相続土地国庫帰属制度の特徴とメリット・デメリットを解説

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相続土地国庫帰属制度とは

令和5年4月に相続土地国庫帰属制度という新たな制度が施行されました。この制度は、相続または遺贈で取得した土地を、所有者の申請と法務局の審査を経て、国が所有・管理する制度です。土地の承継人の負担をなくして、登記申請や管理が放棄され所有者不明となるのを防ぐ目的があります。耕作放棄された土地や空き家など、いわゆる「負動産」の問題をスピーディに解決できるよう、制度の特徴やメリット・デメリットを整理しましょう。

要らない土地をシンプルな手続で引き取ってもらえる

相続土地国庫帰属制度の特徴は、要らない土地を申請および承認審査のみで手放せる点です。土地は一般に「有益な財産」だと考えられがちですが、その限りではありません。売却・活用の目処が立たない状況が年単位で続くと、固定資産税や管理コストのせいで赤字が膨らむ場合も多々あります。こうした状況の土地を国で引き取れるようにしたのが、相続土地国庫帰属制度です。

土地が所有者不明になるのを防止する

相続土地国庫帰属制度の主な目的は、所有者不明土地の発生防止にあります。所有者不明土地とは、政府で下記のように定義されています。

  • 不動産登記簿などを参照しても、所有者が直ちに判明しない土地
  • 所有者が判明しても、所有者に連絡がつかない土地

所有者不明土地は全国に20.3%以上・総面積は410万ヘクタールあると言われ、その面積は九州の土地面積以上です。政府が認識する3つの問題に、判明した土地所有者が負う問題を加えると、所有者がわからないままの土地には次の4つのリスクがあります。

  • 公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まない
  • 土地所有者の探索に多大な時間と費用を要する
  • 適切な管理がされず、周囲の土地や地域に悪影響を及ぼす
  • 上記で生じた損害につき、判明した土地所有者が賠償責任を負う

国による所有者不明土地対策は、下記のように法改正で進められてきました。相続土地国庫帰属制度は、令和3年、民事基本法制の見直しによって導入された制度です。

  • 【平成30年】所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の制定
  • 【令和元年】表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律の制定
  • 【令和元年】土地の適正管理を確保する観点から土地基本法の改正
  • 【令和3年】所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し

相続土地国庫帰属制度の開始時期

相続土地国庫帰属制度の申請受付は令和5年4月27日に開始されました。上記開始日にまだ相続登記が済んでいない土地や、上記期限より前に相続した土地も、制度による国庫帰属の対象です。利用に向けて検討中の人は、焦らずしっかりと申請条件を押さえて手続しましょう。

相続土地国庫帰属制度の申請条件

相続土地国庫帰属制度には、申請・承認を得るための一定の条件があります。

  • 【申請できる人】相続等により土地所有権の全部または一部を取得した者
  • 【申請できる土地】却下要件・不承認要件に該当しないもの
  • 【申請先】承認申請する土地の所在地を管轄する法務局
  • 【申請時期】相続または遺贈で土地を取得した後(登記前でも可)
  • 【申請方法】所定の申請書と添付書類を提出

申請できる人

相続土地国庫帰属制度の申請が認められるのは、相続等により土地所有権の全部または一部を取得した者です。申請人になるべき人は、土地の所有状況に応じて3パターンあります。

単独所有の場合

相続または遺贈により、特定の相続人が土地の全部を所有する場合、その相続人が相続土地国庫帰属制度の申請人です。亡くなった人から土地所有権の全部を直接もらうケース(図①)だけでなく、共有で相続した後に他の共有持分を相続して単独所有となるケース(図②)があります。

【図①:相続等により所有権の全部を取得した所有者】

単独所有の場合1_イメージ

【図②:相続等により所有権の一部を取得した者】

単独所有の場合2_イメージ

※参照:相続土地国庫帰属制度のご案内│法務省

単独所有の土地を共有で相続する場合

相続または遺贈により、土地所有権を共有する場合、共有者全員が共同して相続土地国庫帰属制度の申請人となります。もともと単独所有の土地につき、所有者が亡くなったときに相続人が2人以上いて、遺産分割前もしくは共有での相続を決めた場合(図③)が代表例です。

【図③:相続等により共有持分の全部を取得した共有者】

単独所有の土地を共有で相続する場合_イメージ

※参照:相続土地国庫帰属制度のご案内│法務省

共有持分を相続する場合

相続または遺贈により、共有持分を取得する場合、その取得者と他の共有者が相続土地国庫帰属制度の申請人です。申請するときは、図④の子A、図⑤の法人Zのように、譲渡等で共有持分を得た人も申請人となって協力してもらう必要があります。

