相続登記にかかる期間は2か月程度
相続登記とは、亡くなった人の土地・建物の名義を変更するための手続であり、承継する人が誰か判断する段階から書類を集めて登記申請するまで、ケースに応じて相当の日数を必要とします。不動産の相続登記にかかる期間は、相続人が複数いるケースで通常1か月から2か月程度です。もっとも、相続人が1、2人程度だったり、必要書類がすでに手元にあったりする場合であれば、登記申請前の準備がほとんど必要なく、2週間程度で済むでしょう。
近年の相続における注意点として、2024年4月からは相続登記が義務化された点が挙げられます。これにより、相続を知ってから3年以内に登記を完了させることが求められるため、相続登記の流れを理解し、効率的に進めることが重要になっています。
相続登記の大まかな流れ
相続登記をする状況には、有効な遺言書がある場合、遺産分割協議を必要とする場合、法定相続する場合の3つのパターンがあります。ここでは、それぞれの場合における相続登記の大まかな流れを見ていきましょう。
有効な遺言書がある場合
有効な遺言書がある場合、手順に沿って進めるだけで、時間の読めないステップはありません。まず、遺言書の検認を経て(公正証書遺言や保管制度利用中の自筆証書遺言であれば不要)、遺言執行者が指定されている場合は就職の意思を確認します。その後、遺贈または相続の内容を確認し、それに基づいて相続登記の準備を進めます。状況により、遺留分侵害の対応を行う必要はありますが、基本的には遺言書の内容に沿い、スケジュールに沿って相続登記を行えます。
遺産分割協議を必要とする場合
有効な遺言書がなく、相続権を有する人が複数いる場合には、遺産分割協議が必要です。相続登記に先立ち、相続権を有する人同士の話し合いにより、土地や建物を含む相続財産の取り分について判断しなければなりません。合意に至ったとしても、その内容を書面にした遺産分割協議書の作成が必要です。このように、合意形成および書面作成を経てから相続登記を進めることになるため、かかる時間や日数が読めない難しさがあります。
法定相続する場合
法定相続とは、民法で定められた相続分に従って相続を行うことです。たとえば、配偶者と子がいる場合だと、配偶者が2分の1、子が残りの2分の1を均等に相続するのが基本であると定められています。そのほかに、相続人が1人しかいない(単独で全財産を相続する)場合も挙げられるでしょう。このように、法定相続で登記を行えば済むケースでは、遺言書の内容を確認する手順も、相続人全員で協議する手順もありません。比較的短期間で相続登記ができるケースだと言えます。
登記申請の準備にかかる期間
登記申請の準備には、通常1か月から2か月程度かかります。遺言書の確認や遺産分割協議がもっとも時間のかかる部分で、必要書類の準備だけであれば、1週間程度で済む場合が多いでしょう。最近では、これまで本籍地役場で請求するしかなかった戸籍謄本が、令和6年3月1日から全国どこからでも交付請求できるようになった点です。依然として不動産の所在地の役場で請求する必要のある固定資産税評価証明書などがありますが、依然と比べて書類収集の時間は短縮されると考えられます。
登記申請から完了までにかかる期間
登記申請から完了(登記名義人が書き換わるまで)は、通常2週間程度です。登記申請は必要書類の提出で済みますが、出した書類につき、10日程度の期間を指定して審査が行われます。審査が完了する日は、あらかじめ補正日として知らされます。補正日までに書類の修正があれば指示があり、修正がなければ通知が届いて完了します。注意したいのは、登記申請しただけでは名義変更したことにならず、完了するまでは所有権に基づく譲渡や、そのほかの不動産活用ができない点です。
相続登記にかかる期間と必要な準備
相続登記の申請準備となる手続を細かく分解してみると、相続開始直後に行う遺言書の捜索・確認から、相続登記申請書の作成まで、さまざまな手続があります。状況ごとにどれくらいの日数がかかるのか判断する上で、各手続の所要期間を把握しておくのは大切だと言えます。
手続の内容 | 目安となる期間 |
---|---|
