山林の相続登記とは
相続登記とは、登記簿上の不動産名義を亡くなった方から相続人に移す手続です。相続によって山林の所有者となった場合、相続登記の手続をする必要があります。相続登記は管轄の法務局で行うことができ、申請の際は以下のような書類が必要です。
- 登記申請書
- 遺産分割協議書
- 相続人の印鑑登録証明書
- 山林を相続する人の住民票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 亡くなった方の住民票(除票)
- 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍(除籍)謄本
- 固定資産評価証明書
- 相続関係説明図
山林の相続登記を行う場合、手続の前に測量が必要です。山林は一般的な土地と異なり、木々の成長によって年月の経過とともに形を変えるという特性があるためです。
相続登記にかかる費用としては、以下の登録免許税と司法書士報酬がメインであり、そのほかにも実費が5000~1万円程度かかります。
- 登録免許税:固定資産税評価額の0.4%
- 司法書士報酬:3~12万円程
※参照:司法書士の報酬と報酬アンケートについて(平成30年1月)」|日本司法書士連合会
相続登記は令和6年4月1日から義務化されました。義務化後は不動産を取得した相続人は3年以内に相続登記の申請をしなければならず、正当な理由なく申請を怠ると10万円以下の過料が科されます。
また、山林を相続したら、相続登記とは別に市区町村の役所へ届出をしなければなりません。その際、届出の期限は相続から90日以内であり、手続をしないと10万円以下の過料が科される可能性もあるので注意しましょう。
山林の相続登記で気を付ける点
山林を相続登記するうえで、注意すべき点を解説します。山林を相続したあとにこれらを知って後悔しないように、あらかじめチェックしておきましょう。
山林を売却するには一度相続する必要がある
資産価値のある山林であれば売却によって利益を得られる可能性がありますが、売却をするためには一度相続する必要があります。相続登記が済んでいない不動産は買い手がつかないため、不動産業者も買い取ってくれません。
相続登記に必要な手続は先ほど紹介したとおりです。相続人の数が少なくシンプルな登記手続であれば、自分で行うこともできます。しかし、相続登記されずに放置されていた山林などの手続は複雑になるケースが多いため、手間なく正確に相続登記をするには司法書士に依頼するのがおすすめです。
正確な土地を把握する
山林は正確な測量がなされていない場合も多いので、相続したタイミングで一度測量を行った方がよいでしょう。測量によって形状や面積などが明確になるだけでなく、隣地との境界も明確になります。
売買などで土地を処分する場合、正確な土地を把握することは必須なので、処分を前提とした相続ならこのことは念頭に置いておきましょう。
森林組合への加入
森林組合の加入は義務ではありませんが、森林を相続するのであれば加入するのが望ましいでしょう。なぜなら、森林組合から補助金や行政サービスなどの情報が得られるからです。また、管理や売却の意思表示をしておけば、取引の相手を森林組合から紹介してもらえる可能性もあります。
森林組合へ加入するには入会金や賦課金がかかりますが、山林の活用に必要な情報や協力を得られるというメリットは大きいといえます。
山林を相続登記しない場合
山林の相続登記にはある程度の手間がかかるので、ここまでの解説を受けて「山林の相続登記をしたくない」と思った方もいるでしょう。そのような方の場合、山林を相続登記しない方法もあります。
具体的な方法についていくつか紹介するので、山林を相続登記しないで済ませたい方は参考にしてください。
相続放棄する
相続放棄とは、相続による権利義務の承継を拒否する意思表示のことです。相続放棄をすれば相続人ではなくなるため、相続登記も必要ありません。
相続放棄は単独で行うことができますが、相続開始を知ってから3か月以内という期限があるため、相続の開始を知ったら早いうちに相続放棄を検討するべきです。
また、相続放棄をすると遺産分割協議には参加できず、山林以外のすべての財産を相続する権利を失います。そのため、ほかに相続したい財産がないかも確認したうえで、相続放棄すべきかどうかを検討するようにしましょう。