【図④:相続等により共有持分の一部を取得した共有者】

共有持分を相続する場合1_イメージ

【図⑤:相続等以外の原因により共有持分を取得した共有者】

共有持分を相続する場合2_イメージ

※参照:相続土地国庫帰属制度のご案内│法務省

申請できる土地の要件

相続土地国庫帰属制度を申請できる土地は、帰属法および帰属政令で定める却下要件・不承認要件に該当しないものに限ります。各要件は次のように定められています。

却下要件

却下要件とは、通常の管理・処分をするにあたり過分の費用・労力を要することを指します。具体的には、次のように定められています。

  • 建物が建っている土地
  • 担保権や、使用または収益を目的とする権利が設定されている土地
  • 通路その他の他人による使用が予定される土地
  • 特定有害物質等による土壌汚染がある土地
  • 境界・所有権の存否・帰属または範囲について争いがある土地
  • 現に通路の用に供されている土地
  • 墓地内の土地
  • 境内地
  • 水道用地、用悪水路又はため池の用に供されている土地

不承認要件

不承認要件とは、費用・労力の過分性について個別の判断を要することを指します。具体的には、次のように定められています。

  • 勾配30度以上・高さ5m以上の崖がある土地
  • 工作物、車両、樹木、その他の有体物が地上に存する土地
  • 除去する必要のある有体物が地下に存する土地
  • 隣接する土地の所有者その他の者との争訟を必要とする土地
  • 上記の他、災害・獣害リスクがある・森林整備の必要がある・土地と共に管理費用以外の金銭債務を承継するなどの事情がある土地

申請できる場所

相続土地国庫帰属制度の申請ができるのは、承認申請する土地が所在する法務局の本局です。支店・出張所では申請できないため、注意しましょう。

申請のタイミング

相続土地国庫帰属制度の申請ができる時期は、対象の土地について相続または遺贈が発生したときです。相続登記(所有権移転登記)が未了でも問題なく、被相続人が登記名義人のままの土地でも構いません。

申請の方法

相続土地国庫帰属制度に申請するときは、所定の承認申請書を作成し、他の添付書類と共に土地を管轄する法務局・地方法務局の本局に提出します。添付書類には、印鑑登録証明書、相続・遺贈を証する書類(戸籍謄本など)の他に、土地の所在や状況がわかる資料も含まれます。山林や農業地帯にある営農をやめた土地は、現地に行くのが難しく、資料の取得に時間がかかる可能性があります。

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相続土地国庫帰属制度のメリット・デメリット

相続土地国庫帰属制度のメリットは、承認対象となる土地の範囲が広く、相続財産全体ではなく不要な土地だけ手放すことができる点です。一方で、審査を通すために一定のコストがかかる点は否めません。

相続土地国庫帰属制度のメリット

相続土地国庫帰属制度のメリットを具体的にすると、次の3点が挙げられます。従来の手放し方であった相続放棄にはない利点です。

1筆単位で申請できる

相続土地国庫帰属制度では、土地1筆から引き取りの申請を受け付けてもらえます。これからも住む予定のある自宅や、一定の利用価値のある土地は、そのまま所有し続けられます。

農地や山林も引き取りの対象になる

国庫帰属の申請ができるのは、建物を建てられる土地だけとは限りません。農地、山林、原野など、宅地転用できず持て余しがちな土地も、国による引き取りの対象です。

国庫帰属の基準がはっきりしている

相続土地国庫帰属制度の承認基準は明確化されており、準備を怠らなければ引き取り不可とはなりません。災害などの特殊なリスクがない土地なら、地上・地下の余計な有体物を撤去するだけで、問題なく引き取ってもらえます。

相続土地国庫帰属制度のデメリット

相続土地国庫帰属制度のデメリットは、承認審査や国庫帰属後の管理のため、一定のコストがかかってしまう点です。具体的には、次のような点が挙げられます。

審査手数料や負担金がかかる

制度で土地を国に引き取ってもらうための承認申請の際、土地1筆あたり1万4000円の審査手数料がかかります。その後、一定の基準で計算された10年分の管理コストである負担金(一律20万円)も必要です。なお、市街地区域または用途地域が指定される土地、森林など例外はあります。