遺言書の捜索および検認 | 数日~1か月半程度 |
相続財産の調査 | 1週間程度~2週間程度 |
相続人の調査 | 1週間程度~2週間程度 |
遺産分割協議 遺産分割協議書の作成 |
2週間~数か月程度 |
相続登記申請書の作成 | 1日~1週間程度 |
遺言書の捜索および検認
相続が開始したら、その状況を問わず、いったん遺言書を捜索して有無を確かめる必要があります。探す場所としては、自宅や貸金庫、公証役場(検索システムを利用)などがありますが、数日から1か月程度は必要と考えましょう。
その後、遺言書が見つかった場合には、方式や保管方法に応じて、それぞれ内容を確認して相続人に通知するための手続が必要です。手続の内容やかかる期間については、次のようになります。
自筆証書遺言または秘密証書遺言の場合
自宅などで保管されていた自筆証書遺言または秘密証書遺言については、先で触れた「検認」と呼ばれる手続が必要です。この検認は申し立てから1か月~2か月程度で受け取ることができます。なお、法務局の保管制度を利用していた自筆証書遺言は、遺言書保管事実証明書や、遺言書情報証明書の交付を受ける必要があります。これらの交付は、請求後即日で行われます。
公正証書遺言の場合
公証役場で作成し、原本を保管する公正証書遺言では、写しにあたる謄本の請求が必要です。請求にあたっては、交付まで1週間から2週間程度の時間を要します。
相続財産の調査
相続財産の調査は、把握していない財産を調べる目的だけでなく、登記申請などの後に控える手続で必要な書類を集めておく意味も含みます。不動産なら固定資産評価証明書および登記事項証明書の取り寄せが必要で、所有状況が分からない場合は、各市区町村での名寄帳の閲覧請求から始まります。
上記の手続にあたっては、窓口の都合にもよりますが、調査完了まで最短でも1週間程度は必要とするでしょう。遺された資産の種類が多かったり、タンス預金など現物の財産があったりするケースでは、スムーズに進んだ場合でプラス1週間程度かかることになるでしょう。
相続人の調査
相続登記そのほかの手続では、誰が相続人か調査するため、登記申請でも必要になる戸籍謄本を取得するのが一般的です。取得するときは、亡くなった人(被相続人)の出生から死亡までのすべての戸籍について請求をかけ、その内容に基づいて相続人全員の戸籍を取り寄せる必要があります。
さらに、きょうだいや親など、自分以外の人の戸籍を請求するときは、第三者請求と呼ばれる特別な対応が必要です。これらの対応につき、あらかじめ手順を理解した状態で1週間から2週間程度の日数を要します。
遺産分割協議・遺産分割協議書の作成
有効な遺言書がなく、相続人が複数いる遺産分割協議は約1週間程度かかるでしょう。専門家に相談したり、相続のルールについて自分たちで調査したりする時間が必要であれば、さらに1週間から2週間程度必要になると考えられます。
合意に至った後、全員が署名押印した状態の遺産分割協議書の作成にあたっては、全体で2週間程度の日数を見ておくと安心です。遠距離でのやりとりのため協議書の回覧が遅れたり、それ以外の何らかの理由で返事が遅い家族がいる場合は、1か月単位で日数が延びる可能性があります。
相続登記申請書の作成
相続登記申請書とは、相続を原因とする所有権移転登記を申請する旨を記載し、対象の不動産を特定して法務局に提出する書類です。書面には、登録免許税の課税額に相当する額の収入印紙を貼り、相続関係説明図と呼ばれる当事者の関係を説明するものを添付しなければなりません。
登記申請書の内容が、法務局の記載例に沿って作成できるシンプルな内容であり、パソコンの取り扱いに手慣れた人が作成するのであれば、1日で作成できるでしょう。より複雑で、事前に相続関係や持分・相続の方法について整理する必要のあるケースでは、1週間程度を必要とします。
手続の期間が長引いてしまう原因
相続登記は1か月から2か月程度で完了させるのが理想的ですが、実際にはさまざまな要因によって長期化することがあります。相続人の状況、相続財産の複雑さ、相続人間の関係性など、多くの要素が絡み合って手続の遅延を引き起こす可能性があります。
