特別代理人(未成年者・障がい者)がいる相続登記で利益相反関係にならないコツ

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相続登記における特別代理人

相続登記をする際、相続人の中に未成年者や障がいのある人がいる場合、保護者とは別に「特別代理人」を選任しなければならない場合があります。通常の代理人とは異なり、法定代理人(親権者や成年後見人)が関与できない法律行為について、本人に代わって行動する役割を担う立場です。

法定代理人が関与できない法律行為での代理人

未成年者の親権者や、障がいの影響で判断能力が不十分な人の成年後見人は、法定代理人として本人の権利を行使することが可能です。例外は、法定代理人と本人が同じ法律行為の当事者となって、利益相反関係と呼ばれる状態に陥ったときが挙げられます。この場合は、法定代理人が本人の利益を減らしてしまうことも考えられるため、別に立てた特別代理人によって本人の権利が行使されます。

特別代理人が必要になる「利益相反関係」とは

利益相反とは、本人と代理人の利害が対立することを指します。親子で1つの不動産を受け継ぐケースを挙げるなら、親が法定代理人の権利を濫用して、子の持分を減らしてまで自分の名義で登記してしまうかもしれません。このような行為を防ぐために、特別代理人を選任し、公正な手続を進める必要があります。

相続登記で特別代理人が必要になるケース

すでに例を挙げましたが、相続登記で特別代理人が必要なのは、本人と法定代理人が揃って相続人になるケースです。事例を大別すると、相続する不動産に対し、親子どちらも権利を有する場合と、成年被後見人(※)とその保護者がどちらも権利を有する場合に分けられます。

※判断能力が不十分となり、後見・保佐・補助いずれかの開始の審判を受けて保護者に代理権が与えられた人

親子で不動産を相続するケース

よくあるのは、祖父・祖母と孫が養子縁組をして、その後亡くなったことで不動産が相続財産となる場合です。孫とその親はどちらも戸籍上の子であるため、揃って相続人となります。この状態では、不動産をどちらのものにするか、孫とその親の共有持分をどうするか、こういった決めごとは特別代理人に委ねられます。

成年被後見人とその保護者が不動産を相続するケース

高齢の配偶者と子が相続人となり、そのときすでに配偶者の認知症が進んでいる状態で、後見開始の審判により子が成年後見人となっている場合が挙げられます。この状態だと、配偶者の住まいや権利を守る必要があり、第三者である特別代理人が配偶者本人に代わって不動産の承継に関する権利を行使します。

特別代理人がいなくても問題ないケース

相続人同士で利益相反関係にならない場合は、特別代理人は不要です。ある人の保護者が、本人の代わりに遺産の取り分について判断しても、保護者の利益には繋がらないような場合です。本人に保護者がいない場合は、未成年者なら親権者を確定させ、成人後に障がいなどの影響で判断能力が低下している人ならば、後見開始の審判をすることによって代理人を立てます。この場合の代理人は、特別代理人ではなく、法定代理人となります。

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特別代理人になるための資格・選任方法

相続登記における特別代理人は、例外的に相続に関わる第三者となるだけに、重要な立場です。ここでは、特別代理人になるための資格要件や、選ばれ方について解説します。

特別代理人になるための資格はない

特別代理人になるために必要な資格要件は、特に定められていません。つまり、法律の専門家でなくても、特別代理人に選任することができます。ただし、特別代理人は未成年者や成年被後見人の利益を守る重要な役割を担うため、その人物の適格性が重要になります。

特別代理人の候補者としては、利益相反関係にない親族や、司法書士などの法律専門家が考えられます。親族が特別代理人になる場合、公正な立場で本人の利益を守ることができる人物であることが求められます。また、司法書士などの法律専門家は、法律知識と経験を活かして、適切な相続手続を進めることができます。

特別代理人の選任は家庭裁判所が行う

特別代理人の選任権限があるのは家庭裁判所です。利益相反関係にある未成年者や成年被後見人の親族、または利害関係人が、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てます。家庭裁判所は、申し立てを受けて、特別代理人の必要性や候補者の適格性を審査し、特別代理人を選任します。選任された特別代理人は、家庭裁判所から選任決定書を受け取り、その権限の範囲内で相続手続を進めることになります。

