目次
相続登記の原本還付とは?
相続登記の原本還付とは、登記完了により不動産の名義変更が済んだ際に、申請時に提出した戸籍謄本(原本)などを返却してもらえる制度です。原則上は返却されず法務局・登記所が預かったままとなりますが、原本還付の請求に必要な手続を踏めば、登記申請した相続人などの手元に戻ってくるのです。この制度を活用すれば、相続登記以外の手続を進める際にも、必要な書類を発行する手間などが省けます。
まずは、相続登記をするにはどんな書類が必要なのか、提出する書類のうち還付対象となるのはどれなのか、基本を押さえましょう。
相続登記で必要な書類
相続登記で不動産の名義変更を完了させようとするなら、申請書類として戸籍関係書類・住民票の写し・印鑑登録証明書などの原本が必要です。これらの原本は、あらかじめ自分たちで作成したり、市区町村役場で交付手数料を支払って交付してもらう必要があります。相続登記の手続方法はいくつかありますが、いずれの場合においても求められる基本的な提出書類をまとめると、次のとおりです。
登記原因証明情報
- 登記申請書
- 遺言書または遺産分割協議書
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、改製原戸籍など
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続人全員分の戸籍謄本
相続人や受遺者の住所などを確認するための資料
- 相続人全員分の印鑑登録証明書(遺産分割協議をした場合)
- 各関係者の住民票の写し
上記のほかに、登録免許税(登記申請の手数料にあたる税)の計算のため、固定資産評価証明書も用意します。
原本還付の対象となる書類
申請時に提出した書類の多くは、原本還付の対象となります。必要な手続を踏むことで還付(返却)されるのは、下記の書類です。
- 遺言書、遺産分割協議書
- 戸籍謄本、戸籍附票(妙本)※
- 除籍謄本
- 改製原戸籍謄本
- 住民票、住民票の除票※
- 印鑑登録証明書
- 固定資産評価証明書(提出した場合)
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
※相続人・被相続人両方とも返却可能。
登記完了時に原本還付の対象とならない書類
原本で提出する書類のうち「相続登記のためだけに作成されたもの」に関しては、還付の対象になりません。還付できない書類も不動産登記規則で定めがあり、下記が当てはまります。別の手続で同様の書類が必要になったときは、あらためて作り直す必要がある点に注意しましょう。
- 委任状(登記代行してもらう場合の必要書類)
- 相続関係説明図(戸籍関係書類に添えて作成・提出するもの)
- 登記申請書
- 上申書
相続登記における原本還付のメリット
相続登記で原本返還を受けるメリットは、他の相続手続で書類を再利用できる点にあります。具体的には、預金口座の払戻しや証券会社での株式・債券の移管手続などで役立ちます。これにより、戸籍謄本などの原本返還から得られる恩恵は次の3つです。
相続手続の費用を節約できる
相続登記で原本還付を受ける最大のメリットは、相続手続全体の費用節約です。返還された書類を他の手続きに再利用することで、相続関係証明書や戸籍の除籍謄本の交付手数料(1通あたり450円~750円程度)、住民票や抄本の費用を節約できます。特に、不動産の登記申請書提出や法務局への証明書類の添付が必要な場合、複数枚の戸籍関係書類が関係者全員分必要で、原本還付による費用負担の軽減は大きなメリットとなります。
書類管理や都度請求の手間が省ける
原本還付を受ける第二のメリットは、費用の節約に加えて書類管理や再交付の手間を省ける点です。遺産分割協議書や遺産相続における必要書類が不足・紛失するリスクがあっても、還付された書類を再利用できるので安心です。忙しい日常の中で相続手続きが発生すると、費用よりも時間や効率面での不安を感じることが多く、還付による手続きの簡略化は重要です。
重要な個人情報や合意文書を預けたままにする不安がない
相続登記で原本を還付してもらう第三のメリットは、戸籍関係書類などのの個人情報を確実に手元に戻せる点です。特に、本籍地や法定相続人の情報が記載された戸籍謄本、除籍謄本を役所や法務局に提出した際に返却されない不安が軽減されます。また、相続放棄や相続税申告の際も重要な遺言書や登記識別情報通知書の原本を手元に確保しておくことは、後のトラブル防止にもつながります。
原本還付の方法
相続登記で原本還付してもらうには、登記申請時に還付請求のための書類を追加で提出する必要があります。しかし、登記申請書以外に所定の様式の書類を作る必要はありません。提出した各種原本を返却してもらう条件は、以下で説明するように、コピーや図面の添付だけです。
