生活保護中でも遺産相続・相続放棄は可能?受給を継続できるケースなどを解説

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生活保護受給者でも遺産相続・相続放棄はできる

生活保護受給者でも遺産相続・相続放棄できるのかどうかは、生活保護法における受給資格と民法の相続規定の両面から考える必要があります。

生活保護を受給していることは、基本的に相続権に影響を与えませんが、相続後の資産状況によって生活保護の継続受給に関わってくる場合があります。そのため、それぞれの法律の規定を正しく理解することが重要です。

生活保護の受給資格について

生活保護の受給資格は生活保護法によって以下に定められており、受給要件を満たせば生活保護を受給できます。

第四条

保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。

2 民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。

※引用:生活保護法第四条|e-Gov法令検索

上記の規定からすれば、生活保護の受給要件としては以下が挙げられます。

  • 生活に困窮している
  • 利用し得る資産や能力を生活維持に活用している
  • 親族の扶養や法律に定められた扶助などを最大限活用している

相続権を有するのは法定相続人

相続に関しては、民法で法定相続人についての定めがあり、この法定相続人に該当する人が相続権を有します。ただし、民法には廃除・欠格といった相続権を失う規定も存在し、これらに該当する場合には法定相続人であっても相続人から外される場合があります。つまり、生活保護受給者が遺産を相続するには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 法定相続人である
  • 廃除・欠格事由に該当しない

ただし、生活保護の受給要件や相続権は法的な判断を含むため、個別の事案ごとに検討が必要です。気になる点などあれば、生活保護のケースワーカーや司法書士・弁護士などに相談するのがおすすめです。

相続放棄も可能

生活保護を受けていても相続放棄は可能です。相続放棄は法律上認められた相続人の権利であり、生活保護を受けているからといってその権利が制約されることはありません。実際に裁判所の判例でも、「相続放棄のような身分行為は他人の意思によって強制すべきではなく、相続人に対し相続の承認を強制するような行為は不当である」との判決があります。

もっとも、前述のとおり生活保護法にも「利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」と定められているので、相続によって生活維持ができるなら、本来それを活用すべきであるというのが法の趣旨であると考えられます。

以上のことからすると、生活保護の受給は相続放棄を妨げるものではありませんが、やはりこの場合も必ず担当のケースワーカーに相談し、よく検討してから相続放棄を決めるべきであるといえます。

※参照: 裁判例結果詳細(昭和49年9月20日)│裁判所

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遺産相続で生活保護が停止・廃止する可能性とは

生活保護の受給者であっても遺産相続をする権利はありますが、相続財産の内容によっては生活保護が停止・廃止してしまう可能性があります。停止とは一時的に保護費の支給が止まることで、廃止とは生活保護の受給資格を失うことです。これは、生活保護法に以下のような定めがあるからです。

第八条

保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。

※引用:生活保護法第八条│e-Gov法令検索

つまり、生活保護は不足分を補う制度であり、相続財産で生活を賄うことができるのであれば、相続財産を優先して生活費に充てるべきであるということです。

なお、金額の大小問わず一定の額の財産を相続したら必ず福祉事務所へ相談が必要です。一般的には最低生活費の6か月分までであれば停止・廃止にはならないとされていますが、明確に6か月という基準を設けているわけではないためです。

これらを踏まえつつ、具体的にどのようなケースであれば生活保護を継続でき、どのようなケースで停止・廃止になるのかを解説します。

生活保護が継続できるケース

相続しても生活保護を継続できるのは、以下のようなケースです。

  • 自立更生のための費用に充てる
  • 処分が難しい・処分にかかる費用が高い

それぞれどのようなケースなのかを、具体的に解説します。

自立更生のための費用に充てる

自立更生のための費用とは、生活保護を受けずに自立するための費用のことであり、たとえば仕事に必要な技能の習得費などが該当します。相続財産を受け取ったとしても、自立更生費に充てるのであれば生活保護を継続したまま遺産を相続できます。

