相続放棄した場合の未支給年金・遺族年金の受け取り方とは?

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相続放棄しても未支給年金・遺族年金を受け取れる

相続放棄とは、相続人が相続開始後に相続権を放棄する法的手続のことです。相続放棄を行うと、その時点で相続人としての権利・義務が最初からなかったものとみなされ、相続財産を受け取ることはできなくなります。

しかし、相続放棄をしても、未支給年金と遺族年金は受給可能です。これは、未支給年金や遺族年金には相続財産ではなく、受取人の固有の権利に基づく財産、つまり「固有財産」として扱われるからです。

未支給年金・遺族年金とは

未支給年金とは、故人が受け取るはずだった年金のうちでまだ支給されていない分のことです。未支給年金は、本来受給権者に支給されるべきだった年金を遺族が代わって受け取ることができます

遺族年金は被保険者または元被保険者が死亡した場合に、その人によって生計を維持されていた遺族に対して支給される年金です。国民年金の被保険者が受け取る「遺族基礎年金」と、厚生年金の被保険者が受け取る「遺族厚生年金」の2種類があり、加入状況に応じていずれか、または両方を受給できます。

これら2つの給付は、いずれも社会保障制度の一環として遺族の生活保障を目的としています。相続財産ではなく受給権者固有の権利として法律で定められているため、相続放棄をしても受給が可能なのです。

誰が受け取れるのか

未支給年金の受給権者は、死亡した年金受給者と生計を同じくしていた遺族であり、具体的には以下の順番で優先順位が定められています。

  • 配偶者
  • 父母
  • 祖父母
  • きょうだい

遺族年金は遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類があり、受給できる対象者が異なります。なお、どちらのケースでも、被相続人によって生計を維持されていたことが条件となります。

  • 遺族基礎年金:子がいる配偶者、子本人(※)
  • 遺族厚生年金:配偶者、子、父母、孫、祖父母

※18歳到達年度の末日を経過していない、もしくは障害の状態にある20歳未満の子。

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未支給年金・遺族年金の手続方法と必要書類

未支給年金と遺族年金は、年金受給者が亡くなった際に遺族が受け取ることができる給付金です。どちらも複数の添付書類が必要であり、状況によって追加書類が必要となる場合もあるため、それぞれの手続方法と必要書類について説明します。

未支給年金を受け取る手続

未支給年金を受け取るためには主に「死亡の届出」と「年金請求の届出」の2つが必要であり、それぞれの書類にはいくつかの添付書類があります。事前にこれらの必要な書類を揃えたうえで、年金事務所または年金相談センターで行います。

未支給年金を受け取るための必要書類

死亡の届出と未支給年金請求の届出、それぞれに以下のような添付書類が必要です。

死亡の届出

  • 亡くなった人の年金証書
  • 死亡の事実を証明する書類(死亡診断書のコピー、住民票除票、戸籍抄本など)

未支給年金請求の届出

  • 亡くなった人の年金証書
  • 未支給年金・未支給給付金請求書
  • 続柄を確認できる書類(戸籍謄本など)
  • 亡くなった方の住民票除票
  • 請求者世帯全員分の住民票
  • 受け取り希望の金融機関の通帳
  • 別世帯の場合は「生計同一関係に関する申立書」

遺族年金を受け取る手続

遺族年金の請求は、住所地の市区町村役場の窓口で行います。ただし、死亡日が国民年金第3号被保険者期間中の場合は、年金事務所または街角の年金相談センターへの提出となります。

遺族年金を受け取るための必要書類

遺族年金の請求で主に必要な書類は以下のとおりです。なお、請求書は市区町村役場、年金事務所、街角の年金相談センターの窓口に備え付けてあります。

必要書類

  • 年金請求書
  • 基礎年金番号通知書または年金手帳
  • 戸籍謄本、または法定相続情報一覧図の写し
  • 世帯全員の住民票の写し
  • 死亡者の住民票の除票
  • 請求者の収入が確認できる書類
  • 子の収入が確認できる書類(義務教育終了前は不要)
  • 死亡診断書のコピーまたは死亡届の記載事項証明書
  • 受取先金融機関の通帳など(本人名義)

なお、マイナンバーを記入することで、戸籍謄本、住民票の写し、収入に関する書類の添付を省略できます。また、子の在学証明や収入証明についても省略可能です。

第三者行為による死亡の場合など、状況によって事故状況届や交通事故証明書などの追加書類が必要となることがあるため、具体的な必要書類は請求前に市区町村役場や年金事務所へ確認しましょう。

未支給年金・遺族年金を受け取る場合の注意点

未支給年金・遺族年金を受け取るうえでの注意点_イメージ

未支給年金や遺族年金の受け取りには、いくつかの重要な注意点があります。確定申告が必要となる場合や請求期限の制限、不正受給を避けるための手続など、以下では主な注意点について説明します。

確定申告が必要な場合がある

未支給年金は受給者の一時所得として扱われ、所得税の対象となります。これは未支給年金が相続財産ではなく固有財産とされているためです。ただし、一時所得には50万円の特別控除があるため、年金額が50万円以下であれば確定申告は必要ありません。

