土地と建物の名義が異なるケースにおける相続時の問題点

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土地と建物の名義が異なるケース

土地や建物などの不動産を相続したところ、土地と建物の名義が異なっていたというケースがあります。このような土地と建物の名義が異なるケースとして、よくあるパターンを5つ紹介します。

親の土地に子が建物を建てた

相続財産になった土地に、被相続人の子が建物を建てていたというケースです。親が所有している土地の上に子が自宅を建てるケースは少なくないでしょう。親が子に土地を使用させる場合、通常の賃貸と同じく賃貸借契約を結んでいる場合もあれば、無償で土地を貸与する使用貸借契約が結ばれているケースもあります。

このようなケースで相続が発生した場合、被相続人が遺言書を用意していなければ、遺産分割方法が決定するまでの間は相続人全員で土地を共有します。建物の名義人である子が優先して土地を相続できるといったことはありません。

共有している不動産は単独で利用したり処分したりできないため、相続人同士で意見が合わないとトラブルになることもあります。

親の土地に親子で共有名義の建物を建てた

被相続人である親と子の世帯が同居しており、親が所有する土地に親子共有名義の建物を建てたといったケースです。

このケースでも、共有名義人がほかの相続人に優先して土地を相続できるわけではありません。共有名義人の持ち分に関しては共有名義人自身に所有権がありますが、被相続人の持ち分は相続人全員の共有財産となります。

この場合、共有名義人が土地および自宅をすべて相続するために、代償分割という手段を用いることがあります。代償分割とは、1人の相続人が財産を取得する代わりにほかの相続人にお金を払って清算するという遺産分割の方法です。

相続した土地の名義変更をせずに建物を建てた

不動産を相続したら相続登記を行い、名義変更しなければなりませんが、相続した土地の名義変更をせずに自己名義の建物を建てることもあります。

令和6年4月1日からは相続登記が義務化されていますが、それ以前は相続登記が義務ではなかったため、このように名義変更することなく建物を建てたというケースは少なくありません。たとえば、親が亡くなった際に遺産分割によって子が土地を相続し、相続登記をすることなく相続した土地の上に自宅を建てたケースなどがこれに該当します。

この場合、すでに遺産分割が完了していれば、基本的にほかの相続人ともめることはないでしょう。ただし、被相続人自身も相続登記を行っておらず、土地の名義が被相続人よりさらに上の世代であった場合、自分以外の相続人が共有持分を有している可能性があります。この場合、共有持分の買取請求などを行うことで、自己の持分の所有権を確保することができます。

被相続人が貸していた土地に賃借人が建物を建てた

被相続人が第三者に貸していた土地に建物が建てられたというケースです。相続によって相続人に土地の所有権が移ると、賃貸人としての地位も相続人に引き継がれるため、相続発生後も借地権が存続します。

このような借地権が設定された土地を底地といいますが、底地を相続しても自由に活用できません。また、底地を相続人全員の共有財産として相続すると、借地人とのやり取りや管理、地代の分配方法などでもめやすいという特徴もあります。

さらに、相続した底地の売却自体は可能ですが、底地は自由度が少ないため売却金額が安くなりやすいというデメリットもあります。

被相続人が借りていた土地に被相続人名義の建物を建てた

先ほどのケースとは逆に、被相続人が第三者から借りた土地に自宅を建てて住むというケースです。この場合、相続人は建物と一緒に借地権も相続できるため、土地の所有者の許可を得ることなく相続した建物に住むことができます。

また、借地権は建物に付着する権利であるため、借地権を付けた建物として売却することが可能です。ただし、借地権付きの建物を売却するには土地の所有者から許可を得なければなりません。そのため、相続した建物をどうするかについて意見を合わせるために、土地の所有者と交渉が必要になるケースもあるでしょう。

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土地と建物の名義が異なる場合で起こるトラブル

土地と建物の名義が異なることで起こるトラブルとして、よくある事例を3つ紹介します。名義が違うことによって具体的にどのような弊害があるのかを理解し、対策に活かしましょう。

立ち退きに関するトラブル

被相続人が借りていた土地に建物を建てていたケースなどで、借地権付き建物を相続人が引き継いだ場合、相続のタイミングで土地の所有者から立ち退きを要求されることがあります。

ただし、建物の所有を目的とした借地の場合、借地借家法の適用によって「正当な事由」がなければ立ち退きは認められません。この「正当な事由」として認められる事例としては、たとえば賃料滞納などの契約違反がある場合や、定期借地契約で契約期間を満了している場合などがあげられます。

解体に関するトラブル

建物の所有者が借地権を保有している間、土地の所有者は建物の解体を請求できず、借地契約の期間満了後に建物の解体を請求できます。

土地の所有者は建物所有者に解体を請求することはできますが、勝手に建物を解体することまでは認められていません。もし借主が請求に応じない場合、解体を請求するための訴訟をするという手段があります。

一方借主側には、将来的に建物を解体して更地にし、土地を返却するという選択肢があります。解体費用については借主負担が原則ですが、交渉次第では土地の所有者が費用を負担してくれることもあるでしょう。