もっとも、何が自立更生とみなされるかの判断は慎重に検討する必要があるため、受給者自身が判断するのではなく、必ず福祉事務所と相談したうえで決める必要があります。また、相続財産が居住用不動産であった場合でも生活保護を継続できることがあるので、この点についても福祉事務所に相談することをおすすめします。

処分が難しい・処分にかかる費用が高い

処分が難しい、あるいは処分価値が低い財産の例としてあげられるのは、地方の山林や田畑などです。相続によってこれらの不動産を取得しても、売却に手間がかかるうえに価値が低いということはよくあり、このような不動産であれば相続しても生活保護を継続できる可能性があります。

生活保護が継続できないケース

以下のようなケースでは、相続をすると生活保護を継続して受給できなくなる可能性があります。

  • 福祉事務所への報告を怠った
  • 相続があることを事前に知りながら生活保護を申請した

福祉事務所への報告を怠った

生活保護受給者には収入・支出に変更があった際の報告義務があるため、相続したのに福祉事務所への報告を怠ることも生活保護が停止・廃止される要因になり得ます。

相続があることを事前に知りながら生活保護を申請した

近い将来に相続があることを知りながら生活保護を申請し、実際に生活保護の開始後に相続を受けた場合も、生活保護が停止・廃止される可能性があります。

この場合には過去に支給された保護費の返還を求められることもあります。保護費の返還においては、金銭を受け取ったことを意図的に隠していたなどの不正な手段があった場合、通常の返還額よりも40%上乗せされた金額の返還を求められます。

生活保護の再申請は可能

遺産相続により生活保護が打ち切られた場合でも、その後に再び生活が困窮し受給要件を満たす状況になれば生活保護の再申請が可能です。たとえば、相続した遺産を生活費として使い切り、再び最低限度の生活を維持できない状態になった場合などが該当します。

ただし、再申請の手続は受給が打ち切られた理由によって異なります。生活保護停止の状態であれば、申請により比較的速やかに受給を再開できますが、生活保護廃止となっていた場合は新規申請と同様の審査が必要となります。また、いずれの場合でも再申請時には現在の収入や資産状況、これまでの生活状況などについて詳しい説明が求められます。

遺産相続による打ち切りの場合、相続した財産の使途について明確な説明ができることが重要なので、多額の相続財産を短期間で費消した場合などは、使途について細かく聞かれる可能性があります。

相続手続の流れ

相続手続の流れ_イメージ

生活保護受給者が遺産相続をする場合も、基本的な手続は通常の相続と同じです。ただし、生活保護の継続に影響が出る可能性があるため、福祉事務所への報告と相談を適切に行う必要があります。以下で具体的な流れについて解説します。

福祉事務所への報告

相続の可能性が判明した時点で、まず担当のケースワーカーに報告する必要があります。相続する財産の内容によって生活保護の継続に影響が出る可能性があるため、早めの相談が重要です。

なお、次項以降の手続の各段階でも都度福祉事務所の担当ケースワーカーと密に連絡を取り、適切な助言を受けることが大事です。連絡を怠らぬよう注意しましょう。

遺言書の確認と相続人調査

被相続人が遺言書を残しているかを確認します。遺言書があれば原則としてその内容に従って相続を進め、遺言書がない場合は相続人を確定させる必要があります。相続人を確認するためには、戸籍謄本を収集して法定相続人を特定する必要があります。

相続財産の調査と報告

被相続人の財産を調査します。プラスの財産としては預貯金、不動産、有価証券、貴金属などがあります。一方、住宅ローンや借金などのマイナスの財産も相続の対象となります。これらのプラスの財産・マイナスの財産双方が明確になることで、ケースワーカーから生活保護の継続についての判断がなされます。

相続の選択と期限

相続人は被相続人の死亡を知った日から3か月以内に「単純承認」「限定承認」「相続放棄」のいずれかを選択する必要があります。

  • 単純承認:プラス・マイナスの財産をすべて相続
  • 限定承認:プラスの財産の範囲内でマイナスの財産も相続
  • 相続放棄:相続する権利を放棄する

特に生活保護受給者の場合、相続する財産によって保護の継続に影響が出る可能性があります。

遺産分割協議

相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの財産を相続するかを話し合って決めます。協議が整えば遺産分割協議書を作成しますが、相続人の意見が対立して話し合いがまとまらない場合は家庭裁判所に調停を申し立てます。もし、調停でも解決しない場合は審判に移行して裁判所が分割方法を決定することになります。

