抵当権抹消登記を行うべきケースとは?放置した場合のデメリットや手続・注意点を解説

抵当権抹消登記の手続方法や必要書類・費用など解説_サムネイル

抵当権抹消登記とは

抵当権とは、住宅ローンを組む際などに、不動産を担保として設定する権利のことです。抵当権が設定されると、ローンの返済が滞った際に債権者が不動産を差し押さえて競売にかけ、売却代金を自己の債権の弁済に充てることができます。

抵当権抹消登記とは、このような不動産に付けられた抵当権設定登記を抹消する手続です。金融機関の抵当権が消滅しても、抵当権の登記が自動的に削除されるわけではなく、金融機関側が手続を進めてくれるわけでもありません。なぜなら、抵当権抹消登記をせずに放置しておいても金融機関にとって不利益はないからです。

そのため、登記簿から抵当権の記載を消すためには、法務局に抵当権抹消登記を申請する必要があります。抵当権抹消登記の申請は、金融機関から必要書類を受け取って自分で手続をするか司法書士へ手続を依頼します。

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抵当権抹消登記を行うべきケース

債務をすべて返済した段階で、設定した抵当権の効力はなくなるため、抵当権を実行されることはありません。しかし、抵当権の登記が残ったままでは第三者からは抵当権が存在している不動産に見えてしまいます。そのため、抵当権が消滅したときは適切なタイミングで抵当権抹消登記手続を行う必要があります。

では、どのようなタイミングで抵当権抹消登記を行うべきか、具体的なケースを3つ紹介します。

不動産を売却してローンを完済するとき

抵当権が付いた不動産を売却する場合、抵当権抹消登記手続を行うのが一般的です。なぜなら、抵当権が残ったままでは売主が住宅ローンを滞納したとき、購入した不動産が競売にかけられる可能性があるからです。このような状態の不動産では買い手が付かず、金融機関が融資をすることもありません。

抵当権を抹消するには住宅ローンの完済が必須ですが、ローンは手持ち資金で支払う方法と不動産の売却代金で支払う方法があります。手持ち資金で返済できれば問題ありませんが、それが難しい場合には抵当権の設定された不動産を売却し、代金をローンの支払いに充てることも可能です。この場合、不動産売買の決済と抵当権抹消登記・所有権移転登記を同日内に行う「同時決済」という方法をとるのが一般的です。

抵当権のある物件を相続するとき

不動産に抵当権が付いている場合、所有者が亡くなって相続が起きたとしても抵当権が消えることはなく、相続人は抵当権付きの不動産を相続することになります。相続人は不動産と合わせて債務も承継し、亡くなった方に代わってローンを返済することになり、ローンを完済した時点ではじめて抵当権の抹消が可能です。

もっとも、抵当権はすぐに抹消しなくても日常生活に支障はないため、ローンを完済してもすぐに手続が行われないことも少なくありません。そこで、亡くなった方がすでに対象となるローンを完済したのにもかかわらず、抵当権抹消登記をする前に亡くなってしまったというようなケースもあります。こういったケースでは、相続人が亡くなった方の代わりに抵当権抹消登記手続を行うことができます。

その物件を担保に新たな融資を受ける場合

抵当権がすでに付いている物件を担保にする場合、融資額が減るもしくは融資が受けられなくなる可能性があるので、抵当権抹消登記をしておくべきです。

抵当権は、先に登記を備えた債権者が優先して弁済を受けられるため、後順位の債権者はその残額の範囲内でしか弁済を受けられなくなります。そのため、すでに抵当権が設定されている不動産を担保とするのはリスクが高く、融資をしにくいのです。

