生前贈与とは?相続との違いや検討すべきケース、覚えておきたいメリットなどを解説

生前贈与とは?相続との違いや検討すべきケース、覚えておきたいメリットなどを解説_イメージ

生前贈与とは

生前贈与とは、存命中に自己の財産を他人へ譲ることであり、相続に変わる財産の移転手段としてよく活用されます。

相続との主な違いは、相手を選んで生前に財産を譲れるという点です。相続の場合、以下のいずれかの方法によって遺産分割を行いますが、相続は被相続人の死亡と同時に効力が発生するため、どの手段を選んでも生前に財産が移転することはありません。

  • 法定相続分に従って分ける
  • 遺産分割協議で分ける
  • 遺言書の内容で分ける

このように、生前贈与は財産の移転時期と受取人を自由に選択できる柔軟性があるのに対し、相続は被相続人の死亡時に相続人への財産移転が自動的に発生するという点で、両者には大きな違いがあります。

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生前贈与をするメリット

生前贈与をするうえでは、贈与の時期や方法を工夫することでさまざまなメリットが得られます。単なる税金対策だけでなく、家族の将来を見据えた資産の移転方法としても効果があるので、生前贈与の具体的なメリットや活用方法を理解しておきましょう。

生前に財産を譲れる

生前贈与を活用すれば、自分の判断で生前に財産を譲ることができます。たとえば、事業承継のため後継者に会社の株式を渡す、不動産を引き継いでくれる子に居住用の建物を贈与するといったことが可能です。

相続においても、遺言によって財産の分け方を決めておくことは可能です。しかし、相続人から十分な理解が得られないと遺留分の問題になり、遺言に沿った遺産分割が行われない場合もあります。遺留分とは、相続人に保障された最低限の相続分のことで、遺言によって相続分が侵害された際などに請求できます。

一方、生前贈与なら贈与の意図や理由を家族に直接説明できるので、遺留分の問題も含めて関係者の理解を得ながら財産を移転できます。このように、生前贈与は財産承継に関する自分の意思を確実に実現するために、非常に有効な手段であるといえます。

相続税を減額できる

生前贈与した財産には相続税がかからないため、相続税を減額できます。相続税には基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人)があり、遺産総額が基礎控除以下であれば相続税がかかりません。

そのため、生前贈与を活用して計画的に遺産総額を減らせば、相続税をかけることなく財産承継ができます。なお、生前贈与した財産には贈与税がかかりますが、贈与税を減額できる制度がいくつかあります。具体的な制度の内容については、のちほど詳しく解説します。

株式などの評価額上昇リスクを抑えられる

株式などの評価額が上昇する前に贈与することで、将来の相続税負担を抑制できます。

たとえば、現在1000万円の株式を保有しており、その株式が将来的に2000万円まで値上がりすると予想されるケースを考えます。この場合、すぐに贈与した場合と将来相続した場合の課税対象額には、以下のような差があります。

  • すぐに贈与した場合:贈与時の評価額1000万円に対して課税
  • 将来相続した場合:相続時の評価額2000万円に対して課税

このように、将来の価格上昇が予想される財産は、評価額が低いうちに贈与することで税負担を軽減できます。

将来の認知症を見越した対策に

判断能力が健全なうちに計画的な財産移転を行うことで、将来の資産承継をスムーズに進められます

認知症になると、自身の判断で財産管理することが難しくなります。その結果、自分では相続対策ができなくなり、家族間で財産管理をめぐるトラブルが発生するケースも少なくありません。また、家族の立場からも認知症発症後の財産管理の手間がなくなるので、家族の負担軽減にも繋がります。

ただし、贈与後の生活資金は確保しておく必要があるため、贈与の範囲や時期は慎重に検討することにも留意が必要です。

生前贈与を検討すべきケース

生前贈与を検討すべきケース_イメージ

生前贈与はさまざまな場面で活用できますが、よくある活用事例を3つ紹介します。前述したメリットを踏まえ、どのようなケースにおいて活用するとよいのかを理解すれば、生前贈与のメリットを最大限に活用できます。

必要なときに贈与したい

生前贈与の利点は、相続を待たずに財産を譲れるという点です。たとえば、住宅購入や結婚式の費用、教育資金や私立学校への進学費など、子や孫の人生の節目に応じて必要な資金を贈与できます。

相続では故人の死亡時期によって財産移転のタイミングが決まってしまいますが、生前贈与なら家族の重要なライフイベントに合わせて支援を行えます。これは、自分が亡くなる前に財産を移転できる生前贈与ならではのメリットといえるでしょう。