未支給年金が1か月分なら、特別控除の適用によって所得税がかからない可能性は高いでしょう。一方、繰り下げ受給を利用していた場合など、複数月分の未支給年金が発生するケースでは受給額が50万円を超える可能性が高くなります。確定申告が必要かどうかの判断に迷ったときは、税務署や税理士への相談を検討するとよいでしょう。

請求権は5年で時効となる

未支給年金や遺族年金には請求には5年の時効があります。支払日の翌月初日から起算して5年以内に請求する必要があります。この期限を過ぎると受給権が消滅し、原則として受け取ることができなくなります。時効の起算点は「支給日」となるため、たとえば6月15日が支給日の場合、その翌月7月1日から時効の計算が始まります。

不正受給になる可能性がある

年金受給者が死亡した場合、速やかに死亡届を提出しなければなりません。届出が遅れると、死亡後も年金が支給され続け、不正受給と見なされる恐れがあります。また、遺族年金についても、受給条件を満たしていない場合には、不正受給と判断される可能性があります。

もし、不正受給と判断された場合、過払い分の返還だけでなく加算金が発生し、受給した以上の金額を支払わなければならなくなることもあります。さらに、悪質な場合は刑事罰の対象にもなり得ます。

故人の口座に年金が振り込まれたら引き出せなくなる

未支給年金の受け取りには、振込口座の適切な管理が重要です。故人の口座は死亡が判明すると金融機関により凍結され、支給年金が振り込まれても引き出しができなくなります。このような事態を防ぐためには、速やかに受給権者死亡届を年金事務所に提出し、故人の年金の支給を停止することが重要です。手続を怠ると、故人の口座に年金が振り込まれ続けるリスクが高まります。

そのため、未支給年金の請求時には、必ず受取人本人名義の口座を指定しましょう。故人の口座に振り込まれてしまった場合、早急に年金事務所と金融機関に相談して返還手続を取ることが重要です。

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相続放棄後に受け取れる財産・受け取れない財産

未支給年金・遺族年金のように、相続放棄をした場合でも受け取れる財産はいくつかあります。ここでは、相続放棄後に受け取れる財産と受け取れない財産について、それぞれ詳しく説明します。

相続放棄をしても受け取れる財産

相続放棄をしても受け取れる財産としては、社会保障制度における給付金や受取人指定のある保険金、また喪主への贈与物などがあります。これらは法律上、相続財産とは異なる性質を持つものとして扱われており、遺族の生活保障の観点からも重要な役割を果たしています。以下がその具体例です。

死亡退職金・未払給与

会社の就業規則で受取人が遺族と明確に定められている場合、これらは遺族の固有財産となります。ただし、受取人の指定がない場合は相続財産となるため、受け取ることはできません。

祭祀財産

お墓や仏壇などの祭祀財産は、法律上特別な扱いを受け、相続放棄をしても祖先の祭祀を主催すべき者として承継することが可能です。

香典・葬祭費

香典は喪主への贈りものであり、故人の財産ではありません。また、健康保険からの葬祭費や埋葬料も、葬儀を行った人への給付金として扱われるので、相続放棄をしても受け取ることが可能です。

死亡保険金

生命保険の死亡保険金は、保険契約において受取人が故人以外に指定されている場合には相続財産には含まれません。また、保険約款で法定相続人が受取人と定められている場合も、相続放棄後でも受け取ることができます。

死亡一時金

死亡一時金は、国民年金の保険料を3年以上納付した方が年金(老齢基礎年金・障害基礎年金)を受けることなく亡くなった場合に、その遺族に支給される一時金です。受給権者は、配偶者、子、父母、孫、祖父母、きょうだいの順で受けることができます。

死亡一時金は社会保障制度における給付金として、遺族の固有財産に位置づけられているため、相続放棄をしても受け取ることができます。

相続放棄をすると受け取れない財産

相続財産に該当するものは、相続放棄後は一切受け取ることができません。以下の財産を受け取ってしまうと、相続する意思があったとみなされ、相続放棄が無効となる可能性があります。

預貯金・不動産などの基本財産

故人が所有していた現金、預貯金、不動産、株式などの財産は、すべて相続財産となります。相続放棄後はこれらを受け取ることはできません。

被相続人に還付される税金や年金・保険金

税金や健康保険料の還付金などは相続財産に含まれ、相続放棄後は受け取ることができません。ただし、死亡保険金や死亡退職金については、先ほど説明したとおり受取人が相続人となっている場合には相続放棄をしても受け取れます。

相続放棄した場合の年金でお困りなら司法書士にお任せ

相続放棄をしても、未支給年金や遺族年金のほか、死亡一時金、受取人指定のある死亡保険金など、「固有財産」に該当する給付金は受け取ることができます。ただし、未支給年金には5年の時効があるほか、場合によっては受け取った際に確定申告が必要になるケースもあります。

また、死亡保険金や死亡退職金は、受取人の指定状況によって相続財産となる場合もあるため、事前の確認が重要です。このように、相続放棄をした場合に未支給年金・遺族年金などを受給する際は、いくつかの注意点があります。

そして、相続放棄は一度行うと取り消すことができない重要な法的手続です。当事務所では、相続放棄に関する相談を承っており、経験豊富な司法書士が依頼者様の状況に応じて最適なアドバイスを提供し、確実な手続をサポートいたします。ご不安な点やご要望があれば、ぜひお聞かせください。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載