もし抵当権の対象となる借金を完済しているのであれば、新たな融資を受ける際には前の抵当権は抹消しておくとよいでしょう。

抹消登記を放置するデメリット

抹消登記を放置するデメリット_イメージ

抵当権抹消登記手続をしなくても法的な罰則はなく、金融機関に迷惑がかかることもないので、そのままにしていても日常生活における不都合はありません。

もっとも、抵当権設定登記が残ったままだと将来的なデメリットもあるので、具体的にどのようなデメリットがあるのかについて解説します。

不動産が売却できない

抵当権が抹消されているにもかかわらず、抵当権抹消登記がなされていない場合、第三者からは抵当権付きの不動産が残っているようにみえてしまいます。抵当権付きの不動産は競売にかけられるリスクがあるので、抵当権が残ったままでは買い手が付かず、売却するのは難しいでしょう。

ローンをすでに支払い終えているのであれば、売却前に抵当権抹消登記手続をしておく必要があります。

新しいローンが組みにくくなる

抵当権は先に登記を備えた債権者が優先して弁済を受けられるという法律上のルールがあり、後順位の抵当権者ほど弁済が受けられないリスクが高くなります。そのため、抵当権付きの不動産はローンが組みにくいというデメリットがあります。

住宅ローンを組んで不動産を購入した場合、リフォームや増改築などでさらに融資が必要になることもあるでしょう。このようなケースでは、ローンを完済した時点で速やかに抵当権抹消登記手続をしておくことが重要です。

書類を紛失してしまう

抵当権抹消に必要な書類は、住宅ローン完済時に金融機関から送付されます。しかし、ローン完済後に長期間にわたって抹消登記手続をせずにいると、書類を紛失してしまうリスクがあります。

紛失した書類は金融機関で再発行してもらうこともできます。ただし、金融機関の倒産・合併などがあると再発行も難しくなることがあり、抵当権抹消登記をするために裁判上の手続が必要になる可能性があるので、余計な手間がかかってしまいます。

手続が複雑になる恐れがある

抵当権抹消登記をしないまま不動産の所有者が亡くなると、相続が発生して抵当権設定登記が残ったままの不動産を後世へ残すことになります。相続ではただでさえ遺産分割協議などで多くの時間と労力を費やしますが、抵当権抹消登記まで必要になればさらに余計な手間が増えてしまいます。

後世への負担を少しでも減らすには、抵当権抹消登記手続を済ませておくとよいでしょう。

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抵当権抹消登記の手続の流れ

抵当権抹消登記の手続方法と費用について解説します。自分で手続をする場合も、こちらの方法に沿って進めていけば抵当権抹消登記ができるので、順番に確認していきましょう。

  • 不動産の情報を取得する
  • 抵当権の抹消に必要な書類を揃える
  • 登記申請書を作成する
  • 必要書類を法務局に提出する
  • 手続完了に関する書類を受け取る

不動産の情報を取得する

まずは登記事項証明書を取得して、不動産の所有者や権利関係などが認識と違いないか確認しましょう。登記事項証明書は全国の法務局で取得できます。

登記事項証明書を取得するには「地番」や「家屋番号」が必要ですが、これらは毎年届く「固定資産税納税通知書」に記載されています。もし固定資産納税通知書が見つからない場合、不動産の情報が市区町村によってまとめられた「名寄帳」でも確認可能です。

抵当権の抹消に必要な書類を揃える

抵当権抹消登記手続に必要な書類を準備します。必要書類をまとめると、以下のとおりです。

  • 登記識別情報通知
  • 弁済証書もしくは抵当権解除証書
  • 銀行からの委任状
  • 代表者事項証明書
  • 履歴事項証明書
  • 商業登記簿謄本

登記識別情報通知は、銀行が抵当権を設定した際に発行される書類です。

弁済証は、住宅ローンの完済を証明する書類です。銀行の保証会社が抵当権を設定している場合などは、弁済証の代わりに解除証書が送られてくることもあります。

委任状は、住宅ローンの債権者である銀行が抵当権抹消登記手続を委任するための書類です。本来であれば抵当権に関する登記は不動産の抵当権者と所有者が共同して行う必要がありますが、委任状があれば不動産の所有者が単独で抵当権抹消登記手続を行うことができます