自分で権利行使できない人がいるときの相続登記

自分で権利行使できない人がいるときの相続登記_イメージ

未成年者や成年被後見人とその保護者が相続人に含まれるときの相続登記は、最初に特別代理人の選任を行い、遺産分割協議を行ってから登記申請します。もっとも、自分で権利行使できない人がいるからといって、必ずしも特別代理人の選任を要するとは限りません。ここでは、手続方法をざっくりと解説します。

未成年者が相続人に含まれるときの手続方法

特別代理人の選任が相続登記のための手続に含まれるのは、未成年者とその保護者が同じ被相続人について相続することになった場合です。このときは、相続登記の内容(不動産の権利を誰のものにするのか)を決めるにあたって特別代理人が関わり、登記申請でも特別代理人に関する書類を提出します。

一方で、同じ相続について未成年者だけが相続人になる場合、上記の取り扱いはありません。ただし、利益相反関係と言えるかどうかは個別の判断となり、念のため司法書士に確認をとってみるようおすすめします。

成年被後見人が相続人に含まれるときの手続方法

成年被後見人が相続人になる場合も、同様に、成年後見人(保護者にあたる人)も同じ相続について相続人なのであれば、相続登記の内容を決める段階で特別代理人が必要です。また、相続登記が完了するまでのあいだに、保護される立場であることを示す後見登記の登記事項証明書を求められます。

一方で、成年後見人だけが相続人になる場合など、利益相反の恐れがなければ、やはり上記の取り扱いはありません。詳細は、親族関係や相続の状況を司法書士に伝え、確認をとってみるのがベターです。

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特別代理人がいる場合の相続登記の流れ

相続登記において特別代理人を必要とする場合、手続はどのように進めるべきでしょうか。ここでは、未成年者や成年被後見人のために特別代理人が関与するケースについて、特別代理人の選任から相続登記申請までの流れを中心に解説します。

特別代理人の選任手続を進める

相続が開始したら、本人の住まいを管轄する家庭裁判所で家事審判の申し立てを行い、特別代理人の選任をしてもらいます。申し立てられるのは、保護者およびそのほかの相続人などの利害関係者です。必要書類や費用は以下のとおりです。

特別代理人の選任手続の必要書類(下記すべて必要)

  • 家事審判の申立書
  • 保護者の戸籍謄本
  • 未成年者または成年被後見人の戸籍謄本
  • 特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
  • 利益相反に関する書類(相続した不動産の登記事項証明書など)
  • 後見登記の登記事項証明書(本人が成年被後見人の場合)

申し立てにかかる費用

未成年者または成年被後見人1人につき800円+連絡用切手代(収入印紙で納付)

特別代理人が選任されると、家庭裁判所から選任審判書が交付されます。選任された特別代理人は、この決定書に基づいて、未成年者や成年被後見人の代理人として相続手続を進めることになります。特別代理人は、相続人の一員として遺産分割協議に参加し、本人の利益を守るために行動します。

相続人および特別代理人で遺産分割協議を行う

選任された特別代理人は、本人以外の相続人らと遺産分割協議を行います。遺産分割協議では、相続財産の範囲や分割方法、相続人ごとの相続分などを話し合います。特別代理人は、未成年者や成年被後見人の利益を守るために、公平な立場で協議に参加します。

遺産分割協議が整った後は、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には、相続人全員および特別代理人の署名押印が必要です。特別代理人は、本人の代理人として協議書に署名押印します。遺産分割協議書は、相続登記申請の際に必要な書類の1つです。

管轄の法務局で相続登記を申請する

遺産分割協議が整い、必要書類が揃ったら、管轄の法務局で相続登記を申請します。相続登記申請に必要な書類は以下のとおりです。

  • 登記申請書
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本+相続人全員の戸籍謄本
  • 被相続人の住民票除票の写しまたは戸籍附票
  • 遺産分割協議書・署名押印した人の印鑑登録証明書
  • 固定資産税評価証明書(登録免許税の計算に必要)
  • 特別代理人に関する書類

