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未登記建物とは
未登記建物とは不動産登記をしていない建物のことですが、厳密には「表題部の登記」がされていない建物のことを指します。登記には大きく分けて「表題部の登記」と「権利部の登記」があり、表題部の登記には建物の所在や大きさといった物理的な情報が記載されています。
国内にある不動産の情報は、基本的にほぼすべて登記簿に記録されています。しかし、古い建物のなかには建築されたときに表題登記がされず、いままで未登記のままで引き継がれてきた建物があります。こうして生まれたのが、未登記建物です。この状態では、相続や売買の際に所有権を主張することが困難になる可能性があります。
登記は法律上の義務ですが、登記をするには建物の所有者自身が法務局で手続をする必要があり、建物が建ったら自動的に登記されるわけではありません。
未登記建物にも固定資産税は課税される
未登記建物であっても固定資産税の書類が毎年届き、固定資産税をきちんと支払っているというケースも少なくありません。これは、固定資産税の徴収は登記簿をもとにして行っているわけではなく、市区町村の役所が現地調査を行い、建物が建っていれば固定資産税を課税しているからです。
したがって、未登記の建物でも固定資産税を毎年支払っているということはあります。逆に言えば、「固定資産税を支払っているから未登記ではない」ということにはなりません。登記と固定資産税の賦課・徴収は必ずしも連動していないので、この点は誤解しないようにしましょう。
未登記建物の確認方法
登記がされているかどうかを確認する方法として、以下のような方法が挙げられます。
- 建物の登記事項証明書を請求する
- 固定資産税納税通知書の課税明細書「家屋番号」をみる
登記事項証明書は、登記簿に記録された情報をもとに作られるため、未登記の建物では発行できません。つまり、法務局で登記事項証明書を請求しても出てこなかったら、未登記建物である可能性が高いといえます。
また、市区町村から送付される固定資産税納税通知書に同封された課税明細書に、「家屋番号」が記載されているかでも確認できます。未登記建物の場合は家屋番号が空欄になっているので、家屋番号が空欄なら未登記建物である可能性が高いでしょう。この情報をもとに、相続時の手続や不動産の売買時に必要な確認を行うことが重要です。
相続時に未登記建物があった場合の扱い
遺産相続が始まる際、未登記の建物の扱いについて疑問を抱く方も少なくありません。未登記の建物も、他の財産と同様に相続の対象となります。つまり、建物が未登記のままその所有者が亡くなった場合、その建物を相続する相続人は、不動産登記法に基づき、その建物の表題登記を行う義務があります。
未登記建物の相続には、いくつかの重要なポイントがあります。まず、未登記建物も法的には財産として認識されるため、他の相続財産と同じように遺産分割協議の対象になります。相続人は、相続財産の一部としてこの建物の価値を評価し、遺産全体の分割方法を決定する必要があります。この際、土地や家屋の評価額を把握することが重要です。
さらに、未登記建物を相続する場合、その所有権を正式に相続人名義にするためには、表題登記を行わなければなりません。これは、不動産登記法の規定によるものであり、相続人にはこの義務を履行する責任があります。登記を行うことで、建物の所有権が法的に認められ、第三者に対してもその所有権を主張することが可能となります。表題登記についてはのちほど詳しく解説します。
未登記建物となってしまう具体例
登記が法律上の義務であるにもかかわらず、実際には国内に多くの未登記建物があります。このような未登記建物はどのようにして生まれるのか、ここでは未登記建物の具体的な事例を紹介します。
新築時に所有者が登記の義務を怠った
そもそも建物の登記は義務なので、通常であれば新築された時点で登記もされます。しかし、登記の手続は所有者が自分でするものであり、法務局が強制的に行うものではありません。そのため、所有者が義務を果たさず手続を怠ることで、未登記建物が生まれます。
法律上は登記をしない場合の罰則もありますが、実際には罰則が適用されて過料が科されたという事例はほぼ確認できていないため、未登記でも特に問題なく建物を使えていると考えられます。
増築部分の登記申請をしなかった