代表者事項証明書、履歴事項証明書、商業登記簿謄本は、銀行の登記事項証明書にあたります。融資を受ける銀行は会社なので、これらの登記事項証明書を保有しています。住宅ローンを完済すると、銀行からこれらの書類が届くので、抵当権抹消登記手続をする際には必要書類として保管しておきましょう。

登記申請書を作成する

登記申請書には、登記の目的、登記が変動する原因、登記権利者、登記義務者などを記入して作成し、登録免許税額分の収入印紙を添付します。法務局公式サイトより申請書の様式と記載例をダウンロードできるので、法務局で必要書類を提出するまでの間に作成しておくとスムーズに手続を進められます。

※参照:不動産登記の申請書様式について│法務局

必要書類を法務局に提出する

必要書類を揃え、登記申請書を作成したら、不動産の所在地を管轄する法務局に書類を提出します。管轄の法務局については以下で確認できるので、参考にしてください。

手続完了に関する書類を受け取る

登記が問題なく完了したら、法務局から登記完了証を受領できます。この通知が手元に届いたら抵当権は抹消されています。申請内容が登記に正しく反映されたことを確認するために、その場で登記簿謄本を取得して内容をチェックするとよいでしょう。今回申請した抹消対象の抵当権の欄の文字がすべて下線で記載されているはずです。

手続にかかる費用

抵当権抹消登記にかかる費用は、主に登録免許税、登記事項証明書の発行手数料、司法書士報酬の3つがあります。費用をだれが支払うのかも含めてそれぞれの金額の内訳などについて解説します。

抵当権抹消の費用負担者

抵当権抹消の負担被用者は大きく分けて2つのパターンに分けられます。

  • ローンを完済した場合は所有者
  • 売却する場合は売主

ローン完済後の抵当権抹消費用は、一般的に所有者が負担します。通常、住宅ローンでは債務者と所有者が同一人物であることが一般的です。抵当権抹消登記は本来、抵当権者と所有者の共同申請が原則的な考えですが、実際には所有者が手続を行い、費用も負担します。これは既存の商習慣や住宅ローンの契約書に明記されているためです。

不動産を売却した場合の抵当権抹消の費用は一般的に売主が負担します。その背景として、これはローン完済後と同様に商習慣や売買契約書に基づくものです。一方で、所有権移転登記の費用は買主が負担することが一般的であり、売主は抵当権抹消費用のみを負担します。

登録免許税

抵当権抹消登記の登録免許税は、不動産1個につき1000円です。土地が分筆されている場合にはその数だけ登録免許税がかかり、たとえば3筆の土地であれば登録免許税は3000円です。住宅ローンの場合、土地と建物両方に抵当権が設定される場合が多いため、土地1個と建物1個で登録免許税は2000円になります。

登記事項証明書の発行手数料

抵当権が抹消されたことを登記簿謄本で確認する場合、登記事項証明書を発行しますが、その際に発行手数料が発生します。発行手数料は、法務局窓口での書面請求かオンライン請求かによって異なり、またオンライン請求の場合でも郵送か法務局の窓口で受け取るかによってそれぞれ異なります。

  • 書面請求:600円
  • 送付によるオンライン請求:500円
  • 窓口受け取りでのオンライン請求:480円

司法書士報酬

抵当権抹消登記を司法書士に依頼する場合、手数料が8000円~3万5000円程度かかります。所有権移転登記などに比べると、抵当権抹消登記の司法書士報酬は低額です。手続に手間をかけることなくスムーズに行いたい場合には、司法書士への依頼も検討するとよいでしょう。

※参照:司法書士の報酬と報酬アンケートについて(平成30年1月)|日本司法書士連合会

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自分でやるか司法書士に依頼すべきか

抵当権抹消登記手続をする方法は、司法書士に依頼する方法と自分で行う方法の2つがあります。

手続を自分で行えば費用を抑えられるというメリットがありますが、ケースによっては自分で手続するのが難しいこともあるため、そういったケースでは司法書士への依頼がおすすめです。

