権利)の侵害によるトラブルを避けたりする上で、相続人の調査は必須です。具体的には、亡くなった借地権者(被相続人)の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せ、そこに記載されている親族の戸籍謄本を取り寄せる方法で行います。

【3】相続する不動産の調査

相続する財産の調査も、遺言執行や遺産分割協議の漏れを防ぐために必要です。不動産の調査は、固定資産評価証明書や登記事項証明書の取り寄せによって行い、権利の種類もここで確認できます。

【4】地主の承諾(必要に応じて)

遺贈や換価分割を行うケースでは、地主の承諾を得るための交渉を行います。承諾料などについて同意が得られたら、承諾書の作成を地主に依頼しましょう。

【5】必要書類の収集・登記申請

調査や地主の承諾などといった諸々の手続を終えたら、借地とその上に建つ建物(※前述のとおり、賃借権の場合は建物のみの場合あり)につき、土地の所在地を管轄する法務局・登記所に提出します。書類に問題がなければ、2週間程度で登記完了通知が届きます。

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借地権の相続登記にて必要な書類と費用

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借地権の相続登記には、一般的な相続手続と同様の書類や費用で行えます。基本的に揃える書類やかかる費用は以下のとおりです。

登記申請に必要な書類一覧

基本的には以下の書類で手続を行えますが、状況に応じて必要な書類が追加される場合もあるので、適時収集しましょう。

  • 登記申請書
  • 遺言書もしくは遺産分割協議書
  • 印鑑登録証明書
  • 戸籍謄本(被相続人と相続人)
  • 承継する人の住民票
  • 固定資産評価証明書
  • 委任状(手続を依頼する場合)

借地権の相続登記でかかる費用

亡くなった人から借地権を受け継いだときの登記でかかる費用は、大まかに登録免許税・書類収集費用・司法書士への依頼費用で構成されます。細かい費用としては、郵送料などもあるでしょう。

  • 登録免許税
  • 必要書類の収集費用
  • 司法書士への依頼費用(任意)

登録免許税の課税額は相続の場合だと固定資産税評価額の0.4%、相続人以外への死因贈与や遺贈の場合だと固定資産税評価額の2%となります。

必要書類の収集費用は1通ごとにかかり、戸籍謄本や住民票、固定資産評価証明書を収集すると合計で約数千円程度になるでしょう。

もし手続を専門家に依頼する場合、借地権の評価額や手続の複雑さによって異なりますが、おおむね3万円から12万円程度です。金額の大小は、相続の状況によって異なります。

相続税の関係

借地権を相続するときは、相続税の課税対象になる点に注意しましょう。申告が漏れた場合、無申告加算税や過少申告加算税(追徴課税)の対象になります。相続税の考え方は、以下で紹介するとおりです。

借地権の相続税評価額の計算方法

借地権の相続税評価額の計算方法は、地上権の場合だと、その種類によって異なります。普通借地権から順に、計算方法を確認してみましょう。

普通借地権などの場合

普通借地権など、更新可能な借地権の相続税評価額は、国税庁が財産評価基準書で公表する借地権割合を用いて計算します。

普通借地権の評価額=自用地としての評価額×借地権割合

自用地としての評価額の算出方法(上から「路線価方式」と「倍率方式」)

  • 自用地の評価額=路線価×土地面積×奥行価格補正率×そのほかの補正率
  • 自用地の評価額=固定資産税評価額×倍率

参照:財産評価基準書|国税庁

定期借地権の場合

定期借地権の相続税評価額は、借地人のものとなる経済的利益と、借地権の存続期間を考慮する必要があります。計算式で表すと、次のようになります。

定期借地権の評価額=自用地としての価額×(【1】÷【2】)×(【3】÷【4】)

  1. 借地人に帰属する経済的利益の額
  2. その土地の更地価額
  3. 残存期間に応ずる基準年利率による複利現価率
  4. 借地権の設定期間に応ずる基準年利率による複利現価率

借地権の評価は小規模宅地等の特例を適用できる

亡くなった人の自宅が建っていたり、店舗や事務所として利用していたりする宅地等の相続税申告では、一定の限度面積につき評価額の8割または5割を減ずる「小規模宅等の特例」を適用できます。この特例は、所有権をもらい受けるときだけでなく、賃借権や地上権を受け継ぐときにも利用可能です。

