墓地の定義
墓地と聞くと、寺院の境内や霊園に並んでいるお墓をイメージする方も多いと思いますが、正確にはお墓を建てる土地のことを指します。
墓地は以下の4種類に分類されます。
寺院墓地 | 寺院が運営している墓地 |
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民営墓地 | 公益法人や宗教法人が運営している墓地 |
公営墓地 | 地方公共団体が運営している墓地 |
個人墓地 | 地方公共団体や寺院、法人以外の個人が所有している墓地 |
どの種類の墓地であるかによって登記手続の内容が異なるので、それぞれの種類について解説します。
寺院墓地
寺院墓地はお寺の境内や寺院に隣接する敷地に設けられ、お寺が直接管理・運営する墓地です。寺院の檀家や門徒・信徒のための墓地であり、お寺とのつながりが強いのが特徴で、葬祭や供養を優先的に行ってもらえるというメリットがあります。墓地のすぐそばに僧侶がいるという安心感もあるでしょう。
寺院墓地を使用する場合、永代供養費・管理費・お布施などの費用がかかります。永大供養費は寺院によってさまざまであり、おおよそ20~200万円程度です。遺骨をほかの人と混ぜて納骨する合祀墓であれば比較的安く、逆に個別の墓石を建てて納骨する単独墓は費用が高い傾向にあります。
管理費も永大供養と同じく寺院によって異なり、5000円~2万円程度かかります。また、檀家になるとお布施も必要です。お布施の金額に決まりはありませんが、一般的には葬儀が10~50万円、法要が1~10万円、一周忌が1~5万円程度です。
民営墓地
民営墓地(霊園)とは、公益法人・財団法人・宗教法人などの団体によって運営されている墓地・霊園のことをいいます。寺院墓地のように檀家にならなければいけないといったような条件がなく、基本的に誰でも申し込み可能です。
民営墓地は営利目的でもあるため、各社が利用者のニーズに合ったサービスを提供できるようさまざまな工夫をしており、特色豊かでハイクオリティな墓地も多いのが特徴です。バリエーション豊富で、予算に合わせた墓石や区画のデザインを選べます。
ただし、ほかの墓地に比べて高額な傾向にあるので、費用をできるだけ抑えたいという方にはおすすめできません。
公営墓地
公営墓地とは、地方公共団体が運営・管理している墓地のことです。公営墓地は公共サービスの一種であるため、寺院墓地や民営墓地と比べて費用が安いのがメリットです。
公営墓地は誰でも申し込めるわけではなく、その自治体に住んでいる人もしくは本籍がある人に限られます。また、利用希望者が多い場合、抽選で利用者を決めるので、当選しない可能性もあるというのがデメリットです。
使用名義人が亡くなった場合には、その墓地を運営している地方自治体が定める方法で、名義人の変更を行う必要があります。
個人墓地
登記名義が個人になっている墓地を、個人墓地といいます。個人墓地のなかには一部の例外として違法な「無許可墓地」もありますが、それ以外は基本的に「みなし墓地」というものに該当します。みなし墓地は「墓地、埋葬等に関する法律」が施工されるよりも前に行政の許可を受けた墓地のことです。
寺院墓地・民営墓地・公営墓地と比べて個人墓地の数は多くありませんが、先祖代々引き継がれている墓地などのなかには個人墓地もあります。
登記が必要ない墓地・必要な墓地
墓地は基本的に相続登記する必要がないのですが、一部の墓地に限って相続登記が必要な場合もあります。
結論から言えば、故人が墓地の所有者である場合にのみ相続登記が必要です。これについて、以下でさらに詳しく解説します。
登記の必要がない墓地
故人が墓地の所有者でない場合、登記は必要ありません。先ほど説明した墓地の種類でいえば、寺院墓地・民営墓地・公営墓地がこれに該当します。
寺院墓地は寺院が、民営墓地は公益法人や宗教法人が、公営墓地は地方公共団体がそれぞれ所有しています。これらの墓地にお墓を建てる場合、墓地の利用者は永大供養費や管理費などを支払う代わりに一定区画の土地の使用権を取得します。つまり、墓地の使用者は墓地の所有者ではないので、相続登記は必要ないのです。