相続人や相続財産の調査に時間がかかる
相続人や相続財産の調査は、相続登記そのほかの手続の基本であり、省略できない上に時間がかかりがちなポイントです。相続財産の調査で時間がかかる場合として、資産の種類が多かったり、複雑化していたりする場合があります。相続人の調査でも、調べる必要のある戸籍の範囲や、家族関係に応じ、時間を余分に必要とするでしょう。
相続財産の調査で時間がかかるケース
- 現物の財産が多い(高価な家財など)
- 査定を必要とする財産がある(骨董品など)
- 自社株式や事業用資産がある(被相続人が会社経営者だった場合など)
相続人の調査で時間がかかるケース
- 手書きの古い戸籍を調べる必要がある(高齢で亡くなったケース)
- 離婚歴があり、前の配偶者の子がいる
- 認知した子がいる(その可能性がある)
遺産分割協議がまとまらない
遺産分割協議を必要とするケースでは、家族とはいえ複数の当事者の思惑や事情が絡むことから、長期化する場合が多々あります。よくあるのは、ほかの相続人が面倒がって協力してくれなかったり、遺産の承継について異なる意見を持っていたりするケースです。
遺産分割協議がまとまらないケース
- 相続人の一部が非協力的
- 相続人の一部または全部と連絡が取れない
- 不動産や家業の承継について意見が分かれる
- 相続財産の評価に関して争いがある
- 特別受益や寄与分の主張がある
相続人と連絡がとれないケースを取り上げてみると、不在者財産管理人制度や失踪宣告などの申し立てがなければ、遺産分割できない場合があります。それ以外のケースだと、調停や審判・訴訟でないと決着しない可能性が否めません。このように、追加の手続が必要になると、数か月単位で相続登記が遠のいてしまいます。
書類収集に時間がかかる
相続登記に必要な書類として、これまで戸籍謄本のみ挙げてきましたが、ほかにも固定資産評価証明書・印鑑登録証明書が必要です。遺言に基づく相続登記を行うなら、家庭裁判所で検認を受けたあと、検認済証明書がついた状態で遺言書を提出しなければなりません。登記申請書に関しても、相続関係説明図を自分で作成して添付しなければならない手間があります。
書類収集で時間がかかる理由
- 戸籍謄本の取得に時間を要する
- 相続人の印鑑登録証明書の取得が遅れる
- 固定資産評価証明書の発行に時間がかかる
- 遺言書の検認手続が遅れる
- 相続関係説明図の作成に時間を要する
これらの書類の準備は、慣れないと手間取ることが多く、遅れが生じると、当然ですが相続登記の期間にも影響します。不足や不備があると、補正(法務局からの修正の指示)に対応する手間が発生するため、時間がかかっても最初にきちんとそろえておきたいところです。
相続人の数が多い
単純に相続人の数が多いと、それだけで相続登記の期間が延びがちです。当事者が増えるごとに、考慮しなければならない都合や意見の数が増え、次のような問題が発生するのです。
相続人の数が多いと起こるトラブル例
- 意見調整に時間がかかる
- 書類の署名・捺印に時間がかかる
- 連絡や情報共有に手間がかかる
- 相続人間の利害関係が複雑化する
こうした状況では、相続人の代表者という立場で対応するにあたり、限界があります。遺言執行者によるスケジュールに沿った対応や、司法書士などの専門家による状況の牽引がないと、長期化は避けられないと言えます。
手続に要する時間を短縮させるポイント
相続登記の手続は複雑で時間がかかりがちですが、適切な準備と効率的な進め方によって期間を短縮できます。具体的には、早期の段取り、迅速な書類収集、並行作業の実施、オンライン申請の活用、そして専門家への依頼など、さまざまな方法が考えられるでしょう。
家族で早めに段取りを組む
相続登記を早く終わらせたいのであれば、できるだけ早い段階で家族と話し合い、段取りを組んでおくと良いでしょう。配偶者と子が遺族になるケースでは、いち早く親子で連絡を取り合っておきます。
必要書類の収集を速やかに開始する