建物を増築した際も登記の申請が法律上義務付けられていますが、増築時に登記の申請が行われないことがあります。これは建物の所有者や施工業者が、増築時に登記が必要であると知らずに増築工事を行った事例などが考えられるでしょう。このため、増築部分が未登記建物として残ることがあります。
この場合、新築時に表題登記が行われた建物であれば、増築部分のみ未登記となります。
住宅ローンを利用しないで購入された
のちほど詳しく解説しますが、未登記の建物を購入する際は住宅ローンを組むことができないため、融資を受けられません。通常は金融機関から融資を受けることなく建物を購入するのは難しいですが、なかには住宅ローンを組まずに現金一括で建物が購入されることもあるでしょう。
このような場合、未登記建物のままでも建物の所有権を取得できるため、未登記の状態が続いてしまい、登記手続が放置されるケースもあります。
法的整備が整っていない時期に建物を建てた
古い建物が未登記である理由の1つとして、昔は不動産登記制度が整備されていなかったため、この当時に建てられた建物が登記されていなかったというケースがあります。特に戦前・戦後すぐの時期や、一部地方や農村部では、土地や建物の所有権が地域社会の合意や慣習に基づいて認識されており、正式な登記が不要とされていたことも一因とされています。
このような状況の建物は、未登記建物として放置されることが多く、相続の際に相続人が所有権を主張する際に問題が生じることもあります。
未登記の建物を登記する方法と費用
未登記の建物を所有している場合の登記手続について解説します。不動産登記には「表題部の登記」と「権利部の登記」があるため、それぞれの登記の方法を理解しておきましょう。この手続は自分でも行うことができますが、建物図面の準備や必要書類の判断が難しいため、専門家である司法書士に依頼する方がスムーズな手続となるでしょう。
なお、建物に資産価値がないため、わざわざ登記までしようと思わないという場合には、建物を取り壊すという手段もあります。
表題部の登記を申請する
未登記の建物には登記の記録が存在しないため、まずは表題登記をすることで新たに登記簿を作る必要があります。表題部の登記では以下のような書類が必要です。
- 登記申請書
- 建物図面、各階平面図
- 建築確認済証、検査済証
- 施工業者の工事完了引渡証明書
- 固定資産評価証明書
表題登記では、建物の所在地、大きさ、構造、所有者の情報など、建物の物理的な情報に関する記録が作られます。これらの情報を知るためには調査・測量が必要な場合もあり、そうなると基本的には自分ですべて行うのは難しいので、土地家屋調査士に依頼したうえで申請を行うことになるでしょう。特に、未登記建物の場合、正確な情報の把握が重要です。
権利部の登記を申請する
権利部には不動産の所有者や取得年月日、抵当権の有無といったような、権利に関する情報が記録されます。権利部の登記をすると所有権が公示され、第三者に対して所有権を主張できるようになります。
権利部の登記には、以下の書類が必要です。
- 登記申請書
- 住民票
表題部の登記と比べて必要な書類も少なく、手続はしやすいのですが、登記申請書の記入方法がわからないこともあります。そのため、基本的には司法書士に依頼して行うことが多いでしょう。
登記にかかる費用
未登記建物の登記にかかる費用としては、おおよそ以下のとおりです。
- 土地家屋調査士への依頼費用(表題部) :8〜12万円
- 司法書士への依頼費用(権利部) :2〜3万円
- 登録免許税:不動産評価額×0.4%
表題部の登記で土地家屋調査士に依頼する場合、建物が古いほど費用も高額になる傾向にあります。
未登記の建物を放置した場合のデメリット
建物を未登記にしておくと、以下のようにさまざまなデメリットが生じます。
- 罰則がある
- 融資を受けられない
- 売却しづらい
- 第三者に権利を主張できない
どのようなデメリットなのか解説するので、未登記の建物をそのままにすることのリスクについて知っておきましょう。
罰則がある
未登記建物の所有権を取得したら表題登記をすることが義務付けられており、これを怠った場合には10万円以下に処されます。もっとも、全国に未登記建物は数多くありますが、実際に過料が課されたというケースはほとんど確認できていません。
そのため、過料のリスクがあることには留意しておくべきですが、実際には罰則が抑止力として機能しているとは言い難いでしょう。