贈与する相手が若い

贈与相手が若い場合、のちほど解説する暦年贈与と相続時精算課税制度のどちらを利用しても、節税効果の高い財産移転が可能です。暦年贈与には年間110万円の基礎控除があり、110万円以下の贈与であれば非課税となります。そのため、毎年贈与を継続すれば相続税をかけることなく多額の財産を移転でき、受贈者が若いほど控除のメリットが大きいのです。

また、相続時精算課税制度においても、令和6年1月1日以降の贈与には暦年贈与と同じく毎年110万円の基礎控除が適用されます。このように、贈与する相手が若い場合には贈与税の軽減措置を活用することで、長期間かけて節税効果の高い財産移転ができます。

生前に話し合うことで相続人間の合意形成が望める

将来の相続で遺産分割をめぐる争いが予想される場合、生前贈与が有効な対策になります。たとえば「誰が自宅に住み続けるのか」「事業用資産は誰が引き継ぐのか」など、遺産分割協議では揉めやすいケースがあります。このようなケースにおいては生前に相続人との話し合いの場を設け、関係者の理解を得たうえで揉めそうな財産を生前贈与によって整理することが重要です。

このように、相続人との対話を重ねながら相続の準備を進めることで、円滑な資産承継への道筋をつけられます。贈与税の負担を軽減できる制度はいくつかあるので、状況に合わせて適切に活用することが重要です。多くの場合、これらの制度を活用して節税するために生前贈与を行うので、それぞれどのような条件でどれだけの節税効果が得られるのか、正しい知識を身に付けましょう。

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生前贈与の2つの制度

生前贈与には2つの制度があります。1つが「暦年贈与」で、もう1つが「相続時精算課税制度」です。自身が想定している贈与形式に近い制度を活用するとよいでしょう。

暦年贈与

暦年贈与は、1年間(1月1日~12月31日)に贈与した金額が110万円以内であれば贈与税が発生しない制度です。これを利用することで、数年にわたって贈与を行い、非課税枠を最大限に活用できます。たとえば、毎年100万円ずつ贈与すれば、10年間で合計1000万円を非課税で贈与することが可能です。

また、受贈者が複数人の場合、受贈者ごとに110万円まで非課税枠を適用でき、贈与税は超過分にのみ課税されます。このように、暦年贈与は計画的に活用することで、税負担を軽減できます。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母または祖父母などから18歳以上の子または孫などに対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。相続時精算課税制度を選択すると、合計額2500万円以下の生前贈与が非課税となります。また、相続時精算課税相続には年間110万円の基礎控除があり、課税対象額は基礎控除を引いたあとの金額になります。

以下で具体的な計算例を紹介します。

「父から毎年300万円を3年間贈与された場合」

  • 年間贈与額:300万円
  • 基礎控除:110万円
  • 課税対象:190万円
  • 課税対象合計:190万円×3年=570万円

この場合、課税対象の合計が570万円となり、2500万円以下になるため贈与税はありません。

ただし、相続時精算課税制度を選択した場合、相続時において相続財産と相続時精算課税制度を活用して譲った財産の額を合計して相続税を計算します。つまり、570万円に対しては贈与税はかかりませんが、相続税の課税対象になるということです。

贈与税を軽くする非課税措置

生前贈与では、贈与の目的や対象などの条件に応じて、非課税措置を受けられるケースがあります。適切に利用することで費用負担を抑えることが可能になるので、自身の状況に応じて活用していきましょう。

教育資金の一括贈与に関わる贈与税の非課税措置

教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置は、30歳未満の子や孫が祖父母などから教育資金として受け取る贈与について最高1500万円まで贈与税を非課税とする制度です。本制度は、令和8年3月31日までの特例措置として実施されています。対象となる教育資金と上限額は、以下のとおりです。

学校 学校以外の教育関連
上限額 1500万円 500万円
対象となる教育資金 入学金、授業料、学用品費など 学習塾、習いごと、スポーツ教室など

※参照:祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし│国税庁

本制度のメリットは、節税対策として将来相続するであろう財産を必要なタイミングで移転できるという点です。ただし、贈与者が亡くなった場合、未使用の分は相続財産に加算される点に注意が必要です。

住宅取得のために贈与を受けた場合の非課税措置

令和6年1月1日から令和8年12月31日までの間に、住宅取得のために父母や祖父母などの直系尊属から資金の贈与を受けた場合に、一定額まで贈与税が非課税となる制度です。非課税限度額は以下のとおりです。