ちなみに、墓地は特別な土地であり、原則として地方公共団体や宗教法人、公益認定法人などでなければ経営できないという法律上の制限があります。そして、墓地の経営者と所有者が一致していることが許可の考慮要素となっていることから、基本的には墓地の経営者と所有者は一致しています。そのため、墓地は地方公共団体や宗教法人、公益認定法人などが所有者となっている場合がほとんどであり、基本的には登記の必要がない墓地に該当します。
登記が必要な墓地
故人が墓地の所有者である場合には登記が必要です。先ほど紹介した墓地の種類でいうと、個人墓地がこれに該当します。土地や建物を相続するとき相続登記を行うのと同様に、墓地として使用している土地もそれが故人名義の土地なら相続登記を行い、相続人に名義を変更する必要があるのです。
もっとも、個人墓地であっても祭祀財産として登記を行う場合、相続登記とは別の方法で登記を行います。
相続登記とは異なる祭祀財産として登記をするやり方
故人が墓地の所有者ではない場合、一定区画の土地の使用権(墓地使用権)のみが相続人などに引き継がれますが、このような墓地使用権は「祭祀財産」に含まれ、通常の相続登記とは異なる方法で登記を行います。
祭祀財産とは系譜や祭具、墳墓といった神や祖先をまつるために必要な財産のことです。祭祀財産は通常の相続とは承継方法が異なり、相続による承継は行われません。ここでは、祭祀財産として登記をする場合、どのような手続を行わなければならないのかについて解説します。
なお、故人が墓地の所有者である場合でも、祭祀財産として登記することは可能です。つまり、個人墓地は通常の相続登記をするか、祭祀財産として登記するかを選ぶことができます。この場合、以下で解説する手続や費用を相続登記の場合と比べ、どちらの手続の方が行いやすいかを検討するとよいでしょう。迷ったときは、司法書士などの専門家に相談するのもおすすめです。
承継者の決定方法
祭祀財産として登記する場合、承継者が相続人になるとは限らないので、まずは承継者がどのように決まるかを解説します。
被相続人の意思に従う
遺言書があり、承継者が遺言によって指定されていた場合、その内容に従って承継者が決まります。承継者の指定方法に決まりはないため、遺言でなくても生前に口頭で指定することも可能です。
慣習に従う
遺言書に承継者に関する記述がなく、エンディングノートなどにも記録がなくて本人の意思が明らかでない場合、慣習に従って承継者を決めます。ただし、法定相続人全員の同意があれば、慣習とは異なる承継者を相続人間の話し合いで決定することも可能です。
家庭裁判所の調停・審判で決める
遺言書がなく、相続人間の話し合いでは承継者が決まらなかった場合、家庭裁判所に指定の申し立てをすることが可能です。 裁判所が承継者を指定する際は、故人の意思や利害関係人の意見、そして祭祀財産の継続的な管理といった観点を考慮して指定します。
手続方法
被相続人が亡くなってから祭祀財産として登記するまでの一連の流れについて、順番に解説します。
遺言書の確認
遺言書で祭祀承継者が指定されていればその人が墓地の承継者になるので、まずは遺言の内容を確認します。公正証書遺言または遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言以外の遺言書は、検認が義務付けられているので、検認を経たうえで内容を確認しましょう。
承継者の決定
遺言書があれば承継者は遺言の内容どおりで問題ありませんが、土地の慣習があれば慣習に従い、なければ相続人の協議で承継者を決めます。
慣習が明らかでない場合や協議で折り合いがつかない場合、家庭裁判所に祭祀承継者指定の調停または審判の申し立てを行います。
登記申請手続
承継者が決定したら、所有権移転登記手続を行います。登記の際は、祭祀承継者として指定を受けた人と、遺言執行者が共同し、「民法第897条による承継」を原因とする登記申請を行います。