相続登記申請は、法務局の窓口で行います。申請書類を提出し、登録免許税を納付します。法務局で書類の審査が行われ、問題がなければ、相続登記が完了します。登記が完了すると、相続人ごとの所有権の移転が登記簿に記録されます。なお、特別代理人に関する書類については以下で詳しく解説します。

特別代理人に関する書類とは

相続登記で必要な特別代理人がいる場合の書類とは、その代理人について資格などを証明する書類を指します。必要になるのは、以下の3点です。

  • 選任審判書審判所(特別代理人が決定したときに交付されたもの)
  • 特別代理人の戸籍謄本+住民票または戸籍附票
  • 特別代理人の印鑑登録証明書

戸籍謄本や住民票などは、選任申し立ての際にも必要になるため、手続のはじめに2通ずつまとめて取得しておくと良いでしょう。戸籍に関しては、令和6年3月から最寄りの役場から全国の戸籍情報を取得できるようになり、本籍地役場に行く必要はありません。

未成年者・被後見人を交えた相続登記の注意点

相続登記において、未成年者や成年被後見人が相続人に含まれる場合、特別代理人を選任して手続を進める必要があります。しかし、単に特別代理人の肩書きが誰かにあれば良いとの考えで選任していては、トラブルのない円滑な手続は期待できません。ここでは、未成年者・被後見人を交えた相続登記の注意点について解説します。

特別代理人の候補者は信頼できる人とする

特別代理人は、未成年者や成年被後見人の権利を守るために重要な役割を担います。そのため、特別代理人には、本人の利益を最優先に考え、公正な立場で職務を遂行できる人物を選ぶ必要があります。特別代理人の候補者としては、本人との利益相反がなく、信頼できる親族や、司法書士などの法律専門家が適任です。

特別代理人には、法律知識だけでなく、高い倫理観と誠実さが求められます。特別代理人は、本人の財産管理や法律行為を行う権限を持つため、その権限を濫用せず、本人の利益のために行動しなければなりません。特別代理人の選定にあたっては、候補者の人柄や価値観を十分に考慮する必要があります。

本人の利益に最大限配慮する

未成年者・被後見人を交えた相続登記では、本人の利益に最大限配慮することが重要です。特別代理人は、本人の意思を尊重しつつ、本人の利益を守るために行動できる人物であるよう求められます。相続手続の過程で、特別代理人は本人の財産状況を把握し、遺産分割協議では公平な分割を目指す必要があります。

また、特別代理人の権利濫用にも注意が必要です。その権利を濫用し、登記した不動産の権利または共有持分を不当に低い価格で売却したり、私的に利用したりすることは認められません。適格性の判断は家庭裁判所に委ねられますが、この点でも信頼できる人物を候補者に立てる必要があります。

未成年者の場合は相続税の控除が使える

相続人に未成年者が含まれるケースでは、特別代理人の要否にかかわらず、相続税申告で未成年者控除を適用するのを忘れないようにしましょう。1年につき10万円、成人するまでの年数に相当する分を、未成年者本人の法定相続分に相当する相続税額から控除できる制度です。

特別代理人を必要とするケースでは、税額の控除など、ほかに必要な手続をつい忘れがちです。事前に司法書士に相談しておくと、先々で何をすればいいのか明確になるでしょう。

相続登記での特別代理人は司法書士が適役

相続登記で特別代理人が必要になった場合、遠縁の親戚などに頼むより、士業に依頼したほうがベターと言えます。なかでも司法書士は、不動産登記の専門家であり、土地・建物の権利に関する登記に精通しています。年齢や障がいの影響で立場の弱い人に配慮して、不動産の分割方法や、負担の少ない登記申請の方法を提案できるのは、司法書士ならではのメリットです。

未成年者や認知症と診断された人がいる相続や、不動産の名義変更などの法律行為は、本人の権利の保護にいっそう注意を払いましょう。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載