相続登記とは
相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった際に、登記簿上の不動産名義を亡くなった方から相続人に移す手続です。国内の不動産に関する情報は、基本的にすべて登記簿に記録されており、相続が発生した場合には所有権の移転を反映させるため、相続登記が必要です。相続登記を行うことで、戸籍や遺産分割協議書などの必要書類を法務局に提出し、所有権を登記簿に正式に記載します。
これまで相続登記は義務ではなかったため、相続登記が行われずに放置されている不動産も多く存在しました。しかし、こうした登記簿上の所有者と実際の所有者が異なるケースを防ぐため、令和6年4月1日からは相続登記が義務化されることになりました。義務化以降、不動産を取得した相続人は3年以内に相続登記の申請を行わなければならず、正当な理由なく申請を怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
相続登記を相談できる6つの連絡先
相続登記の相談先としては、主に以下の5つがあります。自身の相談内容を踏まえたうえで相談先を選ぶようにしましょう。
- 【法務局】自分で手続を行いたいので書類の書き方・揃え方を教えてほしい
- 【自治体(市区町村役場)】対象となる相続人や遺産の分配方法がわからない
- 【司法書士、相続登記相談センター、全国相続協会相続支援センター】相続登記の進め方がわからない
- 【弁護士・法テラス】手続だけでなく、相続トラブルが発生する可能性がある
それぞれの相談先で、相談できる内容やメリット・デメリットなどが異なるので、どのような違いがあるのかを理解しましょう。また、大半の窓口は初回無料で受け付けているため、こちらの負担がほぼないのも嬉しい特徴です。相談する前には自身の相続状況をしっかりと整理したうえで聞いてみると的確な返答が返ってくるでしょう。
法務局
法務局は相続登記について無料で相談できる窓口を設けており、申請に必要な書類や登記申請書の書き方などを聞くことができます。また、不定期で無料相談会を開催している法務局もあります。
法務局の相談窓口では、登録免許税や登記事項証明書の取得方法、書類の提出先や費用なども確認できるため、手間や時間をかけずに必要な情報を収集することができます。ただし、相談対応を行うのは法務局の職員であり、司法書士や弁護士のような法律の専門家ではないため、相続トラブルや相続関係の詳細な相談には応じられません。
法務局での無料相談は、窓口が開いている平日の営業時間内に限られており、希望日程の予約が必要な場合もあります。また、日程が先延ばしになることもあるため、事前の準備や相談内容の整理が望ましいでしょう。
なお、最寄の法務局をお探しなら、以下のページから確認できます。
自治体(市区町村役場)
市区町村などの自治体では、相続手続に関する無料相談窓口を設置しており、司法書士や弁護士といった法律の専門家が相続手続や相続トラブルなどの相談に応じてくれます。
法務局の窓口との違いは、無料で専門家によるアドバイスを直接受けられる点です。また、役所や相談センターなどの窓口は自宅近くにあることが多く、法律事務所や専門機関に比べ敷居が低く、気軽に相談しやすいというメリットがあります。
ただし、自治体での無料相談は30分程度の時間制限があることが多く、同一案件については1回限りとなるケースが多いため、相続手続や登記申請の詳細を一から教えてもらうことは難しいかもしれません。また、継続して同じ専門家に相談できるとは限らないため、相続関係の複雑なケースや、手続に時間がかかる問題には対応が難しいこともあります。
これらの点から、自治体の法律相談窓口は比較的簡単な相続手続や相続関係の確認など、比較的短時間で解決できる内容には適していますが、複雑な相続問題や、長期にわたる解決が必要な相続トラブルの相談には適していないといえるでしょう。
司法書士
司法書士は登記の専門家であり、相続登記をはじめとして相続人調査、相続放棄、遺産分割など、相続全般に関わる相談ができるほか、相続登記の申請を代理で行うことができます。登記申請書の作成や申請など、相続登記に関する手続の代行は、弁護士と司法書士以外行うことができません。
司法書士に相談すれば、相談後すぐに依頼することも可能なので、相談から依頼までスムーズに進められるというのがメリットです。