売却もしくは寄付・無償譲渡する
山林を第三者に売却もしくは寄付などして、所有権を手放すという方法があります。売却は不動産業者や買取業者に依頼して行いますが、利用価値がある山林でなければ買い手が見つかるのに時間がかかり、何年も買い手が付かないこともあるでしょう。
もし買い手が見つからない場合、寄付するという方法もあります。寄付する相手は自治体や地元の山林協会などが考えられますが、インターネットのマッチングサービスなどを利用して引き取り手を募集することも可能です。また、山林の無償引き取りサービスを行っている不動産業者もあるため、売却が難しくても無償譲渡であれば引き取り手が見つかるかもしれません。
相続土地国庫帰属制度を使う
相続土地国庫帰属制度とは、土地の所有権を手放して国庫に帰属させる制度です。相続放棄とは違い、相続土地国庫帰属制度を使えば必要な財産だけ相続して不要な山林の所有権を手放すことも可能です。
相続土地国庫帰属制度を利用するには、10年分の土地管理費用相当額の負担金を納めなければなりません。そのため、山林を手放すのに費用がかかってしまうというデメリットもあります。
また、すべての土地で相続土地国庫帰属制度が利用できるわけではなく、境界が不明確な土地など一部制度を利用できない土地もあることに注意してください。
相続する場合のメリット・デメリット
山林の相続には、メリットもあればデメリットもあります。相続すべきかどうか、所有権を手放すべきかどうか迷っている方は、山林を相続するメリット・デメリットをそれぞれ理解しておきましょう。
山林を相続するメリット
山林を相続することで、以下のようなメリットがあります。
- 林業を営める
- 賃料収入を得られる
- アウトドア施設として活用できる
- 太陽光発電で収益を得られる
相続した山林を使って林業を行い、木材を売却して収益を得られる可能性があります。相続人に林業の技術がなくても、人を雇って林業を営むという方法があるので、未経験だからといって林業ができないわけではありません。
また、山林を貸し出して賃料収入を得ることも可能です。木材だけでなく植物を採取する業者に貸し出すなど、山林の価値をよく確認したうえで適切な借り手を探すことが重要です。場所によってはキャンプ場などのアウトドア施設にするという手段もあるでしょう。レクリエーションの場となれば地域貢献にもつながり、相続した山林を利用して社会に還元できます。
そのほかにも山林の広大な土地を利用し、太陽光発電設備を設置するという活用方法もあります。日当たりのよい場所にソーラーパネルを設置できれば、効率的な売電が可能です。
山林を相続するデメリット
山林を相続すると、以下のようなデメリットもあります。
- 維持費がかかる
- 管理の手間がかかる
- 売却が難しい
- 相続登記の手間がかかる
- 次世代に負担を強いる
山林を相続したら責任をもって管理しなければならないので、維持・管理の手間がかかります。山林に生えた樹木の管理に加え、がけ崩れ防止の対策なども講じなければなりません。
また、資産価値の高い山林でなければ売却が難しく、相続してもマイナスの資産になってしまう可能性があります。
さらに、山林の場合、相続登記がなされないまま何世代も相続されてきたケースが多く、相続登記をするには相続人調査をしなければなりません。最後に登記された時点の所有者まで遡って戸籍謄本を取得し、すべての相続人を集めて遺産分割協議を行い、山林の相続人を決めることになります。このように、相続した山林が未登記だと相続登記に大きな手間がかかります。
そして、自分が山林を相続すれば、次の世代である自分の子にも山林が引き継がれます。そうなれば、管理や相続登記の負担を自分の子にも強いることになってしまいます。
発生する税金について
山林を相続するうえで必要な税金として、相続税と登録免許税について解説します。それぞれの計算方法について解説するので、山林を相続する場合には、実際にいくらくらいの税金がかかるか事前にシミュレーションしておくことをおすすめします。
相続税
相続税を計算する流れは、下記の通りです。
- 相続税評価額を計算する
- 基礎控除額を差し引く
- 法定相続分で按分する
- 相続税の総額を計算する
- 相続人ごとの納税額を計算する
流れに沿って、実際の計算例も紹介します。
相続税評価額を計算する
