抵当権とは
抵当権とは、債務者が借入金などの債務を返済できない場合に、債権者が特定の不動産を競売にかけて弁済を受けることができる権利です。抵当権が発生することは「抵当権設定」と言い、このとき、当事者は次のような関係になります。
- 債務者(お金を借りる人)→抵当権設定者※
- 債権者(お金を貸す金融機関)→抵当権者
※債務者以外の人(親族など)が不動産を担保として供与する場合もあるため、必ずしも債権者=抵当権設定者とは限りません。
ここでは、抵当権設定登記の必要性を理解するためにも、まずは抵当権の性質から整理してみましょう。
住宅ローン・金銭貸借契約と抵当権の関係
住宅ローンなど、数百万円から数千万円程度の高額な融資では、貸し倒れのリスクが大きいため、連帯保証人もしくは物的担保を提供しなければならないのが一般的です。抵当権とは、債務者側が不動産を担保として供与する場合、その不動産に設定する権利を指します。
一見するとデメリットのように思えますが、資金調達の面では悪いことばかりではありません。万が一のときに土地や建物から回収が図れる契約とすることで、お金を貸す金融機関が負うリスクが軽減され、債務者は有利な条件で借り入れられるのです。
不動産への抵当権設定は登記で確認できる
土地や建物を担保として抵当権を設定するときは、法務局で抵当権設定登記を申請しなければなりません。登記により、法務局で管理する帳簿(登記簿)で第三者が抵当権を確認できるようになり、担保として供与する契約に法的な力が生まれます。
また、抵当権が登記されることで、本人から相続する人や保護者も「その不動産が何らかの融資の担保になっているか否か」を確かめられるようになります。登記事項証明書を取得したとき、権利部(乙区)の欄で、抵当権の存在と抵当権者のほか、抵当権の順位も確認できるのです。
抵当権は1つの不動産に複数設定することも可能です。こういった場合には、抵当権に1番・2番…とのように順位がつけられ、順位が高いほど債権者は優先的に弁済を受けられるようになります。貸し倒れリスクがどの程度軽減されるかを決める要素であることから、抵当権者にとっては、とても重要な要素です。
抵当権の種類
不動産に設定される抵当権には種類があります。住宅ローンの借り入れで利用されることの多い(普通)抵当権と、会社経営のための借り入れで利用されることの多い根抵当権です。これらに関する知識は、登記申請書の書き方や、登記を抹消する条件が整っているかを確認するために必要です。
(普通)抵当権
抵当権と呼ぶものの多くは、普通抵当権です。融資契約のたびに設定し、完済すれば抹消することのできる、特定の債権を担保するための権利です。
根抵当権
不動産の評価額に合わせて極度額を取り決め、極度額内で借り入れと返済のサイクルを何度も繰り返すことを前提にした、継続的な取引から生じる不特定の債権を担保する制度です。
抵当権設定登記が必要となるケース
抵当権設定登記をするケースは、マイホームを購入して住宅ローンの契約をするときをはじめとして、さまざまなものが想定されます。
住宅ローンを組む場合
住宅・土地の購入や、リフォームを目的としたローンを組むときは、購入または改築する物件に抵当権を設定するのが一般的です。住宅ローンの返済期間は35年から40年程度が一般的で、返済が終わったときは、債権者である金融機関の承諾を得て抹消します。
事業資金を借り入れる場合
事業を営む個人事業主や法人が、店舗や事務所、あるいは事業者個人の土地・建物を担保として資金を借り入れる場合にも、抵当権設定登記が必要となります。借り入れ先には、日本政策金融公庫や、地方銀行・都市銀行などがあり、借り入れおよび担保の条件もばらばらです。
そのほか、不動産を担保に借り入れをする場合
住宅ローンや事業資金以外にも、リフォーム資金や教育資金など、さまざまな目的で不動産を担保として借り入れを行う場合があります。こうした場合にも、金融機関は債権保全のために抵当権設定登記を求めることが一般的です。借り入れ金額が高額になるほど、金融機関が抵当権設定を融資の条件とする可能性が高くなります。
具体的な手続と必要書類(登記申請書の雛形あり)
抵当権設定登記を行うためには、必要書類を揃え、法務局で登記申請を行う必要があります。登記申請者は、不動産の所有者や住宅ローン契約を結んだ金融機関などですが、実際の手続には両社が指定した司法書士となるのが一般的です。もし、特別な事情がある場合・抵当権者の了承がある場合には、抵当権設定者本人が手続することもあります。
お金を借りる人自身で手続する場合、もしくは債務者が指定した司法書士が申請する場合には、どんな流れとなるのでしょうか。
抵当権設定登記の流れ