また、依頼した司法書士からは、弁護士や税理士などのほか、相続問題に関する専門家を紹介してもらえるケースも多く、相続財産に関する問題をワンストップで解決できるというメリットがあります。
相続登記相談センター
日本司法書士連合会では、全国統一で相続相談ができるフリーダイヤル「相続登記相談センター」を設置しており、相続登記をはじめとした相続全般に関する相談を受け付けています。
相続登記相談センター
- 電話番号:0120-13-7832
- 受付時間:月曜日から金曜日10:00~16:00(祝祭日、年末年始、お盆期間を除く)
こちらは自治体の相談窓口と同じく、登記の専門家である司法書士に相談できるというメリットがある反面、同じ人に継続して相談するのが難しいというデメリットがあります。また、司法書士会ごとに無料または有料の相談会などを開催している場合もあるので、そちらを利用して司法書士に相談することもできます。相談会では、ケースに合わせて司法書士やその他の専門家を紹介してもらえる場合がありますが、相談会当日は司法書士に依頼できないこともあります。
全国相続協会相続支援センター
全国相続協会相続支援センターでは、会員である司法書士などの専門家事務所が相続相談室として初回の無料相談を提供しています。なお、電話での無料相談には対応していない点に注意が必要です。各事務所で相談を受けるため、事務所ごとに報酬規定が異なる可能性があります。
申し込み方法は下記の「相続相談室」のページから相談したい専門家を選び、電話やメールで相談予約を行います。上記で説明したとおり初回は無料ですが、継続相談や手続には別途料金がかかるため、見積もりを確認することが推奨されます。
弁護士・法テラス
弁護士は法律を専門的に扱う士業の中で最も業務領域が広く、相続登記の相談に限らず、相続トラブルや紛争処理、遺産分割協議書の作成など幅広く対応可能です。調停や審判などの紛争処理を代理で行えるのは弁護士のみであり、司法書士などの他士業には行うことができない業務です。
相続登記に関する手続きや相続人全員の確認、さらに相続手続全般や相続財産に関する問題をワンストップで解決できるのが、弁護士に依頼するメリットです。
また、「弁護士に相談したいが費用を支払う余裕がない」といったケースでは、弁護士費用の立替や無料相談サービスが受けられる法テラスを利用する方法もあります。
ただし、すべての弁護士が相続登記手続や登記申請書の作成に対応しているわけではないため、相続手続を専門に取り扱っている弁護士を探す手間がかかる点は注意点です。
状況に応じて相談先を使い分けよう
前述まででは大枠として相談先とそれぞれの特徴について解説しましたが、以下ではより具体的な状況例を挙げています。相続状況や手続の方針が定まっている場合は参考にしてみてください。
できるだけ費用を安く抑えたい
費用面を重視するのであれば、法務局や各自治体の無料相談窓口を利用するとよいでしょう。無料相談を受けて手続をすべて自分で行えば、必要書類を用意するための実費しか費用がかからないので、最も経済的に相続登記手続を進められます。
ただし、法務局や役所の窓口では申請書や登記申請書など書類の作成を代行できないため、書類はすべて自分で作成しなければなりません。また、法務局で事前審査をしてもらえないため、必要書類が不足していたり、申請内容に誤りがあった場合、二度手間になる可能性があります。
時間を節約して相続登記手続をしたい
時間を節約して相続登記手続をしたい方は、司法書士に依頼するのがおすすめです。司法書士なら書類の収集から相続登記の申請まで、すべて代理で行えます。
相続登記には戸籍謄本や住民票など多数の必要書類があり、相続関係や相続人全員の確認を含む手間がかかります。特に戸籍や相続人関係の調査は、ケースごとに異なる範囲での収集が必要となるため、判断に時間と労力がかかる場合があります。
司法書士に依頼することで、管轄法務局への登記申請も代理で行えるため、安心して手続を任せられます。
相続登記には戸籍謄本や住民票など多数の必要書類があり、相続関係や相続人全員の確認を含む手間がかかります。特に戸籍や相続人関係の調査は、ケースごとに異なる範囲での収集が必要となるため、判断に時間と労力がかかる場合があります。
相続手続全般をサポートしてほしい
相続登記に関する相談だけでなく、相続の手続全般をサポートしてほしいという場合には、司法書士への依頼がおすすめです。
相続人がしなければならないことは、相続登記に必要な書類の収集や亡くなった方(被相続人)の財産調査、預貯金の解約手続、遺産分割協議書の作成など多岐にわたりますが、司法書士であればこれらの業務すべてを代行可能です。
