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離婚・財産分与による不動産の名義変更とは
離婚時に不動産を財産分与する場合、不動産の名義変更が必要になるケースがあります。その際、住宅ローンが残っているときは特に注意が必要です。
住宅ローンの名義を変更せずに不動産の名義変更をすることもありますが、後々トラブルになるおそれがあります。離婚時に財産分与の取り決めをしたら、速やかに不動産の住宅ローンの名義変更を行うようにしましょう。
ここではまず財産分与や不動産の名義変更、ローンの名義変更などについて解説します。
離婚・財産分与による不動産の名義変更とは
財産分与とは、夫婦が婚姻中に築いた財産を離婚の際に分配する制度です。基本的には夫婦の収入の差にかかわらず、2分の1ずつ財産を分けることになります。財産分与には共有名義・単独名義を問わずすべての財産が含まれ、不動産も財産分与の対象となります。
財産分与で不動産の名義変更をする場合、法務局で所有権移転登記手続を行います。登記の手続は夫婦共同で行う必要があり、相手方からの協力を得られないと手続ができません。
また、住宅ローンを組んでいた場合、不動産の名義変更と合わせてローンの名義変更もする必要があります。所有権移転登記は法務局で行う手続であるのに対し、住宅ローンの名義変更は融資を受けた金融機関で行う手続なので、それぞれ手続をする機関が異なることに注意してください。
手続について
離婚・財産分与による名義変更を行う際は、必要書類を収集・作成などの事前準備を行ったうえで、法務局で所有権移転登記手続を行います。名義変更の手続は自分で行うことも可能ですが、手間を削減するためには司法書士に依頼するのがおすすめです。
具体的な手続の流れや、どのような場合に司法書士に依頼すべきかということについては、のちほど詳しく解説します。
費用について
不動産の名義変更をするうえでは必要書類を集めなければなりませんが、必要書類の中には住民票・印鑑登録証明書・戸籍謄本など、市区町村で発行するのに手数料がかかるものがあります。
また、不動産の名義変更をするには法務局での所有権移転登記手続が必要であり、登記手続には登録免許税がかかります。ほかにも税金として譲渡所得税なども発生するので、これらの税金も不動産の名義変更における費用といえるでしょう。
あとは、手続を司法書士などの専門家に依頼する場合、専門家に支払う報酬がかかります。
以上が不動産の名義変更にかかる費用です。具体的にどのような費用がいくらくらいかかるのか、また自分で手続するべきか、それとも専門家に手続を依頼すべきかの判断基準などについては、次章以降で詳しく解説します。
自分で手続するかどうかの判断ポイント
不動産の名義変更は、自分で手続をするほかにも司法書士や弁護士といった専門家に依頼して手続を代理してもらうことが可能です。
自分で手続をするメリットは、費用が安く済むということです。司法書士に依頼すると3~12万円程度の費用がかかるので、費用をできるだけ安く抑えたい場合には自分で手続をするのがおすすめです。
ただし、不動産の名義変更には手間がかかるので、司法書士や弁護士に依頼した方がよいケースもあります。それでは、具体的にどのようなケースで司法書士や弁護士に依頼すべきなのか、以下で解説します。
住宅ローンが残っている
住宅ローンを組んでいる場合、不動産の名義変更をするにあたってローンの名義変更も必要です。ただし、ローンの名義変更は誰でも簡単にできるわけではなく、新たにローンを契約する人の返済能力が十分にあることが金融機関に認められた場合に限られます。なぜなら、ローンの名義人が変更することで返済が滞るリスクがあるからです。
この場合、不動産の名義変更をするためにはローンの契約をしている金融機関との調整も必要です。新しい契約者の収入状況などによっては住宅ローンの名義変更が認められない場合もあるでしょう。
このような金融機関と調整する手間を削減し、円滑に住宅ローンの名義変更を行いたい場合には、司法書士に依頼するのがおすすめです。
財産分与に関して揉めている
財産分与の話し合いがスムーズに進む場合は問題ありませんが、離婚の際に財産分与に関して配偶者と揉めるケースも少なくありません。その場合、配偶者が名義変更の手続に協力してくれないこともあり、場合によっては裁判が必要なケースもあります。
このように、財産分与で揉めているようなケースでは、弁護士に依頼して手続を代理してもらうことも可能です。
自分で名義変更する際の流れ・手続方法
自分で名義変更の手続をする流れは、以下のとおりです。
- 物件調査
- 書類収集
- 登記申請書の作成
- 法務局へ申請
- 申請完了後の手続
それぞれの内容について解説するので、自分で手続を行う場合は以下の流れに沿って進めましょう。
物件調査
登記事項証明書を取得し、不動産の所有者を確認します。登記事項証明書には、財産分与契約書や登記申請書などの書類を作成するうえで必要な情報が記載されています。
登記事項証明書を取得するには「地番」や「家屋番号」などが必要なので、毎年届く固定資産税納税通知書を確認して事前にチェックしておきましょう。固定資産納税通知書が見つからない場合、市区町村にある名寄帳でも同じ情報を確認できます。
書類収集
離婚にともなう不動産の名義変更には、以下の書類が必要です。
- 登記申請書
- 譲り渡す側の印鑑登録証明書
- 譲り受ける側の住民票
- 固定資産評価証明書
- 権利証もしくは登記識別情報
- 夫婦どちらか一方の戸籍謄本
- 財産分与契約書
- 離婚協議書
