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相続登記における法定相続情報証明制度とは
相続手続では、被相続人の出生から死亡までの戸籍や相続人の戸籍、住民票の写しなど、多くの書類が必要です。しかし、これらの原本を銀行などに1つずつ提出するのは時間がかかり、複数取得するには費用がかかります。こうした問題を解決するため、平成29年に「法定相続情報証明制度」が導入されました。この制度により、戸籍の代わりに「法定相続情報一覧図」というA4用紙1枚を提出でき、手続を簡略化できるようになりました。
制度の創設背景
法定相続情報証明制度は、相続登記がなされないままの所有者不明土地や空き家問題を解決する手段として創設されました。これまでは相続登記が義務ではなく、相続登記が未了のままで放置される不動産も多かったため、手続を簡便化することによって相続登記の促進を図ったのです。
なお、相続登記は令和6年4月1日から義務化され、期限内に相続登記の申請をしないと10万円以下の過料が科されます。このことから相続登記未了の状態で不動産を放置しておくことはできなくなります。
法定相続情報証明制度を利用するメリット
法定相続情報証明制度を利用することで、相続人は大量の戸籍を各機関に提出する手間や、同じ戸籍を複数取得する費用を削減できます。また、この制度は銀行などの手続きを受ける側にも大きなメリットがあります。従来は相続手続きの際に、銀行側が膨大な戸籍原本を1枚ずつ確認する必要がありましたが、この作業は時間がかかり、相続手続きの遅延を引き起こす要因にもなっていました。
法定相続情報一覧図を利用すれば、戸籍の確認作業は法務局が既に行っているため、銀行側はこの一覧図を確認するだけで済みます。これにより、銀行も戸籍確認の負担から解放され、手続きを迅速に進められるようになります。
さらに、法定相続情報一覧図は無料で何通でも発行可能です。したがって、一度戸籍を揃えれば、その後の追加費用はかからず、複数の銀行で同時に手続きを進めることができます。
逆に戸籍の提出先が少ないような場合は、法定相続情報証明制度の利用価値は低くなると言わざるを得ません。あくまで、戸籍を複数の提出先に提出すること煩雑さを解消するための制度なので、自身のケースに当てはめて利用するか否かを検討する必要があります。
法定相続情報証明制度を利用できる人
法定相続情報証明制度を利用できるのは、基本的に被相続人の法定相続人のみです。加えて、法定相続人が未成年の場合には親、また法定相続人が成年後見制度を利用している場合は後見人といった法定代理人も、この制度を利用することができます。
さらに、法定相続人が信頼する代理人に委任することで、その代理人が制度を活用することも可能です。この場合、法定相続人からの委任状が必要になりますが、誰でも代理人になれるわけではありません。代理人として認められるのは、民法で定められた親族(6親等内の血族や配偶者、3親等内の姻族)に限られています。また、司法書士や弁護士といった専門資格を持つ代理人も該当します。
たとえば、法律に詳しい友人や近所の人に頼んでも、その人が法的な資格や親族関係を持っていない限り、代理人として手続を進めることはできません。代理人の選任には十分な注意が必要です。
利用するための必要書類と手続方法
法定相続情報証明制度を利用するための必要書類と、手続方法について解説します。
なお、本制度の申し出は法定相続人が行いますが、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士のいずれかであれば代理で申し出が可能です。
戸籍謄本など必要書類を集める
法定相続情報証明制度を利用するには次の書類が必要です。
- 被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍関係の書類
- 被相続人の住民票(除票)
- 相続人の戸籍謄本(または戸籍抄本)
- 申出人の身分証明書(運転免許証・マイナンバーカード・住民票記載事項証明書のいづれか)
- 法定相続情報一覧図
- 申出書
なお、令和6年3月1日からは、被相続人の戸籍を取得する際に複数の自治体から戸籍発行が必要になった場合、一部コンピューター化されていないものを除いて最寄りの自治体でまとめて請求できるようになりました。そのため、これまでよりも戸籍関係の書類を簡単に収集できます。法定相続情報一覧図や申出書の書き方については後述で解説します。
このほかに、場合によっては次の書類も必要です。
- 各相続人の住民票の写し
- 委任状
- 申出人と代理人に親族関係があることがわかる戸籍謄本
- 手続を代理する資格があることがわかる身分証明書の写し
各相続人の住民票の写しは、法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載する場合に必要となります。法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載するかどうかは任意なので、記載が不要であれば用意する必要はありません。