原本還付のための特別な請求手続は不要
相続登記での原本還付にあたって、たとえば「原本還付請求書」の作成といったような、特別な手続は不要です。返還してほしい原本に代わり、法務局側で手続の記録として保管しておける書類を用意するだけで済みます。請求書面ではなくで原本還付に対応できる旨は、不動産登記規則で定めがあり、地域や事例にかかわらず同じように対応してもらえます。
戸籍関係書類は相続関係説明図があれば還付される
相続登記の際に提出する戸籍関係書類を原本還付で返してもらうには、相続関係説明図を作成・提出することが必要です。相続関係説明図とは、相続人や被相続人の情報および続柄などの関係性を家系図のような形式にしたものです。自分で作成しますが、決まった書式はありません。
戸籍関係書類以外の原本はコピー提出で還付される
相続登記の際に提出する印鑑登録証明書および住民票を原本還付で返してもらうには、原本に加えてコピーを提出する必要があります。遺言書、遺産分割協議書、固定資産評価証明書も同様です。提出時はただコピーをとるだけでなく、原本の代わりに保管してもらえるように処理しなければならない点に注意しましょう。
原本返却を希望する場合の書類一覧の綴じ方
原本還付を含めて登記申請を行う場合の、書類の順番や綴じ方については以下の順番で行うとよいでしょう。
- 登記申請書と収入印紙貼付台紙をホチキスで綴じ、書類の見開き部分に契印
- 委任状・相続関係説明図がある場合は、登記申請書と収入印紙貼付台紙の下に重ねる(ホチキスや契印は不要)
- 証明書類のコピーを各ページ毎に契印
- 書類の表紙にはコピーについて、原本と同書である旨を明記
- コピーをとった各書類の原本は、クリップでまとめクリアファイルに入れ提出
原本還付請求書類の準備方法
相続登記における原本還付の請求のための書類は、一定の方法で作成しなければなりません。戸籍関係書類については、相続関係説明図を作成し、これを提出する必要があります。また、印鑑登録証明書や住民票のコピーを提出する際には、これらの書類が原本と相違ないことを明記し、署名押印するよう求められます。
【作例あり】相続関係説明図の作成方法
戸籍関係書類を還付してもらうための相続関係説明図は、親子・きょうだいなどの相続関係がわかるよう、各人の情報を線で繋いで表記します。記載ルールの基本は下記の通りです。
- 表題は「相続関係説明図」として、被相続人の氏名を記載
- 図面内の被相続人については、氏名・最後の住所・死亡日を記載
- 図面内の相続人については、住所・出生を記載
図面内には、誰が・どの方法で不動産の権利を取得したか記載する必要もあります。遺産分割協議なら「分割」、法律で定められた割合による共有での相続(法定相続)なら「相続」と権利取得者の欄に書き入れましょう。下記は相続関係説明図の作例です。
印鑑登録証明書・住民票のコピーに施すべき処理
原本還付のため提出する印鑑登録証明書や住民票のコピーは、そのまま提出せず「原本のコピーであること」がわかるようにして、1通が複数枚に及ぶ場合はばらけないようにしなければなりません。具体的には、次のような対応が必要です。
原本である旨の記載+署名押印
印鑑登録証明書および住民票のコピーをとったら、そのコピーに対して「原本に相違ありません」と記載し、登記申請書に用いた印鑑を使って署名押印しましょう。原本の枚数に応じてコピーが複数枚に及ぶ場合は、1枚目に記載および署名押印を施します。
原本の枚数に応じてコピーが複数枚に及ぶ場合
原本が2枚以上あるためコピーも複数枚になる場合は、登記申請書に用いた印鑑を使い、書類のつなぎ目に押印(契印)し、ホチキス止めをします。先にホチキスで止め、一枚目から順に端を折ってつなぎ目に押印していく方法が効率的です。
還付された原本の受け取り方法と期間
相続登記で原本還付が認められた場合の受け取り方法は、郵送もしくは窓口のいずれかが選べます。状況に応じて、都合の良い方法を選ぶと良いでしょう。司法書士などに依頼した場合は、委任状に還付された原本の受取権限を明記することで、代わりに受領してもらえます。
郵送での還付(返却)
原本還付の方法として利便性が高いのは、相続登記の申請を行った人宛に郵送で返却してもらう方法です。法務局の窓口に足を運ぶ必要がなく、手間も省けます。遺産分割協議書の内容に基づき、不動産の権利変更を行う場合には、相続人全員が同意し、代表者に登記手続を任せることが一般的です。この際、原本還付の権限も委任状に記載し、代表者宛に郵送返却してもらうことで、効率的に手続を進められます。
窓口での還付(返却)