住宅ローンに関するトラブル

親名義の土地に子名義の建物を建てていたケースでは、ローンを組む際に親名義の土地に抵当権が設定されることがあります。この場合、住宅ローンが滞納されることなく支払われれば問題ありませんが、住宅ローンの滞納が続くと土地が金融機関によって差し押さえられてしまいます。

もし相続によって土地が相続人全員の共有になっていれば、親子間だけでなくほかの相続人にも影響が及ぶため、住宅ローンの滞納が原因でトラブルになることもあるでしょう。

土地と建物の名義を統一する方法

土地と建物の名義を統一する方法_イメージ

土地と建物の名義が異なることでさまざまなトラブルが起こり得ますが、そういったトラブルは土地と建物の名義を統一することで避けられます。名義を統一する方法としては、以下の3パターンがあります。

  • 土地所有者が建物を購入する
  • 建物所有者が土地を購入する
  • 第三者が土地と建物両方を購入する

まず土地・建物の購入には高額の費用がかかるので、名義を統一するためには購入者に代金を支払うだけの資金力があることが前提となります。また、購入するためには所有者の同意を得る必要があるので、土地・建物の所有者の同意が得られるかどうかも重要でしょう。

ほかにも、住宅ローンの支払い中に土地と建物の名義違いを解決する場合、金融機関からの許可が必要であるという問題もあります。これについては、のちほど詳しく解説します。

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名義が異なる土地と建物を売却する方法

土地と建物の名義が違う不動産を売却する場合、通常の売却方法とは異なる点があります。名義違いの不動産を売却する4つの方法について解説するので、売却を検討する際は状況に合った適切な売却方法を選びましょう。

土地もしくは建物の名義変更後に売却する

土地と建物の名義が異なる不動産を売却する場合、どちらか一方に名義を統一したうえで売却します。名義が統一されれば通常の売却と変わらないので、市場価格での売却が期待できます。

名義を統一する方法としては、先ほど説明したいずれかの方法をとるのがよいでしょう。購入者に不動産を購入できる資金力があり、なおかつ所有者から売却の同意が得られれば、このような方法での売却が可能です。

名義変更をせず同時に売却する

土地と建物それぞれの所有者間で合意が得られれば、名義変更をすることなく土地と建物を同時に売却することも可能です。この場合、売却価格や時期、相手の希望などをすり合わせ、両者が納得いく条件で売却する必要があります。

特に価格設定はお互いの利益に直結する重要な要素なので、あとからトラブルにならないよう念入りに打ち合せをしておく必要があります。

土地と建物を別々に売却する

土地と建物を別々に売却する場合であれば、お互いに許可を得ることなく単独で売却が可能です。この場合、借地権付きの建物であれば購入者は建物に住めるので、名義が異なっていても特に問題はありません。

しかし、借地権がない建物は建物を購入しても土地を利用し続けられる保証がなく、自由に活用できないため、買い手が付かない可能性が高いでしょう。

土地と建物の名義を統一する際の注意点

土地と建物の名義を統一する際の注意点について解説します。知らずに名義変更をするとあとから困ることもあるので、事前にしっかり理解しておきましょう。

住宅ローンが残っている場合には金融機関の許可が必要

通常のローン契約では、「名義変更する際には銀行の承諾を要する」といった契約がほとんどです。そのため、住宅ローンの支払い中に名義変更をする際は、事前に金融機関から許可を得る必要があります。

金融機関の承諾なしに名義変更をした場合、ペナルティとしてローン残金の一括返済を求められる可能性があります。

もし金融機関の承諾が得られなかった場合、住宅ローンを借り換えるという手段もあります。新しく住宅ローンを組んで現在のローンを返済すれば既存のローンは完済になるため、契約に拘束されることもありません。

相続人と連絡が取れないときは不在者財産管理人制度を利用する

遺産分割協議をする際に疎遠になっている相続人がいる場合など、相続全員と連絡が取れないこともあります。しかし、遺産分割協議には相続人全員が参加する必要があるので、このような場合は不在者財産管理人制度を使うのがおすすめです。

不在者財産管理人制度とは、土地所有者が不在である場合に、家庭裁判所から選任された不在者財産管理人が土地の管理や保存を行う制度です。不在者財産管理人を選任すれば、本人に代わって不在者財産管理人が遺産分割協議に参加できるため、本人不在でも遺産分割の手続が進められます

名義変更が複雑な相続登記は司法書士へ相談を

土地と建物の名義が違う状態で相続が発生することは珍しくありません。売却について所有者間で合意が成立しない場合、自己名義の不動産であっても売却できないケースもあります。相続によって不動産を取得した場合には、代償分割によってほかの相続人とバランスを調整することも可能でしょう。

令和6年4月1日からは相続登記が義務化したため、不動産を相続した際は相続登記が必須です。土地と建物の名義人が違う事例の場合、相続登記に詳しい司法書士と相談しながら手続を進めるのがおすすめです。不動産の名義変更について不安なことがあれば、まずは一度司法書士に相談してみましょう。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載