相続登記と贈与登記(生前贈与)の違いとは?選ぶポイントや減税対策を解説

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相続登記と贈与登記(生前贈与)の違い

相続登記とは、登記簿上の不動産名義を亡くなった方から相続人に移す手続です。相続によって不動産が引き継がれた際に所有権移転登記を行い、亡くなった方から相続人に所有権が移ったことを示すことで、登記簿上正しい情報を記すことができます。贈与登記とは、贈与によって不動産の所有者を変更する際に行う登記手続であり、相続登記と同じく所有権移転登記を行います。

以下では相続登記と贈与登記はどういった点に違いがあるのかを詳しく解説します。

手続方法

法務局で登記手続を行う点は相続登記も贈与登記も変わりませんが、必要書類に違いがあります。

贈与登記の場合は贈与契約書や登記識別情報、固定資産評価証明書などがあれば手続できますが、相続登記では遺産分割協議書や亡くなった方の出生から死亡まですべての戸籍謄本・除籍謄本が必要です。戸籍謄本を読むのに慣れていないと、出生から死亡まですべての戸籍謄本・除籍謄本を収集するのには手間がかかります。

また、相続登記では遺産分割協議書が必要な場合もありますが、非協力的な相続人がいたりすると遺産分割協議が進まず作成が難航する可能性があります。

以上のことから、手続方法を比較すると、一般的には相続登記の方が手間や時間がかかるといえるでしょう。

税金

相続税と贈与税を比較すると、基礎控除の大きな相続税の方が基本的には税金の負担が軽くなります。もっとも、亡くなった方の保有する財産や相続人の状況によっても異なるため、一概にどちらの方が税金が安いということはできません。

また、登記における登録免許税の税率も異なり、相続では不動産価格の0.4%がかかるのに対して、贈与では不動産価格の2.0%がかかります。

義務かどうか

令和6年4月1日より相続登記が義務化されました。不動産を取得した相続人は3年以内に相続登記の申請をしなければならず、この申請を正当な理由なく怠ると10万円以下の過料が科されます。

一方、贈与登記にはこのような法律の決まりはなく、登記を行わないままにしても罰則などはありません。したがって、贈与登記を申請するかどうかは当事者の判断で決めることができます。

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不動産を相続登記で渡すほうが良いケース

不動産を相続登記で渡した方がよいのはどんなケースか、具体的なメリットなどにも触れつつ解説します。

財産額が相続税の基礎控除額以下の場合

相続税は以下のような式で計算します。

課税価格の合計額ー基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)

計算式のとおり、課税価格の合計額が基礎控除額以下であれば相続税がかかりません。これに対して生前贈与の場合、年間110万円を超す額に対して贈与税がかかるため、贈与する金額によっては相続よりも多くの税金がかかるでしょう。

課税価格の合計額が基礎控除額を超えるのは、ある程度高額の不動産が相続される場合に限られるため、相続税の申告が必要になるケースは少ないといえます。したがって、財産額が相続税の基礎控除額以下の場合、基本的にはより税金を安く抑えられる相続登記を選択する方がメリットが大きいといえるでしょう。

相続税の特例による節税効果が大きい場合

相続税には配偶者控除や小規模宅地等の特例などの制度があり、これらを利用できる環境であれば相続登記で渡すのがおすすめです。

配偶者控除を適用すると、配偶者が相続した遺産が1億6000万円まで相続税が非課税になる制度です。また、遺産の額が1億6000万円を超えていたとしても、配偶者の法定相続分までは相続税は課税されません。小規模宅地等の特例は、一定の面積に満たない宅地に対して適用される減税制度であり、最大で80%の相続税が減税されます。

こちらについては、のちほど詳しく解説します。

不動産を贈与登記で渡すほうが良いケース

不動産を贈与登記で渡すほうが良いケース_イメージ

不動産を贈与登記で渡す方がよいケースについて、具体的にどのようなメリットがあるのかに触れつつ解説するので、相続登記を行う場合のメリットと比較してみてください。

相続トラブルになる可能性がある場合

生前贈与は、遺産分割によるトラブルを避ける目的で行われることがあります。親族関係が悪い・遺産が高額といった場合は、遺産分割をめぐって対立やトラブルが起こる可能性があり、調停や審判になることも少なくありません。

そこで、あらかじめ生前贈与をしておけば、遺産分割協議で遺産の分け前について話し合う必要がなくなるので、円滑に遺産分割協議を進められます。

また、生前贈与であれば、自分の意思で財産を譲り渡したい相手を選べるというメリットもあります。そのため、不動産を譲り渡す相手が明確に決まっている場合、贈与登記で不動産を渡す方がおすすめといえるでしょう。

賃貸マンションなど収益物件が建っている場合

所有している不動産が収益物件である場合、相続発生までの家賃収入も相続財産に含まれるため、相続の際に相続税がかかります。しかし、生前に収益物件を贈与すればその後の家賃収入は受贈者の財産となるため、相続税の負担も少なくなります。

そのため、相続が発生する前にできるだけ早い段階で贈与しておけば、家賃収入分の相続税の負担を減らすことができます。

相続まで待たずに財産を早く活用してもらいたい場合

相続はタイミングを選べないので、財産を早く活用してもらいたい場合には贈与登記で不動産を譲り渡すのがよいでしょう。不動産は資産価値の高い財産である反面、活用が難しい財産でもあり、相続まで待っていてはプラスの資産としての運用が難しい可能性があります。