抵当権設定登記は、借り入れについて契約を締結し、その書面に基づいて行います。順に説明すると、以下のとおりです。
融資契約の締結
融資契約では、債権者と債務者のあいだで、抵当権設定についても取り決めます。取り決めた内容は、抵当権設定契約書として文書化します。
登記申請書類の準備
次に、抵当権設定登記の申請にあたる人が、抵当権設定登記に必要な書類を準備します。登記申請書、抵当権設定契約書、印鑑登録証明書、登記済証または登記識別情報などが必要です。以下は司法書士へ依頼した場合の雛形です。
法務局での登記申請手続
準備した書類を法務局に提出し、登記申請手続を行います。申請書類に不備がなければ、登記官による審査を経て、抵当権設定登記が完了します。手続方法は、窓口や郵送だけでなく、必要書類をすべて電子文書で用意できる場合ならオンライン申請も選べます。
登記識別情報の交付など
登記が完了したら、抵当権者となった債権者のもとへ、申請が完了したことを証明する「登記識別情報」が送付されます。債務者側でも、登記事項証明書を取得し、抵当権設定がきちんと終わっているか確認します。
抵当権抹消登記
所定の返済期間を終えて残債がゼロになり、抵当権が不要になったときは、債権者と債務者で合意し、権利の抹消に移ります。このときは、債務者自身もしくは債務者が指定した司法書士による手続が一般的です。
抵当権設定登記の必要書類
抵当権設定登記の必要書類は多岐に渡ります。債務者自身で申請する場合は、法務局や司法書士による支援を得て、いちから登記申請書を作成しなければならないのが鬼門です。登記申請の必要書類を一覧にすると、次のようになります。
登記申請書
抵当権設定登記を申請するための書類です。申請人の情報、抵当権設定の対象となる不動産の情報、抵当権者と債務者の情報などを記載します。
登記申請書
登記の目的 抵当権設定
原因 令和〇年〇月〇日金銭消費貸借同日設定
債権額 金〇〇〇万円
利息 年〇%(年365日日割計算)
損害金 年〇%(年365日日割計算)
債務者 〇〇県〇〇町〇〇番地
(氏名)
抵当権者 〇〇県〇〇町〇〇番地
株式会社〇〇〇〇(会社法人等番号0000-00-000000)
代表取締役 〇〇〇〇
設定者 〇〇県〇〇町〇〇番地
(氏名)
添付情報 登記識別情報、登記原因証明情報、印鑑登録証明書、会社法人等番号、代理権限証明情報
令和〇年〇月〇日申請
〇〇法務局
代理人 〇〇県〇〇町〇番〇号
司法書士 〇〇〇〇
連絡先の電話番号 00-0000-0000
課税価格 金〇〇〇〇万円
登録免許税 金〇〇〇〇万円
不動産の表示
不動産番号 0000
所在 〇〇県〇〇町〇〇番地
地番 〇〇番
地目 宅地
地積 〇〇平方メートル
不動産番号 0000
所在 〇〇県〇〇町〇〇番地
家屋番号 〇番
種類 宅地
構造 鉄筋コンクリート
床面積 〇〇平方メートル
登記原因証明情報(抵当権設定契約書)
登記申請では登記の理由を証明する情報(登記原因証明情報)が必要です。抵当権設定登記であれば、債権者と債務者で合意を交わしたときの契約書となります。
双方の印鑑登録証明書
登記申請では、契約書が確かであることや当事者の身分を証明するものとして、債務者と債権者の双方の印鑑登録証明書が必要です。債務者側で申請するときは、債権者からもらう必要があります。
金融機関の資格証明書
登記の権利者である債権者は、その身元を証明する情報が必要です。具体的には、金融機関の資格証明書と呼ばれるものを用意し、発行から3か月以内に提出しなければなりません。
登記済証または登記識別情報
抵当権を設定する不動産は、誰の所有なのか明らかにする必要があります。その証明となるのが、登記済証または登記識別情報です。住宅ローンを契約するケースでは、新築の場合は建物表題登記および所有権保存登記を終えた段階で、中古の場合は所有権移転登記を終えた段階で、それぞれ債務者に対して交付されます。
委任状(司法書士または債務者自身で手続する場合)
抵当権設定登記は、債権者と債務者が共同で申請するのが本来であることから、いずれか一方または司法書士が申請する場合には、委任状が必要です。債務者自身で手続する場合は債権者から委任状をもらい、司法書士が申請する場合は、債権者と債務者の双方とも委任状を作成して渡します。債権者が金融機関などでは、委任状の雛形が送られてくることがあります。その場合は書式や指示に従って記載するとよいでしょう。
自分で手続を行う際の注意点
抵当権設定登記の手続を自分で行う場合、いくつかの注意点があります。まず、必要書類の準備や記載内容の確認に時間と手間がかかります。抵当権設定登記に必要な書類は複数あり、それぞれの書類の記載内容も複雑です。