  • 省エネなどの基準を満たす住宅の場合:1000万円
  • それ以外の住宅:500万円

※参照:直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税│国税庁

控除の条件は細かく設定されているため、ここでは主な条件のみをいくつか取り上げて紹介します。

  • 贈与を受ける人は18歳以上であること
  • 贈与を受ける人の年収が2000万円以下であること
  • 取得する住宅の広さが40~240平方メートル以下であること
  • 贈与を受けた翌年の3月15日までに住宅を取得し、居住すること

夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除措置

夫婦の間で居住用不動産を贈与した場合、最高2000万円までの控除が受けることができます。この控除の適用には、以下のような条件があります。

  • 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎたあとに贈与が行われたこと
  • 居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭を贈与すること
  • 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与を受けた者がその居住用不動産に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること

この控除が適用されれば最高2110万円までが非課税となります。

結婚・子育て資金の一括贈与における非課税制度

結婚・子育て資金の一括贈与における非課税制度とは、最大1000万円相当分まで贈与税が非課税になります。この控除の適用には以下の条件に当てはまる必要があります。

  • 受遺者1人にあたり最大1000万円(結婚資金は300万円まで)
  • 父母や祖父母からみた、18歳以上50歳未満の子や孫(前年所得が1000万円)
  • 控除の適用期間は令和7年3月31日まで(期間延長の可能性あり)

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生前贈与を行う場合の注意点

生前贈与を行ううえで、いくつか注意すべき点があります。正しい知識がないと期待した結果が得られない可能性もあるので、こちらで紹介する注意点を踏まえ、適切な生前贈与を行いましょう。

遺留分に注意する

特定の相続人に偏った贈与を行うと、ほかの相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。たとえば、父親が長男にのみ大きな金額の生前贈与をした場合、ほかの子が遺留分侵害額請求を行うと受贈者である長男が金銭を支払わなければならなくなります。また、事業承継のために会社株式を後継者である次男にのみ贈与した場合なども、長男や三男から遺留分侵害額請求を受ける可能性があるでしょう。

このようなトラブルを避けるためには、贈与の際に相続人に対して自分の考えを明確に伝え、贈与について了承を得ることが重要です。

定期金給付契約には110万円の基礎控除が発生する

定期金給付契約とは、「今後10年間、毎年100万円を贈与する」というように、一定額の財産を分割して定期的に金銭を受け取る契約です。この制度には贈与税の基礎控除である110万円が適用されます。

たとえば、定期金給付契約によって1000万円の贈与が行われた場合、課税対象となる額は1000万円から、基礎控除額110万円を引いた890万円となります。

特別受益を考慮する

生前贈与を行う際は、相続時に特別受益として持ち戻される可能性があることを認識しておく必要があります。特別受益とは、以下のような利益を一部の相続人だけが得ることです。

  • 婚姻もしくは養子縁組のための贈与
  • 生計の資本としての贈与

具体的には、以下のような贈与が特別受益に該当します。

  • 結婚時の持参金
  • 養子縁組の際の贈与
  • 事業開業資金
  • 住宅購入資金

特別受益があった場合、相続開始時に残された相続財産の額に合算されるため、その分だけ相続として受け取れる財産が減少します。これを特別受益の持ち戻しといい、持ち戻しがあることで相続人間の不公平を防ぐ効果があります。ただし、特別受益を持ち戻せるのは相続開始から10年間という期限があるので、この点もあわせて覚えておくとよいでしょう。

亡くなる7年前の贈与は相続税対象となる場合も

生前贈与加算は令和5年度の税制改正により、期間が従来の相続開始前3年から7年に延長されました。

これにより、相続税対策として暦年贈与を行っても、亡くなる7年前に行った贈与は贈与として認められず、相続財産扱いとなり相続税の課税対象となります。ただし、前述した非課税措置を受けている場合は、課税対象から外れます。

円滑な生前贈与は司法書士へ依頼しよう

生前贈与は、財産承継を計画的に進められる有効な手段です。相続税の軽減だけでなく、必要なタイミングでの資金提供や将来の紛争防止にも役立ちます。

教育資金や住宅取得の際の非課税制度、夫婦間の居住用不動産の配偶者控除など、状況に応じた優遇制度も整備されています。ただし、遺留分や特別受益の問題もあるので、生前贈与には慎重な検討が必要です。当事務所では、ご家族の状況や将来の相続を見据えた最適な贈与プランをご提案いたしますので、ぜひご相談ください。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載