未登記建物を相続するために必要な手続や費用

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未登記建物とは

未登記建物とは、文字どおり登記がされていない建物のことです。具体的には不動産の大きさや構造といった物理的な情報が記載されている「表題部」の登記がない建物を、未登記建物といいます。

新築した建物や表題登記がない建物の所有権を取得した場合、取得日から1か月以内に登記することが法律上義務付けられていますが、実際には登記されることなく現在まで未登記のままになっている建物もあります。

このような未登記建物であっても、住むこと自体はできます。しかし、のちほど紹介するとおり、未登記のままではさまざまな弊害があります。

未登記建物の確認方法

未登記建物かどうかを確認する方法としては、以下の2つが挙げられます。

  • 建物の登記事項証明書を請求する
  • 固定資産税納税通知書の課税明細書「家屋番号」を見る

まず、未登記建物は登記簿が作られていないため、登記事項証明書を発行できません。そのため、もし登記事項証明書を請求しても取得できなければ、その建物は未登記ということになります。

また、市区町村から送付される固定資産税納税通知書とともに送付される課税明細書には、「家屋番号」が記載されていますが、未登記建物の場合にはこれが空欄になっています。

未登記建物にも固定資産税が課税される

未登記建物を所有している方の中には「未登記なのになぜ固定資産税が課税されているのか」と、疑問に思う方もいるかもしれません。

たしかに、固定資産に関する情報は法務局の登記簿をもとにしており、基本的には登記簿上に記載されている不動産に対して固定資産税が課税されます。しかし、建物が建っていれば登記簿とは別に市区町村の台帳に所有者が登録されているので、この台帳の情報をもとにして固定資産税が課税されている場合もあります。

そのため、固定資産税を支払っているからといって登記されているとは限りません。つまり、未登記建物でも固定資産税を支払っているケースはあるということです。

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未登記の建物を相続したら登記すべき?

結論からいえば、未登記の建物を相続したらきちんと登記するべきです。では、なぜ相続登記をすべきなのか、相続登記をしないとどのようなデメリットがあるかを解説します。

相続登記をすべき理由

相続登記をすべき理由としては、以下のようなことが挙げられます。

  • 法律によって登記が義務付けられている
  • 相続登記が義務化される(令和6年4月1日~)
  • 他人に所有権を主張できる

法律によって登記が義務付けられている

登記した方がよい理由として挙げられるのは、そもそも未登記建物の登記は法律上の義務であるということです。新築された建物や表題登記のない建物の所有権を取得したら、その日から1か月以内に登記申請することが不動産登記法によって義務付けられています。

そのため、未登記建物の所有権を得た場合、登記は任意ではなく「法律上しなければならない手続」なのです。法律には申請を怠った場合の罰則も定められており、もし申請を怠った場合10万円以下の過料が科されます。

相続登記が義務化される

未登記建物に限らず、令和6年4月1日からは相続によって不動産を取得した場合、所有権移転登記をしなければなりません。

これまで相続登記は法律上の義務ではなかったため、相続登記が行われない事例も少なくありませんでした。しかし、法改正によって相続登記は義務化され、正当な理由なく申請を怠ると10万円以下の過料が科されます。

そのため、令和6年4月1日以降は、相続によって取得した不動産に関しては未登記であるか否かにかかわらず、所有権移転登記をしなければなりません。

他人に所有権を主張できる

登記は法律上の義務であるという以外に、登記をしておけば他人に所有権を主張できるという効果があります。なぜなら、不動産登記簿には建物の所有権を記載する箇所があり、登記をしておくことで所有権を有していることの証明になるからです。

他人に所有権を主張できれば、第三者に権利を主張したり建物を担保にしたりできます。逆にいえば、未登記建物のままでは第三者に対して権利主張できず、建物を担保にいれることもできません。

建物を取り壊すという手段もある

相続登記が必要であることはわかっても、相続したのが古い建物であるため資産価値が低く、わざわざ登記をする気が起きないという場合もあるでしょう。その場合、建物を取り壊すという手段があります。

未登記建物を取り壊す場合、厳密にいえば表題登記を行ったうえで「滅失登記」を申請するというのが正しい手続であるといえます。しかし、取り壊すことがわかっているのに、わざわざ登記をするというのは現実的ではありません。

そのため、実際には登記をすることなく役所に「家屋滅失届出書」を提出するだけで済ませるというのが一般的です。そうすれば登記をする手間と費用をかけることなく、未登記建物の問題を解消できます。

未登記建物を相続した場合の登記手続

登記の内容は、土地や建物の物理的な情報を記録する「表題部」と、権利に関する情報を記録する「権利部」にわかれています。一般的な相続登記では所有者が変わるだけなので、所有権移転登記の手続のみで問題ありません。しかし、未登記建物の場合、そもそも建物の情報が登記簿上に記録されていないので、新たに登記簿を作る必要があります。

このことを踏まえ、未登記建物を相続した場合の登記方法について解説します。

遺産分割協議で建物を相続する人を決める

相続人が複数いる場合、まずは遺産分割協議によって誰が建物を相続するのかを決め、全員の合意をとる必要があります。遺産分割が成立したら遺産分割協議書に合意した内容をまとめます。

遺産分割協議書には相続する不動産を特定するために、本来であれば登記簿謄本を確認して正確な情報を記載します。しかし、未登記建物の場合、登記簿謄本を取得できません。そのため、遺産分割協議書には未登記である旨を記載しておき、固定資産評価証明書の内容を記載しておくなどします。