委任状および申出人と代理人に親族関係があることがわかる戸籍謄本は、委任によって代理人が手続をする場合に求められ、手続を代理する資格があることがわかる身分証明書の写しは、弁護士や司法書士などが代理で手続を行う際に必要です。
法定相続情報一覧図を作成する
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本をもとに法定相続情報一覧図を作成します。作成方法については、のちほど詳しく説明します。
なお、数次相続の場合には2つの相続を1つの法定相続情報一覧図にまとめることができません。数次相続とは、被相続人が亡くなったあと、遺産分割協議の成立前に相続人が亡くなり、次の相続も同時に進めることです。
この場合、それぞれの相続で法定相続情報一覧図を作成する必要があります。
法務局へ申し出る
法定相続情報一覧図を作成したら、必要書類と合わせて管轄の法務局へ提出します。管轄は、以下のどれかに当てはまる法務局です。
- 被相続人の最後の住所地を管轄する法務局
- 被相続人の最後の本籍地を管轄する法務局
- 相続の対象となる不動産の住所地を管轄する法務局
- 申出人の住所地を管轄する法務局
直接法務局に行けない場合、郵送での提出も可能です。その際の郵送代は自己負担になり、返信用封筒を用意する必要があります。
「法定相続情報一覧図の写し」が発行される
申し出が完了すると、登記官が内容を確認したうえで、法定相続情報一覧図が発行されます。一覧図の写しには偽造防止のために登記官による認証文が記載されており、相続登記をはじめとした各種の相続手続に利用できます。
法定相続情報一覧図の写しは必要な枚数を無料で発行できるので、届出先の分だけ発行しておきましょう。申し出の際に提出した法定相続情報一覧図は法務局で5年間保存され、その期間内であれば写しを再発行できます。
法定相続情報一覧図の写しは、以下のような手続に利用できます。
- 相続登記
- 預貯金の払い戻し
- 銀行口座・証券口座などの名義変更
- 相続税の申告
- 死亡保険の請求
- 遺族年金・死亡一時金などの請求
法定相続情報一覧図の書き方
法定相続情報一覧図を作成する際は、戸籍謄本から被相続人と相続人の関係を読み取り、戸籍に記載されたとおり正確に書かなければなりません。形式としては、手書きでもパソコン入力でも可能です。
被相続人欄、相続人欄、申出人欄に分け、それぞれの記載内容をまとめると、以下のとおりです。
相続関係者 | 記載事項 | 注意点 |
---|---|---|
被相続人 | 最後の住所 出生年月日 死亡年月日 氏名 |
最後の住所は住民票の除票をもとに記載 最後の本籍地の記載は任意 |
相続人 | 出生年月日 続柄 氏名 |
住所の記載は任意※1 |
申出人 | 法務局に申し出る人の氏名の横に「(申出人)」と記載※ | – |
※記載例では法務一郎が申出人になっています。
被相続人の最後の本籍についての記載は任意になりますが、相続登記に使用する場合は記載しておくことをおすすめします。また、相続人の住所も任意になりますが、こちらも相続登記に利用する場合は、住民票の写しの提出が求められます。提出の手間を省くためにも、相続人の住所は記載しておいた方がよいでしょう。また、これ以上記載することがない証明として「以下余白」と忘れずに記載しておきましょう。
続柄の記述についても注意が必要です。夫や妻を「配偶者」、長女や長男を「子」と記載することは問題ありませんが、相続税の申告手続に利用できない場合があるので、戸籍の記載にあわせた方がよいでしょう。
必要な情報を記載したら、記載例のように被相続人と相続人の関係がわかるように線で結びます。末尾には作成日と作成者の住所を記載したうえで、署名または記名・押印します。用紙の下から5cm程度は空白にして、認証文を記載するスペースを空けておきましょう。
法定相続情報一覧図の注意点
法定相続情報一覧図には、法定相続人のみが記載されます。離婚した配偶者や死亡前に離縁した養子など、法定相続人でない人は記載されませんが、遺産を受け取らない人や相続放棄した人でも法定相続人であれば記載されます。代襲相続が発生した場合は代襲相続人を記載し、亡くなった相続人は「被代襲者」として死亡日だけを記載します。
1枚の一覧図に複数の被相続人を記載できないため、数次相続などの場合は被相続人ごとに別々の一覧図を作成する必要があります。さらに、相続人の廃除があった場合、その人は法定相続人として記載されません。また、遺産分割で相続持分が変わっても、一覧図には持分を記載できない点にも注意が必要です。
申出書の書き方
最後に、法務局に提出するための申出書を作成します。申出時に提出する申出書の書き方について、法務局の記載例を参考にしながら解説します。
申出年月日 | 申出書を提出する年月日を記入 |
---|---|
被相続人の表示 | 被相続人に関する情報を記入 |