土地の相続税を計算するうえでは評価額がもとになるため、評価額の計算を行います。まず、山林には以下の3種類があります。
- 純山林
- 中間山林
- 市街地山林
山林の評価額の計算方法は、上記のような山林の種類によって異なります。山林の種類が「純山林」もしくは「中間山林」の場合、計算方法は以下のとおりです。
固定資産評価額×評価倍率(国税庁が定める一定の倍率)
山林の種類が「市街地山林」の場合、倍率方式のほかにも比準方式という計算方法があります。比準方式とは、市街地山林を宅地であるとして評価した価額から、その山林を宅地に転用した場合の造成費用を控除し、山林の地積を乗じて計算するという方法です。計算式に直すと、以下のようになります。
(市街地山林を宅地であるとして評価した価額ー宅地に転用した場合の造成費用)×地積
基礎控除額を差し引く
相続税には基礎控除があり、遺産の総額が基礎控除の額を超えている場合にのみ相続税が発生します。基礎控除額は以下の式で計算します。
基礎控除額=3000万円 + 600万円 × 法定相続人の人数
たとえば、法定相続人の人数が2人なら、基礎控除額は3000万円+600万円×2=4200万円になり、遺産総額から4200万円を引いた金額が課税対象額となります。
法定相続分で按分する
課税対象額を法定相続分の割合に応じて按分します。たとえば、相続人が配偶者Aと子B、Cであり、課税対象額から基礎控除を引いた金額が4000万円であったとすると、以下のような計算になります。
- 配偶者A(法定相続分2分の1):4000万円×1/2=2000万円
- 子B(法定相続分4分の1):4000万円×1/4=1000万円
- 子C(法定相続分4分の1):4000万円×1/4=1000万円
相続税の総額を計算する
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1000万円以下 | 10% | – |
1000万円超から3000万円以下 | 15% | 50万円 |
3000万円超から5000万円以下 | 20% | 200万円 |
5000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
※参照:相続税の税率|国税庁
上記の速算表を用いて法定相続人ごとの税額を計算し、それらを合計して相続税の総額を求めます。
先ほどの例を用いると、配偶者Aの相続分が2000万円、子B、Cの相続分が1000万円ずつなので、相続税は以下のように計算します。
- 配偶者A:2000万×15%-50万=250万円
- 子B:1000万×10%=100万円
- 子C:1000万×10%=100万円
これらを合算し、相続税の総額は450万円となります。
相続人ごとの納税額を計算する
相続税の総額を実際の相続割合に応じて按分し、相続人ごとの相続税を計算します。たとえば、以下のように子Cが相続放棄して、配偶者Aと子Bが2分の1ずつ相続したとしましょう。
- 配偶者A:2分の1の割合で相続
- 子B:2分の1の割合で相続
- 子C:相続分なし(相続放棄によって相続分がなくなった)
先ほどの例を用いると相続税額が450万円なので、それぞれの納税額は以下のとおりです。
- 配偶者A:450万円×1/2=225万円
- 子B:450万円×1/2=225万円
- 子C:0円
登録免許税
相続によって山林を取得した場合、以下の計算式で登録免許税を計算できます。
固定資産税評価額×0.4%
端数処理などの細かい部分を省いて簡単に計算すると、仮に固定資産評価額1000万円の山林を相続した場合、登録免許税は1000万円の0.4%で4万円になります。
複雑な相続登記手続は司法書士にご依頼ください
山林を相続することで林業による収益や賃貸収入を得られる可能性がありますが、その反面山林の相続登記には測量が必要であり、相続した後の維持・管理の手間がかかります。また、資産価値が高い山林でない限り、一度相続すると手放すのが難しく、次世代に負の資産を遺すことにもなりかねません。
山林を相続するうえでは、これらのことを踏まえたうえで相続すべきかどうか検討しましょう。
これまでは相続登記が義務ではなかったため、何世代も相続登記されることなく引き継がれてきた山林も少なくありません。そのような山林は相続登記の手続も複雑なので、正確かつスムーズに手続を行うには、ぜひ司法書士にご依頼ください。