表題部の登記を申請する

遺産分割によって不動産を相続することが決まっても、未登記の建物には登記の記録が存在しないので所有権の登記をすることができません。そのため、表題登記を行い新たに登記簿を作る必要があります。

表題登記には建物の所在地、家屋番号、床面積、構造、所有者の住所氏名など、主に建物の物理的な情報を記録します。表題部の登記に必要な書類としては、以下のものが挙げられます。

  • 登記申請書
  • 建物図面、各階平面図
  • 建築確認済証、検査済証
  • 工事完了引渡証明書
  • 建物の評価証明書
  • 固定資産評価証明書
  • 相続に関する資料(被相続人の出生から死亡までの戸籍、被相続人の住民票、相続人全員の戸籍、相続人の住民票など)

表題部の登記では不動産の物理的状況を登記簿に反映するべく、調査・測量の結果を踏まえて登記申請手続を行います。そのため、基本的には自分ですべて行うのは難しく、土地家屋調査士に依頼して調査・測量を行い、代理で申請を行ってもらうことになります。

権利部の登記を申請する

権利部には不動産の所有者が誰か、いつ所有権を取得したのか、抵当権などの担保権がついているかといった情報が記録されます。権利部の登記をすることで所有権を公示でき、第三者に対して権利を主張できるようになります。

所有権保存登記に必要な書類は、下記のとおりです。

  • 登記申請書
  • 住民票

権利部では所有者の情報がわかれば登記が可能であるため、表題部と比べて必要な書類は少なくて済みます。ただし、登記申請書の記入方法に誤りがあると申請が通らないので、権利部の登記は司法書士に依頼して行うのが一般的です。

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未登記建物にかかる登記費用

相続のタイミングで未登記の建物を登記する際には、司法書士や土地家屋調査士に依頼することが一般的です。表題部と権利部の2つで別途費用がかかります。詳しくは以下のとおりです。

表題部にかかる費用

表題登記には、司法書士と土地家屋調査士の費用がかかります。司法書士の費用は2〜3万円程度で、登記手続の代行や書類作成を行います。土地家屋調査士の費用は8〜12万円程度で、建物の測量や図面作成を担当します。これらを合わせると、総費用は10〜15万円程度です。建物の規模や構造、地域によって費用が変動することもあります。

権利部(所有権保存登記)にかかる費用

権利部では司法書士への報酬額2~3万円程度とあわせて、登録免許税を支払う必要があります。この登録免許税は専門家に依頼するしない問わず必須の費用になります。

不動産の評価額×0.4%=登録免許税

たとえば、評価額が1000万円の建物の場合、登録免許税は4万円となります。

相続登記をしないデメリット

未登記建物を相続登記しないと、どのようなデメリットがあるのかについて解説します。登記が義務であるということは前提ですが、それ以外にも未登記のままにしておくと、さまざまなデメリットがあります。

  • 融資を受けられない
  • 建物を売却しにくい
  • 第三者に対して権利を主張できない
  • 固定資産税で損をする

以下では具体的にどのようなデメリットがあるのか、解説します。

融資を受けられない

未登記の建物を購入する際、住宅ローンの融資を受けることができません。これは、未登記の建物上には権利を設定できないためです。

一般的に住宅ローンを組む場合には担保が必要であり、通常であれば購入する不動産に抵当権を設定することでこれを担保とします。しかし、未登記の建物には抵当権を設定できないため担保にできず、住宅ローン融資を受けられないのです。

建物を売却しにくい

未登記建物は所有者を確認できないため、買主からすると「本当に所有者なのか」「別の人にも売っているのではないか」と不安になり、取引に対して慎重になります。そのため、通常の登記されている物件よりも売買がしづらいでしょう。

また、建物を売却したら、買主の権利を保全するために所有権移転登記が必要ですが、未登記建物はいきなり買主名義で登記できません。なぜなら、登記簿には権利が移転した経緯を正しく記録しなければならず、未登記の場合にはまず売主名義での登記からしなければならないからです。そのため、登記手続に手間がかかってしまい、売却のタイミングを逃してしまうというリスクがあります。

第三者に対して権利を主張できない

登記には第三者に対する対抗力があるので、登記がなければ第三者に対して正当な権利を主張できなくなります。

たとえば、もし自分の知らない間に他人名義で登記されてしまった場合、その相手方に自己の権利を主張できず所有権を失う可能性があります。また、相続した未登記建物が他人から借りている土地の上に建っていた場合、土地が別の人に売却されると借地権を主張できなくなり、新しい所有者から土地の明け渡しを求められたときにそれを拒めなくなります。

固定資産税で損をする

建物を建てると固定資産税の軽減措置がありますが、未登記だと市区町村に建物の存在を認識されず、軽減措置が受けられない可能性があります。また、自治体の現地調査で建物の所有者があとからわかった場合、これまで支払われていなかった過去分の固定資産税まで請求される可能性があります。

未登記建物を相続したら早いうちに登記をしましょう

未登記建物を相続した場合、所有権を取得した日から1か月以内に登記をすることが義務付けられています。不動産登記は単なる「名義」程度に捉えられがちですが、実際は不動産取引の安全を図るうえで非常に重要なものです。未登記のままでは建物を使用するうえで、さまざまな不都合もあるので、できるだけ早いうちに登記の手続を行うことをおすすめします。

登記の手続は自分ですることができますが、必要な書類の収集や申請書の記入方法など、知識なしでは難しい場合もあります。正確な手続を行うためには、土地家屋調査士・司法書士などの専門家に依頼する方が確実でしょう。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載