審査を通すための準備に手間がかかる

制度の審査中は、法務局担当官からの電話や現地調査の立会いに協力する必要があります。申請以前にも、残置物があったり、境界トラブルなどが起きたりしている土地は、却下要件・不承認要件に該当しないよう、業者あるいは士業に依頼してあらかじめ対処しなければなりません。

相続放棄と相続土地国庫帰属制度の比較

相続した土地の所有負担が重い場合、旧法では相続放棄するのが一般的でした。もっとも、相続放棄は本来「国による土地の引き取り」を目的とする制度ではありません。そのため、相続放棄と相続土地国庫帰属制度では、手放すことになる財産の範囲を含め、手続や土地の権利が国に移る過程が全く異なります。

手放すことになる財産の範囲

相続放棄で手放すことになるのは、被相続人(亡くなった人)から受け継ぐ一切の財産です。不要な土地だけでなく、他の価値ある土地建物や現金・預貯金も手元に残せません。
一方の相続土地国庫帰属制度では、有益な財産はすべて手元に残し、指定した土地を1筆単位で手放せます。

手続の期限

相続放棄の申述には期限が定められており、自己のために相続があることを知ったときから3か月以内です。相続登記、債務の承認(借金の返済など)を行うと、上記期限内でも申述できません。一方、相続土地国庫帰属制度には手続の期限がなく、いったん相続登記した後でも申請可能です。不動産会社に依頼して査定してもらうなど、土地の価値を見極めてから国に引き取ってもらう判断ができます。

手続の費用

土地の引き取りにかかる費用を比較すると、相続土地国庫帰属制度の方が高額です。金額を押し上げているのは、負担金として納付する10年分の管理費用です。

相続放棄の実費

  • 申述手数料:相続人一人ひとりにつき800円
  • 相続財産清算人を選任する場合:相続人一人ひとりにつき800円+相続1件につき5075円
  • その他の負担金(土地の管理費用など):なし

相続土地国庫帰属制度の実費

  • 審査手数料:土地1筆につき1万4000円
  • 負担金(土地の管理費用):原則一律20万円

※返送用の郵便切手代、士業報酬は除く

国庫帰属の基準と条件

相続放棄された財産が国庫に帰属するまでは、官報公告、相続人不存在の確定、清算といったプロセスがあります。この間、放棄した土地は、選任された相続財産管理人あるいは相続放棄した人による適切な管理が欠かせません。

一方の相続土地国庫帰属制度は、相続人不存在の確定といった手続が全くなく、承認審査に通って負担金を納めれば、直ちに国庫に帰属します。そのため、相続人による土地管理を必要とする期間が短く済む可能性があります。

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相続土地国庫帰属制度の注意点・よくある質問

相続土地国庫帰属制度を利用する際は、土地の要件と審査期間に注意しましょう。見落としや事前準備の抜け漏れがあると、引き取り拒否・審査期間の長期化に繋がります。

土地の現況によっては利用できない

制度には却下要件・不承認要件があると説明したように、現況次第で利用できない恐れがあります。利用できるようにしたとしても、次のような事前の対策にコストがかかります。

  • 【土地に担保権が設定されている場合】事前に担保権者と相談し、抵当権抹消登記に対応してもらう必要がある
  • 【土地に相隣関係のトラブルが起きている】境界確定などの手続を済ませる必要がある(士業への依頼が必要)
  • 【土壌汚染や残置物が認められる】状況によっては国庫帰属不可、除染や環境整備をやってもらうための費用がかかる

国庫帰属まで半年から1年程度かかる

相続土地国庫帰属制度の申請をしても、問題なければすぐ結果が来るとは限りません。要件審査にあたり、標準的には半年から1年の処理期間がかかるとされています。事前相談や書類収集の時間を含めれば、最短でも1年弱かかるでしょう。

相続土地国庫帰属制度で押さえるポイント

相続土地国庫帰属制度は、不要な土地を1筆単位で国に引き取ってもらえる制度です。制度の内容や利用条件で押さえておきたいポイントは、次の5点です。

  • 農地・山林も引き取ってもらえる
  • 審査手数料(1万4000円)と負担金(原則一律20万円)がかかる
  • 却下要件・不承認要件に該当しないよう対処が必要
  • 共有の場合は共有者全員で共同して申請する
  • 申請から国庫帰属まで半年から1年程度かかる

制度で土地を引き取ってもらうときの手続は、土地および相続の状況によって異なります。司法書士に事前準備から申請代理まで任せれば、国庫帰属の障害になる要素をクリアして、スムーズに手続できます。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載