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手続を進める上での注意点

借地権の相続は、一般的な不動産相続と比べて複雑な側面があります。地主との関係維持、共有になった場合のリスク管理、将来の売却や建て替えの際の手続など、さまざまな点に注意を払わなければなりません。気をつけたいのは、次の4点です。

地主とトラブルになる可能性

借地権の相続では、承継者の代で賃貸借契約の理解や土地の用途が変わるせいで、地主との関係が悪化してしまうことがあります。基本的なこととして、地代の支払いに遅延が出ないよう注意しなくてはなりません。用途変更や譲渡・転借では、地上権に基づき許されるとしても、地主の承諾を得るのが無難です。建物の建替えについては、賃貸借契約の消滅の可能性もあるため、より慎重に行うべきです。

借地権の共有リスクと対策

相続人が複数いるケースでの借地権の相続は、特定の誰かが単独で受け継ぐ判断が好ましいと言えます。借地権および建物の所有権を共有することは可能ですが、いったん共有が始まると、保存行為(財産の維持に関する行為)以外について、一定数以上の共有者の同意が必要になるのがネックになります。

借地権付き建物を売却するときの注意点

借地権付き建物の売却では、土地所有権付きの建物に比べ、価値が下がる傾向にあります。何よりも注意を払いたいのが、借地人の変更を伴うため、地主の承諾が必要になる点です。買主が想定する利用方法によっては、売却を断念せざるを得なくなるかもしれません。ほかに、売却代金の税申告について、譲渡所得税の計算を適切に行わなければならない問題もあります。

借地権相続に関するよくある質問

借地権の相続で特に疑問を持つ方が多いとされる、借地の活用方法や相続放棄の可能性、契約の中途解約、固定資産税の取り扱いについて詳しく解説していきます。

借地の活用方法は?

借地権を相続した後の活用方法には、いくつかの選択肢があります。状況や目的に応じて、最適な方法を選ぶと良いでしょう。

借地の活用方法

  • 借地権を売却し、対価を得る
  • 居住もしくは事業のため自分で使用する
  • 賃貸物件として入居者を募り、収益を得る
  • 地主と交渉し、底地(所有権)を買い取る
  • 借地権の種類を変更する(利用目的や存続期間が変わる)

借地権の相続放棄はできる?

借地権もほかの相続財産と同様に、相続放棄することが可能です。もっとも、相続放棄は一部の財産だけでなく、相続財産全体に効果が及ぶため、借地権だけを放棄することはできません。また、相続放棄後は原則として借地権に関する権利義務を負いませんが、放棄までに発生した債務については責任を負う場合があります。

借地権契約は中途解約できる?

借地権契約の中途解約は、地主と賃借人の双方に不利益をもたらす恐れがあることから、原則上は不可とされているためです。基本的には、契約書に中途解約や解約権保留特約に関する条項がない場合、地主との個別交渉になります。例外として、建物が滅失してしまった場合、現行の借地借家法下で成立した借地権に限り、借地人の申出による解約が認められています。

借地の固定資産税の取扱いはどうなる?

借地の固定資産税については、土地と建物で取り扱いが異なります。原則として、土地の固定資産税は土地の所有者である地主が支払い(存続期間が100年以上の地上権を除く)、建物の固定資産税は建物の所有者である借地権者が支払います。相続後は、相続人が建物の固定資産税の納税義務を引き継ぎます。契約によっては、借地権者が土地の固定資産税相当額を地代に上乗せして支払うケースもあります。

複雑な相続にお困りなら専門家に相談を

借地権の相続では、地主との関係維持や、将来の売却や建て替えなど、さまざまな要素を考慮する必要があります。相続または遺贈による名義変更では、さまざまな書類を用意する必要があり、登記事項を踏まえた適切な内容の申請書も作成しなければなりません。全体を通して、借地人が持っている権利に対する深い理解が求められると言えます。

借地を相続する場合や、登記事項証明書で土地に地主がいると判明した場合は、司法書士などの専門家のアドバイスを求めましょう。適時適切な対応をとることで、スムーズな相続手続と将来のトラブル防止につながります。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載