登記申請書、財産分与契約書、離婚協議書の3点は、自分で作成する書類です。登記申請書は所有権移転登記に必須の書類ですが、財産分与契約書、離婚協議書は任意で作成する書類です。
印鑑登録証明書、住民票、戸籍謄本などは市区町村で発行できる書類なので、手続を行うまでの間に準備しておきましょう。
書類作成
所有権移転登記を行う際、法務局で登記申請書を提出します。登記申請書には登記の目的や原因をはじめとしたいくつかの記入事項があるので、あらかじめ作成したうえで法務局へいきましょう。
法務局公式サイトから記載例がダウンロードできるので、申請書の様式を参考にしながら必要事項を記入します。
法務局へ申請
必要な書類が揃ったら、不動産の所在地を管轄する法務局で所有権移転登記手続を行います。管轄については以下ページで確認することができます。
申請完了後の手続
登記が完了すると、以下の書類を受け取れます。
- 登記識別情報通知書
- 登記完了証
- 戸籍謄本などの返却書類
登記事項証明書を発行すると、新たな名義人が記載されていることを確認できるので、実際に登記事項証明書を取得して確認してみるとよいでしょう。
自分で名義変更する際にかかる費用
自分で不動産の名義変更をするにあたっては、以下のような費用がかかります。
- 税金
- 必要書類の発行手数料
それぞれの内訳や金額などについて解説するので、手続にどれくらいの費用がかかるのかを把握しておきましょう。
税金
不動産の名義変更にかかる主な税金は、以下のとおりです。
- 贈与税
- 登録免許税
- 譲渡所得税(復興特別所得税、住民税含む)
贈与税
財産分与は、贈与税は分与された財産が多すぎる場合や、税金の負担を免れるために離婚したとみなされた場合を除き、課税されません。そのため、基本的には非課税になると考えてよいでしょう。
登録免許税
登録免許税は不動産登記の際にかかる税金で、以下の計算式で金額を計算します。課税標準は、固定資産課税明細書の価格から1000円未満を切り捨てた金額です。
登録免許税=課税標準×税率(2.0%)
譲渡所得税
譲渡所得税を計算するには、まず課税額の元になる譲渡所得を計算します。
譲渡所得=譲渡収入金額ー(取得費+譲渡費用)
譲渡所得がゼロ以下になる場合、譲渡所得税は課税されません。つまり、譲渡所得税が課税されるのは、譲渡によって得られる収入が取得の際にかかった費用を超えた場合のみということになります。
さらに、マイホームを譲渡した場合には3000万円の控除が適用されます。そのため、譲渡所得が3000万円以上にならない限り、譲渡所得税は発生しません。
必要書類の発行手数料
市区町村の窓口で書類を発行するには、手数料がかかります。以下は不動産の名義変更に必要な書類の発行手数料一覧です。
必要書類 | 手数料 |
---|---|
登記事項証明書 | 480~600円 |
住民票の写し | 200~300円 |
固定資産評価証明書 | 200円~400円 |
印鑑登録証明書 | 200円~300円 |
戸籍謄本 | 450円 |
住宅ローンの名義変更について
住宅ローンが残っている場合、不動産の名義変更の手続が複雑になるため、住宅ローンの名義変更についても理解しておく必要があります。ここでは住宅ローンの名義変更についていくつかのケースに分けて詳しく解説するので、住宅ローンの名義変更をどのようにすればよいかを把握しておきましょう。
住宅ローンの名義変更をする方法
不動産の名義変更をする前にはまず、離婚によって名義変更をする旨と住宅ローンの債務者を変更する旨を金融機関に伝える必要があります。
住宅ローンの債務者を変える際は、新たな契約者の資力について審査があり、審査が通らず変更できない場合も起こり得るでしょう。そうした場合には、別の金融機関に借り換えを検討したり連帯保証人を付けたりする必要があります。借り換えとは、新たに名義人となる人がほかの金融機関で住宅ローンを組み、残債を支払うことです。
金融機関の承諾を得ずに名義変更をした場合、契約違反となって残債務を一括して請求される可能性があるので、無断で名義変更を行わないよう注意してください。
配偶者が連帯保証人になっている場合
配偶者が住宅ローンの連帯保証人になっている場合がありますが、連帯保証は離婚後も継続するため支払いが滞ると連帯債務者に請求がいってしまいます。離婚後に連帯保証契約を解除する場合、金融機関に相談して連帯保証人からはずしてもらう必要があります。
ただし、離婚したからといって連帯保証人を必ずはずしてくれるわけではないので、代わりの連帯保証人を探したり別の金融機関に借り換えを検討する必要があります。
不動産が共有名義になっている場合
不動産が共有名義になっている場合、離婚後に夫婦のどちらが住み続けるにしても住宅ローンの名義変更をしなければなりません。その際、連帯債務で住宅ローンを借りているなら名義人とならない方は連帯債務を抜けることになり、ペアローンで借りているならローンを返済して債務者を変更する手続が必要です。
そのため、この場合も金融機関との調整は必須といえるでしょう。
司法書士に依頼して確実かつスムーズな登記手続を
本記事で紹介した手順に沿って所有権移転登記手続を行えば、不動産の名義変更を自分で行うことができます。ただし、ケースによっては自分で行うのが難しい場合もあるので、その場合には司法書士に依頼して手続を代行してもらいましょう。
司法書士に依頼すれば、必要書類の収集・作成や書類の提出、登記識別情報通知の受け取りなど、すべての作業を任せられます。司法書士費用の負担はありますが、スムーズかつ確実に名義変更するためには司法書士の力が役に立ちます。