正確に相続登記の手続を行いたい
誤りなく相続登記を行うためには、司法書士に依頼することが適しています。自分で相続登記の手続を進める場合、特に不動産登記において漏れやミスが生じやすく、たとえば土地が複数筆に分かれている場合や建物が別の登記名義である場合など、登記の必要性が漏れてしまうことがあります。
相続登記は司法書士の専門分野であるため、専門家に依頼することで正確に手続を進めることができます。
遺産分割協議でもめている
相続登記を行う以前に、相続人間で遺産分割協議がまとまっていない場合は、まず弁護士への相談を検討してください。弁護士は遺産分割協議、調停、審判といった法的手段を代理で行い、相続トラブルを解決するための手続も対応可能です。
紛争処理を行える士業は弁護士のみであり、司法書士では対応できないため、相続人全員の同意が得られない場合や協議が進展しない場合には、弁護士への依頼が適しています。
相続登記にかかる費用
相続登記を行う際、どういった相続状況においても必ずかかる費用があります。
登録免許税
登録免許税は国税の1つで、不動産の名義が変わったり購入した場合に納める税金を指します。登記する目的によって税率は変わりますが、相続の場合は基本的に以下の式で求めることができます。
登録免許税額=固定資産税評価額×0.4%(税率)
書類費用
申請時に必要な書類は市区町村に発行依頼し収集するものも含まれるため、その発行手数料がかかります。戸籍謄本や住民票などがこれに該当し、おおよそ数千円~1万円以内におさまるケースがほとんどです。しかし、相続人が多いなどといったケースでは、その分必要な枚数が増えていくので、少しでも節約したいと考える場合は「法定相続情報証明制度」を活用することをおすすめします。
司法書士報酬は事務所によって異なる
相続登記を依頼する際の司法書士報酬は、約3~12万円です。司法書士報酬には幅がありますが、これは各司法書士が自由に報酬を定められるからです。また、相続登記の申請だけでなく、遺産分割協議書の作成や相続人調査なども依頼する場合、費用はさらに高額になります。
報酬は司法書士によって大きく異なるので、依頼前に必ず費用について確認しておきましょう。
※参照:司法書士の報酬と報酬アンケートについて(平成30年1月)」|日本司法書士連合会
相談前に知っておくべきこと・注意点
相続登記の相談をする上で、事前に知っておくとよいことや注意点があります。こちらを抑えておけばより適切に相続登記の相談ができるので、一通りチェックしておきましょう。
亡くなる前に相続登記を依頼できない
不動産の所有者が亡くなる前に、あらかじめ相続登記を依頼することはできません。なぜなら、相続登記で行う手続は「所有権移転登記」手続ですが、相続が発生する前はまだ所有権が移転していないからです。
もっとも、不動産の生前贈与や遺言書作成など、生前対策に関する相談であれば可能です。これらのような生前対策を検討している場合には、司法書士に相談してもよいでしょう。
相続登記の専門家は弁護士ではなく司法書士
弁護士も法律上、相続登記手続を行うことが可能ではあるものの、実際に相続登記の相談や登記申請を行っている弁護士事務所は少ないと考えられます。なぜなら、弁護士は主に相続トラブルなどの紛争処理を取り扱う法律専門家であり、登記手続や相続財産の名義変更は司法書士の専門分野だからです。
相続登記手続に関する相談のみの場合、弁護士に電話相談や窓口相談に行っても、必要書類の取得や登記申請書の作成、法務局への申請手続については司法書士への依頼を勧められる可能性があります。そのため、相続登記や必要書類の収集、法的手続の代行を希望するのであれば、管轄法務局での申請も含め、司法書士に依頼するのがよいでしょう。
相談先を使い分け、正しく相続手続を行いましょう
相続登記について相談できる窓口は複数ありますが、ニーズに合った相談先を選ぶことが大事です。
費用を安く抑えたいのであれば、無料相談ができる法務局や自治体、相続登記相談センターを利用するとよいでしょう。遺産分割協議でもめているならば、紛争処理を依頼できる弁護士への相談がおすすめです。
司法書士に依頼すれば相続登記に関する相談だけでなく、相続の手続全般をサポートできるので、スムーズかつ正確な相続登記手続が行えます。本記事を参考にして自分に合った相談先を選び、正しく相続登記手続を行ってください。