相続登記における原本還付にあたって「不在にしていることが多い」「同居人が勝手に開けてしまうのは避けたい」などの事情があれば、申請した法務局・登記所の窓口に行って受け取る方法もあります。窓口に向かうため時間を作る必要はありますが、重要な個人情報をなるべく他人の目に触れさせない点で安心です。
司法書士などに登記を依頼した場合
司法書士や弁護士に相続登記を依頼した場合は、原本還付の請求から受け取りまで一貫して任せられるのが一般的です。還付された各種原本は、しっかりプライバシーを守れるよう、依頼主の希望に沿った方法で渡してもらえます。依頼先に還付された原本がある間は厳重に管理され、依頼した人にとって都合のいいタイミングで受け取れる点で、利便性が高いと言えます。
原本還付には日数がかかる
相続登記における原本還付は登記完了後となるのが原則です。郵送返却を希望したケースだと、不動産の権利者を証明する情報が記載された「登記識別情報通知書」と同じタイミングで、あるいは通知書に同封して送付されてくるのが一般的で、約1~2週間程度かかるものと覚えておきましょう。
仮に窓口で書類を渡してその場で「還付に対応できる」と判断されたとしても、その場ですぐ返却してもらえるわけではない点に注意しましょう。
原本還付で覚えておきたいポイント
相続登記における原本還付では、書類が手元に戻るまでに日数がかかることがあるほか、郵送を利用する場合には切手代などの費用も発生します。また、希望しても還付できない書類がある点に注意が必要です。なお、相続手続全体を通して収集負担が大きい戸籍関係書類については、登記申請の前に「法定相続情報証明制度」を利用する手があります。
原本還付に関して誤解が多い点や、相続手続全体の効率化に役立つ情報をまとめると、次のようになります。
登記申請後に原本還付を申し出たら受け付けてもらえるのか?
登記申請後に原本還付を申し出ても、受け付けてもらえません。この場合、再度書類を発行する必要があるため、事前に準備を怠らず、登記申請と同時に還付請求の手続を行いましょう。原本還付を希望しながら請求を忘れてしまうと、必要書類の交付手続や費用がかさみ、申請者の負担が大きくなる点に注意が必要です。
銀行で相続手続における原本還付
銀行などの金融機関で被相続人の口座の名義変更を行う際、戸籍謄本などの原本は窓口に伝えれば返却してもらえるケースが多くあります。申請者が希望する場合には、金融機関側で原本のコピーが終わり次第、自動的に返却されるなど、対応は金融機関によって異なります。気になる場合は事前に問い合わせておくと安心です。
郵送による原本還付は返送用の封筒+切手が必要
原本還付を郵送で希望する場合は、登記申請書類に郵便切手を貼り付けた返送用封筒を添付する必要があります。切手代が必要になるため、不動産の所在地を管轄する法務局・登記所から距離のある場所に居住する人は、余分に費用がかかる点を考慮したいところです。返送用封筒を用意するときは、忘れず「原本還付書類の返却を希望する」などと記載しておきましょう。
相続手続は法定相続情報証明制度を利用すると効率的
相続登記で必要な戸籍関係書類(原本)は、あらかじめ「法定相続情報証明制度」を利用することで、謄本で証明できる相続関係を短くまとめた別の書類で代用できます。
法定相続情報証明制度とは、法務局を受付窓口として、相続登記とは別に用意されている制度です。自分で作成した法定相続情報一覧図と共に、戸籍関係書類を提出することで、一覧図に認証文を付したものを何通でも必要なだけ交付してもらえます。交付された認証文付きの法定相続情報一覧図には、戸籍関係書類と同様に相続関係を証明する効力があり、相続登記だけでなく、金融機関などで行うほかの手続でも使えます。
下記で紹介するのは、制度利用にあたって提出する、自作の法定相続情報一覧図の例です。法務局では、制度利用にあたっての一覧図の作成方法が紹介されています。
上記制度を利用すれば、戸籍関係書類の原本提出や還付請求自体が不要です。相続手続の全体を通して、戸籍謄本の交付手数料や請求する手間が、制度利用時の1回分だけで済むのが利点です。
相続登記の原本還付は利用を忘れずに
相続登記の申請で必要な戸籍関係書類・住民票・印鑑登録証明書などの書類は、相続関係説明図や原本のコピーを添えることで還付(返却)してもらえます。上記書類の交付には一定の手数料がかかる上、預貯金の払戻しなどほかの手続で繰り返し必要になるため、原本還付の請求のためのコピー提出や相続関係説明図の提出は、忘れずに行いましょう。
不動産の相続登記は、亡くなった人の財産を受け継ぐ手続のごく一部です。遺産の状況などに合わせて各機関で申し込みや連絡事項が必要となる点を踏まえ、相続手続の全体を見通して効率的に進めましょう。なるべく費用や手間を抑えるため、相続開始後の流れについては、早めに司法書士などに相談することをおすすめします。