司法書士に依頼すべきケースと自分で手続してもよいケースについてそれぞれ解説するので、手続の際の参考にしてください。

司法書士へ依頼すべきケース

司法書士へ依頼すべきなのは、以下のようなケースです。

  • 手続の時間が取れない
  • 不動産が遠方にある
  • 相続などで長期間放置していた抵当権を抹消する

抵当権抹消手続は法務局で行いますが、法務局は平日午前8時30分から午後5時15分までしか開庁しておらず、休日・祝日も開いていません。そのため、法務局の開庁時間に合わせて手続を行えない場合や、そもそも仕事などの都合などで時間を作れない方の場合、司法書士に依頼するのがおすすめです。

また、抵当権抹消登記手続は不動産の所在地を管轄する法務局で行うため、不動産が遠方にある場合は司法書士へ依頼することで、手間を大きく削減できます。

そのほか、長期間放置された抵当権は相続や抵当権者の死亡などによって通常の手続よりも複雑になるため、このようなケースでも司法書士へ依頼するのがよいでしょう。

自分で手続してもよいケース

マイホームを売却して抵当権を抹消する場合など、シンプルなケースであれば手続も難しくないので、自分で手続を行ってもよいでしょう。抵当権抹消登記は登記手続の中では比較的簡単なので、自分でも無理なく行うことができます。

もっとも、まったくの知識がない状態で手続しようとすると、申請書類に不備による補正の手間などで余計な時間と労力がかかることもあります。

抵当権抹消登記は手続が簡単な分、司法書士報酬もほかの登記手続と比較して低額であるため、司法書士に依頼しやすい手続であるともいえます。

抵当権抹消登記の注意点

抵当権抹消手続を行う場合の注意点について解説します。司法書士に依頼する場合は特に問題ありませんが、自分で手続する場合には見落とす可能性もあるのですべて理解しておくようにしましょう。

住所や氏名に変更がある場合、住所変更登記が必要

抵当権抹消登記手続をする際、不動産所有者の現在の住所や氏名が登記簿に記載された内容と変わっている場合、抵当権抹消登記を申請する前提として住所・氏名変更の登記が必要です。

抵当権抹消の登記を先に申請しても、登記簿上の名義人と申請人が一致しないため、登記申請を却下されてしまう可能性があります。

名義人が亡くなっている場合は住宅ローンの完済有無を確認する

名義人が亡くなっている場合は住宅ローンの完済有無を確認し、抵当権抹消登記を行うべきタイミングを把握しておくことが重要です。

住宅ローン完済後に抵当権を抹消しないまま所有者が亡くなり、相続が発生した場合、相続登記の際に抵当権抹消登記ができます。一方、ローンを完済していない場合、遺産分割協議で誰が債務を引き継ぐかを決定し、その相続人が債務を完済したあとで抵当権抹消登記が可能です。

なお、相続によって不動産を取得した場合、抵当権抹消登記手続は相続登記が完了したあとで行うことになります。相続登記は令和6年4月1日から義務化したため、不動産を相続したら必ず相続登記をしなければなりません。相続登記は不動産を取得したことを知った日から3年以内にしなければならず、正当な理由なく申請を怠ると10万円以下の過料が科されます。

書類の中には有効期限があるものもある

金融機関から送られてくる書類には有効期限付きのものがあるので、期限内に手続をしなければ再発行が必要になります。たとえば、代表者事項証明書は発行から3か月以内が有効期限なので、銀行から送られてきたらその期間内に手続を行う必要があります。

再発行などの手間を省くためにも、書類が届いたらできる限り早めに抵当権抹消登記手続を行なうとよいでしょう。

抵当権抹消登記をスムーズに行うなら司法書士へ

抵当権抹消登記をしないままで放置しておくとさまざまな弊害があるので、ローン完済後はできるだけ速やかに手続を行なうようにしましょう。あとから手続しようとすると、必要書類を紛失したり手続が複雑化したりしてしまうリスクもあります。

手続の手間を省き、確実に抵当権抹消登記を行うには、司法書士に依頼するのがおすすめです。司法書士であればスムーズに手続ができ、ミスなく確実に抵当権抹消登記を行うことができます。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載