たとえば、遠方に住んでいて不動産を有効活用できないなどの状況では、不動産を相続しても無駄に管理費だけがかかってしまい、かえってマイナスになってしまうこともあるでしょう。

一方、贈与であれば自分で不動産を譲り渡すタイミングを選べます。たとえば、子がマイホームを購入するときに土地を譲り渡すなど適切な状況を選ぶことで、不動産の資産価値を最大限に発揮することができます。

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税金対策で活用できる特例制度

相続や贈与で使える特例制度を3つ紹介します。これらの制度をうまく活用することで大きな減税効果を得られることもあるので、相続登記・贈与登記を行う前に確認しておきましょう。

配偶者控除

配偶者控除は、配偶者が取得した遺産額のうち、次の金額のどちらか多い金額までは相続税がかからない制度です。

  • 1億6000万円
  • 配偶者の法定相続分相当額

たとえば、遺産が1億円で相続人が配偶者と子1人のみであった場合、配偶者の法定相続分は1億円の2分の1で5000万円です。この場合、配偶者の法定相続分相当額よりも1億6000万円の方が大きいため、1億6000万円までであれば配偶者は無税になります。同じ相続人の構成で遺産が6億円であった場合、法定相続分は3億円となり相続税はかかりません。

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例は、相続によって取得した宅地のうち一定の面積までの部分は相続税が減額される制度です。減額される割合は宅地の種類や面積によって異なり、最大で80%の減額が適用されるので、小規模宅地等の特例を活用することで大幅に相続税を減税できる場合があります。

相続開始の直前における宅地等の利用区分 要件 限度面積 減額される割合
貸付事業以外の事業用の宅地等 特定事業用宅地等に該当する宅地等 400㎡

80%

一定の法人に貸し付けられ、その法人の事業(貸付事業を除きます。)用の宅地等 特定同族会社事業用宅地等に該当する宅地等 400㎡

80%

貸付事業用宅地等に該当する宅地等 200㎡

50%

一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業用の宅地等 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 200㎡

50%

被相続人等の貸付事業用の宅地等 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 200㎡

50%

被相続人等の居住の用に供されていた宅地等 特定居住用宅地等に該当する宅地等 330㎡

80%

※参照:相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)│国税庁

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度とは、相続人となる人に贈与した財産について、一定額までは贈与税を納めずに贈与を受けることができる制度です。相続時精算課税制度を使った場合、贈与者が亡くなったときに贈与した財産と相続財産の価額を合計した金額に相続税が課税されます。

相続時精算課税制度には年間110万円の基礎控除と2500万円の特別控除があり、基礎控除の部分には相続発生時にも相続税が課税されません。

相続時精算課税制度のポイントは、贈与の際は非課税であっても基礎控除を超える部分に関しては将来的に相続税が発生するということです。

もっとも相続税にも前述したような基礎控除があるので、相続時精算課税制度と相続税の基礎控除をうまく使うことで税金の負担を軽減できます。

相続登記および贈与登記を選ぶ際の注意点

相続登記と贈与登記をするうえでの注意点を紹介します。どちらを行うべきか迷っている方は、こちらの注意点も参考にしながら適切な手続を行ってください。

どちらのメリットが大きいかは一概に判断できない

相続登記と贈与登記、どちらのメリットが大きいかということについては、亡くなった方の保有する財産や相続人の状況によっても異なるため、一概に判断することはできません。

登記を行う際にかかる登録免許税のほか、相続であれば相続税、贈与であれば贈与税がそれぞれかかります。相続税は不動産以外の財産や相続関係なども含めて計算し、配偶者控除や相続時精算課税の特例などもあります。

これらを考慮すると、相続税と贈与税を単純に比較するのは難しく、正確な金額を出すにはそれぞれの状況に合わせてシミュレーションしてみる必要があるでしょう。

家族間の贈与でも贈与契約書は作成するべき

当事者間で口頭の合意があれば不動産の贈与は可能ですが、あとからトラブルになることを防ぐためにも必ず贈与契約書を作成しましょう。家族間の取引の場合、契約書を作成せずに贈与してしまうこともありますが、相続などが絡むと家族だからこその揉め事に発展するケースもあります。

また、贈与契約書がないと贈与があった証拠が残らず、相続で税務署から生前贈与を認めてもらえない場合があります。生前贈与があった事実を否認されると不動産は相続財産の1つとみなされ、相続税の課税対象になります。

遺留分を侵害すると相続でトラブルになる可能性がある

遺留分とは、遺産を最低限相続できる権利として法律に保障された相続分のことです。生前贈与によって特定の相手に不動産を譲った際、ほかにめぼしい財産がなければ、ほかの相続人から遺留分を請求される可能性があります。

生前贈与を行う際は相続人全員への配慮を忘れず、不満が出るような偏った内容の贈与を行わないよう注意が必要です。

相続登記・贈与登記は司法書士にお任せ

相続の前に生前贈与を行うという手段がありますが、どちらにメリットがあるかは状況によって異なります。それぞれのメリット・デメリットをよく比較したうえで、状況に合わせて最適な方法をとるようにしましょう。

相続登記や贈与登記の手続をスムーズに行うためには、司法書士に依頼するのがおすすめです。司法書士に依頼すれば、書類の収集から法務局での手続まですべて任せられます。登記の手続に不安がある場合には、まず一度司法書士に相談するとよいでしょう。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載