相続登記に必要な書類の収集は、早いに越したことはありません。複数の相続人がいるのであれば、役割を分担し、戸籍関係書類や固定資産税評価証明書をいち早く取り寄せられるのが理想です。相続登記にあたって提出する戸籍謄本や印鑑登録証明書は、使用期限がありません。取得するタイミングがずれたとしても、そのまま使えます。
複数の手続を同時に進める
相続登記の手続を効率的に進めるうえで、複数の作業を並行して行う心がけは必要です。例として、配偶者と子が遺族となったケースを考えてみましょう。亡くなった人に離婚歴がなく、認知した子がいる可能性もなければ、上記の親子以外に相続人はいないことは明白です。この状況なら、戸籍関係書類の交付を待っている間に、登記申請書に添付する相続関係説明図を作成することが可能です。
司法書士などに相談・依頼する
相続登記の手続を迅速かつ正確に進めるためには、司法書士などの専門家の力を借りることが非常に効果的です。相続開始直後の初期段階で相談を実施し、全体の流れや注意点を把握し、効率的な進め方のアドバイスを得ることができます。複雑なケースでは全面的な委託を検討し、書類収集の一部代行や遺産分割協議のサポート、登記申請書作成を専門家に任せれば、煩雑な手続を正確かつスピーディーに進めることができるでしょう。
相続登記を放置した場合のデメリット
相続登記の手続はややこしく、日数も1か月単位でかかることから、何もせず放置される場合が少なくありません。当てはまるケースで注意したいのは、いずれ催告の上で過料に処されることや、受け継いだ土地・建物から直接不利益が生じる可能性です。以下で解説するポイントを踏まえると、登記せずに放置することはできません。
相続登記の義務化に伴う催告・罰則がある
相続登記しない場合の第一のデメリットは、令和6年4月以降の相続登記の義務化に伴うペナルティです。本法改正では、自己のために相続が発生したことを知った日から3年以内に相続登記をしない場合、法務局から催告があります。催告を受けてもなお登記申請しない場合には、10万円以下の過料に処されます。注意したいのは、法改正以前の相続も対象(期限は令和6年4月1日から3年以内)になる点です。
不動産の売却・活用が困難になる
相続登記しない場合の第二のデメリットは、対象の土地・建物につき、売却や活用が難しくなることです。登記簿上古い名義のままでは、不動産を担保とする融資を受けたくても、銀行が応じません。売却を検討している段階では、売主の所有権を証明できないため、買主に取引を断られてしまいます。自己の居住目的などで使用する間は問題ありませんが、資金が必要になったときや、不動産が不要になったときに困ります。
第二・第三の相続の発生で権利関係が複雑になる
相続登記しない場合の第三のデメリットは、時間経過とともに権利関係が複雑になり、ますます登記申請を難化させてしまうことです。登記権利者が亡くなるなどして、第二・第三の相続が発生し、権利者がネズミ算式に増えてしまうと、登記にあたって必要な相続人の把握が困難になります。その結果、子や孫などの代で不動産を売却または活用しようとするときに、不要な手間を発生させることになります。
相続登記を円滑に進めるために
相続登記は通常1か月から2か月程度で完了しますが、状況によっては長期化することがあります。相続人や相続財産の調査に時間がかかる場合や、遺産分割協議がまとまらない場合、書類収集に手間取る場合、相続人の数が多い場合などは注意が必要です。
相続登記を円滑に進めるために、以下のポイントを押さえておくと良いでしょう。
- 早めに相続人同士で段取りを組む
- 必要書類の収集を速やかに開始する
- 複数の手続を同時並行で進める
- 専門家(司法書士など)に相談・依頼する
また、相続登記の手続に不安がある場合や、複雑な相続案件の場合は、司法書士への相談をおすすめします。司法書士は相続登記の専門家であり、迅速かつ正確な手続のサポートが可能です。
相続登記を放置すると、不動産の売却・活用が困難になったり、将来の相続でさらに複雑化したりするリスクがあります。円滑な相続と将来のトラブル防止のためにも、適切な時期に相続登記を行うことが大切です。迷った際は、ぜひ専門家のアドバイスを求めてください。