申出人の表示 | 申出人に関する情報を記入 |
代理人の表示 | 代理人が申し出る場合に記入 |
利用目的 | 利用目的を選んでチェックを入れる |
必要な写しの通数・交付方法 | 一覧図の写しの必要枚数と受取方法を記入 |
被相続人名義の不動産の有無 | 「有」「無」どちらかにチェックを入れ、「有」の場合は不動産に関する情報を記入 |
申出登記所の種別 | 申出登記所の種別いずれかにチェックを入れる |
申出登記所 | 申出登記所の名称を記入 |
申出書の様式は法務省公式サイトからダウンロードできるほか、法務局でも入手可能です。申出は郵送で行うこともでき、その場合、返信用封筒と切手を同封します。提出した戸籍や住民票は全て返却されますが、本人確認資料として提出した住民票の写しは返却されませんのでご注意ください。
窓口返却を希望する場合は、申出時に交付される引替え札と本人確認書類(運転免許証など)を持参する必要があります。なお、法務局によって手続きの詳細が若干異なることもあります。
法定相続情報証明制度を進めるうえでの注意点
法定相続情報証明制度を利用するうえでの注意点を紹介します。間違いやすい事例や手続上の注意点を知っておくことで、正しく手続できるようにしておきましょう。
法定相続情報一覧図と相続関係説明図は別物
法定相続情報一覧図と似たものに、相続関係説明図というものがあります。
相続関係説明図があると提出した戸籍謄本などの原本の還付を受けられるため、相続登記の際に作成して提出することがありますが、相続関係説明図は法務局から認証を受けた書面ではなく書き方に決まりもありません。そのため、法定相続情報一覧図とは異なり、相続関係説明図を提出しても戸籍謄本などの書類の提出を省略することはできません。
両者は内容も似ていますが、使い道がそれぞれ異なるので混同しないよう注意しましょう。
相続放棄や遺産分割協議の内容は反映されない
相続人の1人が相続放棄したことや、遺産分割協議によって誰がどの財産を相続するかといったことは、法定相続情報一覧図には反映されません。法定相続情報一覧図は戸籍に代わる書類であり、遺産分割協議書に代わるものではないため、相続発生後の事情は反映されないのです。
ただし、相続人の廃除があった場合は法定相続情報一覧図に反映されます。相続人の廃除とは、一定の条件を満たした相続人から相続の権利をはく奪するものです。廃除は戸籍に記載される内容であるため、法定相続情報一覧図にも反映されます。
戸籍謄本などの束以外の添付書類は必要
法定相続情報一覧図は戸籍の代わりになる書類であり、そのほかの添付書類まで提出を省略できるわけではありません。
たとえば、遺産分割協議を行った場合、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑登録証明書が必要であり、遺言の内容に従った相続であれば遺言書の提出も必要です。また相続登記の申請を司法書士などに委任した場合、委任状を添付する必要があります。
ケースによって相続登記の必要書類は異なるので、法定相続情報一覧図のほかにどんな書類が必要になるかは、ケースに応じて確認しなければならないことに留意してください。
一覧図の写しの保存期間は5年間
法定相続情報一覧図は何度でも再交付してもらえますが、保存期間が申し出た日の翌年から起算して5年間と定められています。保存期間を過ぎると再発行できないので、相続手続に法定相続情報一覧図が必要な場合、保存期間内に手続を行うようにしましょう。
期間経過後に交付を受けたいときは、再度法定相続情報一覧図を作成して法務局から認証を受ける必要があります。
すべての機関で扱えるわけではない
法定相続情報一覧図の写しは、銀行や証券会社などによって受け付けてもらえない場合があります。法務局で行う相続登記には使用できますが、そのほかすべての機関で使えるわけではないことに注意してください。
金融機関などで法定相続情報一覧図の写しを使用する際は、あらかじめ利用できるかどうか確認しておくとよいでしょう。
利用するには被相続人・相続人全員が日本国籍であること
法定相続情報証明制度は、戸籍の記載内容を関係図に表した制度であるため、戸籍情報という制度がない海外において、外国籍がいる場合は当制度を利用することはできません。逆に海外在住であっても日本国籍を有している場合は、制度を利用することは可能です。
法定相続情報証明制度の準備や相続登記は司法書士へ
法定相続情報一覧図は相続登記をはじめ、さまざまな手続で利用できます。複数の届出先がある場合、法定相続情報証明制度を活用すれば効率的な手続が可能でしょう。ただし、法定相続情報一覧図は戸籍の代わりになる書類であり、そのほかの添付書類まで提出を省略できるわけではありません。
相続登記の提出書類はケースによっても異なるので、手続に不安がある場合はぜひ司法書士にご相談ください。法定相続情報証明制度の利用方法から相続登記まで、一貫してサポート可能です。司法書士に依頼することで、相続登記の手続を手間なくスムーズに行うことができます。