融資を受けられない
融資の際に不動産を担保とすることはよくありますが、未登記の建物上には権利を設定できないため、未登記建物は担保になりません。そして、担保なく住宅ローン融資を受けることはほぼ不可能なので、結果的に未登記建物では融資を受けることができないということになります。
また、同じようにリフォームをする際にも、建物を担保としてローンを組む場合があります。しかし、ここでも未登記建物は担保にならないので、ローンを組めず融資を受けることができません。そのため、未登記建物の場合にはリフォーム代金を一括で支払うことになるでしょう。
売却しづらい
未登記の建物では融資が受けられないことを説明しましたが、住宅ローンが組めないとなると建物を一括で購入しなければなりません。しかし、不動産を一括で購入できる人は、一般的に少ないでしょう。そのため、未登記建物は自分で購入するのが難しいのと同じ理由で、他人に売却するのも困難であるといえます。
また、未登記の建物は登記簿で所有者を確認できないため、本当の所有者が誰であるかという公的な証明がなく、買い手は取引に対して慎重になります。建物の購入という大きな買い物をする以上、わざわざ信頼性が低い未登記の建物を選ぶ人はあまりいないでしょう。この点からも未登記の建物は売却が困難であることがわかります。
第三者に権利を主張できない
第三者によって勝手に登記されると、所有権を奪われる恐れがあります。不動産の所有権は登記を行って初めて法的に認められるためです。未登記のまま放置していると、法律上の所有者としての権利を失うリスクが高まります。
物理的に建物を占有していて「実質的に所有している状態」であっても、登記が行われていないために、第三者がその建物を登記することが可能になります。これにより、その第三者が法的な所有者として認められ、実質的に所有している人は所有権を奪われてしまう危険性があります。
また、未登記の建物を購入したけど、あとから別の人にも同じ建物が売却されたという二重売買が行われたケースも考えられるでしょう。この場合、先にもう1人の購入者が自己の名義で登記をしてしまったら、その人に対しては所有権を主張できなくなります。その結果、購入したはずの建物の所有権を失うこともあるので、未登記建物には大きなリスクがあるのです。
未登記の建物を解体する際に確認すべきポイント
未登記の建物は解体可能ですが、登記済み建物と同様に解体することで予期せぬ問題を引き起こすリスクがあります。そのため、以下の点を事前に確認し、問題を未然に防ぎましょう。
他人が登記していないかの確認
未登記建物を解体する前に、他の人が登記していないか調べておきましょう。他人の名義が登記されている場合、所有者の許可なく解体すると建造物損壊罪に問われ、5年以下の懲役に処される恐れがあります。また、民事上の責任も問われ、多額の損害賠償が請求されるケースもあります。
未登記建物の関係者との話し合い
未登記建物の解体を進める際には、未登記建物との関係者と十分に話し合うことが重要です。未登記とはいえ、解体を安易に行うと、建物を使用していた人や、相続・贈与を予定していた人とのトラブルが発生する可能性があります。
相続時における未登記建物
相続が発生している状況で、未登記となっている建物を解体する場合、全相続人の合意が必要です。未登記建物でも遺産分割までは共有財産と見なされ、相続人全員で共有している状態となっているからです。
解体後の手続
解体後には家屋滅失届を役場に提出しましょう。家屋滅失届とはは、建物を解体した際に自治体へ提出する書類で、固定資産税の対象から外すための手続です。一方、建物滅失登記は未登記建物には適用されません。未登記の建物には法的な登記が存在しないため、解体後にわざわざ登記を行う必要もないことが理由です。
未登記建物は登記を済ませてリスクを減らしましょう
建物の登記は法律上の義務であり、登記を怠ると過料が科されますが、実際に過料が科された事例はほとんどありません。しかし、未登記のままだと第三者に対して権利を主張できないため、二重売買された場合などに建物の所有権を失う可能性があります。
未登記のままでも建物を使用することはできますが、これらのリスクを考えると登記をしておいた方が安心できます。登記の手続は自分で行うことができますが、手間をかけることなく正確に手続するには、司法書士などの専門家に相談して行うのがよいでしょう。