必要な書類
祭祀財産として相続登記をする際の必要書類は下記のとおりです。
- 誰が祭祀承継者に指定されたのかがわかる書面
- 登記済証(または登記識別情報通知)
- 指定を受けた祭祀承継者の住民票または戸籍の附票
- 遺言執行者(遺言執行者を選任していない場合は相続人全員)の印鑑登録証明書
「誰が祭祀承継者に指定されたのかがわかる書面」としては、遺言書や遺産分割協議書、 家庭裁判所の審判書などが該当します。登記済証は通常の相続登記では必要なく、祭祀財産として登記するときのみ必要な書類なので注意してください。
費用
墓地に関する登記の登録免許税は基本的に非課税なので、費用としてかかるのは住民票などの発行手数料くらいです。ただし、司法書士に依頼する場合は約3~12万円の司法書士報酬がかかります。
そのほか、墓地を承継するうえでかかる費用としては、以下のようなものがあります。
年間管理料 | 1000円~2万円程度 |
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お布施(寺院墓地の場合) | 葬儀:10~50万円程度 法要:1~10万円程度 一周忌:1~5万円程度 |
清掃費 | 1~2万円程度 |
費用は一般的に、公営墓地が割安で民営墓地が割高傾向にあります。寺院墓地の場合にはお布施代がかかるため、ほかの墓地と比べて費用が高くなりやすいでしょう。また、区画の広さも費用の額に影響し、広い区画ほど割高傾向にあります。
清掃費はお墓参り代行サービスを使った場合の費用であり、自分で清掃を行う場合には清掃用具や献花、お供えものなどの費用のほかに、墓地の所在地によっては交通費や宿泊費などがかかります。
承継せず放置したらどうなる?
管理費を払ったうえでお墓を放置していたとしても、急に撤去されるようなことはないでしょう。もっとも、管理費まで支払わずに放置しておくと撤去される可能性があります。特に民営墓地は利益をあげなければならないため管理費の不払いは問題であり、場合によっては訴えられるリスクもあります。
また、寺院墓地の場合、放置されたまま一定期間過ぎると無縁仏として合葬墓に移動されるのが一般的です。
墓地の管理にはお金も労力もかかるため、墓地を承継しても管理が難しいと感じたら、墓じまいを検討しましょう。放置したまま亡くなってしまうと、自分の子にまで負担をかけることになってしまいます。
相続登記の義務化について
令和6年4月1日から相続登記は義務化されたため、墓地を相続したら登記もしなければなりません。不動産の所有者に相続が発生した場合、相続人が当該不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならず、正当の理由なく登記を怠ると10万円以下の過料が科されます。
相続登記が行われていない墓地の場合、登記簿で確認しても現在の所有者とは一致してない可能性があります。先祖代々受け継がれている墓地の場合、現在誰が所有者なのか不明なケースもあるでしょう。
そのようなケースでも、やはり所有者不明のまま放置しておくわけにはいかないので、相続人調査を行ったうえで正しい相続登記手続を行ってください。
登記の手続で困ったら司法書士にご相談を
故人が墓地の所有者である個人墓地の場合、所有権移転登記手続を行う必要がありますが、墓地使用権は祭祀財産となるため、祭祀財産として登記を行うことも可能です。祭祀財産のとして登記する場合、「相続人以外の人も承継者になれる」「慣習に従って承継者を決める」といった相続登記とは違う決まりもあるので、手続の内容はチェックしておきましょう。
令和6年4月1日からスタートした相続登記義務化もあるため、墓地を承継するのであれば手続せずに放置しておくわけにはいきません。もっとも、先祖代々受け継がれているような墓地の場合、相続登記が未登記で所有者が誰だかわからなくなっていることもあるでしょう。
相続登記を正しく行いたいときは一度司法書士に相談し、適切な手続によって正しい登記をすることをおすすめします。