注意したいのが登記申請書の作成です。債権者にとって重要な抵当権の順位を間違えると、契約違反とされ、借り入れた金銭を一括返済するよう求められる恐れがあります。抵当権の順位は登記の順番で決まります。複数の金融機関で借り入れるケースでは、十分注意を払わなくてはなりません。
抵当権設定登記にかかる費用
抵当権設定登記を行う際には、登録免許税をはじめとする各種費用が必要です。ここでは、抵当権設定登記にかかる主な費用について、その内容と金額を詳しく説明します。
登録免許税
登録免許税とは、登記申請の手数料にあたる税です。抵当権設定登記の登録免許税は、債権額(根抵当権の場合は極度額)の0.4%です。たとえば、3000万円の貸し付けを受ける場合の登録免許税は12万円となります。
上記課税額はあくまでも原則で、住宅ローン契約に伴う抵当権設定登記であれば、税率を0.1%に軽減する措置があります。上記の例で言うなら、3000万円の家を買えば、登録免許税は3万円で済む計算です。
書類収集費用
抵当権設定登記では、必要書類の取得にかかる費用も考慮する必要があります。たとえば、印鑑登録証明書の取得費用は、役所や請求方法によって異なりますが、通常、1通あたり200円から300円程度です。登記事項証明書の取得では、480円から600円程度の交付手数料がかかります。全体で、おおむね1000円から2000円程度かかるでしょう。
司法書士報酬
抵当権設定登記を司法書士に依頼する場合、司法書士報酬が必要となります。報酬額は、不動産の価額や業務の内容により異なります。簡単な抵当権設定登記の場合、報酬は5万円から15万円程度が目安となります。ただし、不動産の価額が高額な場合や、複雑な案件の場合は、報酬がさらに高くなることもあります。
郵送料などの雑費
登記申請では、書類の郵送料などの雑費も発生します。これらの費用は、書類収集費用と同等かより安い金額となるのが一般的ですが、自分で手続する場合は書類の往復などによって高額になる可能性があります。あらかじめ試算しておきましょう。
設定する物件の調査費用(必要になる場合)
住宅購入目的以外の借り入れでは、物件価値を確かめるための調査が必要となる場合があります。物件の調査は、不動産会社や司法書士・土地家屋調査士などに依頼するのが一般的で、数万円から数十万円に上ることがあります。
抵当権設定登記を行う上での注意点
抵当権設定登記を行う際には、登記手続だけでなく、登記簿や現地の調査、抵当権の抹消登記など、さまざまな点に注意が必要です。これらの注意点を理解し、適切に対応することが、抵当権設定登記を円滑に進める上で重要となります。ここでは、抵当権設定登記を行う上での主な注意点について説明します。
登記簿および現地調査をしっかりと行う
住宅購入資金以外の用途で借り入れようとする場合は、対象の物件に抵当権設定登記を行う前に、登記簿の調査と現地調査を入念に行う必要があります。登記簿の調査では、抵当権設定の対象となる不動産の登記簿の内容を確認し、現況との不一致がないかチェックしなければなりません。また、先順位の権利の有無についても確かめる必要があります。
現地調査では、抵当権設定の対象となる不動産の物理的状況を把握します。不動産の現況が登記簿の内容と異なる場合、抵当権の設定に支障をきたす可能性があります。また、現地調査により、抵当不動産の価値を正確に評価することができます。これらの調査を通じて、抵当権設定の対象となる不動産の担保価値を適切に判断することが重要です。
完済後は自分で抵当権を抹消する必要がある
誤解されがちですが、借り入れた資金を返し終わったとしても、抵当権は自動的には外れません。すでに説明したように、抵当権抹消登記と呼ばれる法務局での手続を経るまでは、競売にかける権利が残ったままとなります。こうなると、売買や賃貸などといった取引に支障をきたし、相続が発生したときには家族に自宅を残せない可能性まで想定されます。抵当権抹消登記も、抵当権設定と同様の費用や手続をすれば問題ありません。
抵当権設定登記の重要性と手続のポイント
抵当権設定登記は、不動産を担保として借り入れを行う際に必要となる重要な手続です。住宅ローンをはじめとする高額な借り入れでは、抵当権の設定が融資の条件となることが一般的です。抵当権設定登記を行うためには、必要書類を揃え、法務局で登記申請を行う必要があります。また、登記簿や現地の調査、抵当権の抹消登記など、さまざまな点に注意が必要です。
登記申請の手続は、抵当権の順位に配慮して速やかに行う必要があり、手続自体も非常に複雑です。手順を間違えれば、金融機関との契約トラブルになりかねません。自分で手続するのが厳しいと感じたら、専門家である司法書士に相談することをおすすめします。