相続手続完了後、福祉事務所へ最終報告

相続に関する手続が完了したら、その結果を速やかに福祉事務所へ報告します。この報告をもとに、生活保護の受給額の再検討が行われる場合があります。不本意な不正受給となるのを防ぐためにも正確な情報を伝えましょう。

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相続放棄手続の流れ

相続放棄は一度行うと取り消すことができないため、慎重に判断する必要があります。相続時と同様に担当のケースワーカーとも相談しながら以下の手続を進めていきましょう。

相続放棄の検討と担当ケースワーカーへの相談

生活保護受給者が相続人となった場合、まずは担当のケースワーカーに相談することが重要です。なぜなら、相続放棄の選択は生活保護の受給継続に大きく影響を与えるためです。また、相続放棄をする場合でも、その判断が適切かどうかを担当者と十分に検討する必要があります。相談の際は、被相続人との関係や相続財産の情報を伝え、今後の生活保護受給にどのような影響があるのかを確認しておきましょう。

相続放棄の判断に必要な財産調査

相続放棄を決断する前に、被相続人の財産状況を詳しく確認することが重要です。主な確認対象は預貯金と不動産であり、預貯金は通帳や金融機関からの郵便物、不動産は固定資産税通知書や名寄帳などで調査できます。

特に注意が必要なのは、定期的な支払いの有無や借入金の存在です。これは、一見プラスの財産に見える預金が実は債務の返済に充てられている可能性があるためです。また、不動産についても、固定資産税や管理費用などの負担が発生する可能性があります。

相続放棄の必要書類の準備

相続放棄の手続では、以下の書類が必要となります。

  • 相続放棄の申述書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 申述人の戸籍謄本
  • 被相続人の戸籍謄本
  • 印鑑(認印可)

ただし、申述人の状況に応じ、追加の書類が必要となる場合があります。必要書類の詳細は裁判所公式サイトで確認できますので、申し立ての前に必ず確認しましょう。

※参照:相続の放棄の申述│裁判所

家庭裁判所での申し立て手続と照会対応

相続放棄は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で、相続開始を知った日から3か月以内に申し立てる必要があります。申し立ては原則として相続人本人が行いますが、未成年者の場合は法定代理人が行います。

申し立てが完了すると、数日後に家庭裁判所からの照会書が届きます。これは相続放棄の意思が申述人本人の真意に基づくものかを確認するための重要な書類であり、同封されている回答書は返送が必要です。

回答書では、相続放棄の制度を理解していることや、自らの意思で相続放棄することなどを確認します。必要事項を記入したら、確実に返送しましょう。

相続放棄申述受理通知書の受理

相続放棄の手続が完了すると、相続放棄申述受理通知書が返送されます。この通知書は、相続放棄が正式に認められたことを証明する重要な書類であり、再発行ができないため適切な保管が必要です。受理通知書を受け取ったら、速やかに担当のケースワーカーに報告しましょう。

なお、相続放棄が完了したら、債権者からの支払請求への対応や金融機関での各種手続の際に、相続放棄申述受理証明書の発行を求められることがあります。こちらは相続放棄申述受理通知書とは異なり、必要に応じて申請・発行ができます。

生活保護受給者の方の相続も司法書士にお任せ

生活保護受給者でも遺産相続は可能ですが、相続財産の種類や金額によって生活保護の継続可否が変わります。また、生活保護受給者でも相続放棄は法律で認められた権利として可能です。ただし、相続放棄は一度行うと取り消すことができず、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所での手続が必要です。相続放棄を検討する場合も、担当ケースワーカーとの相談が重要となります。

当事務所では、相続・相続放棄のどちらが最適な選択かを一緒に検討し、必要な手続や関係機関への報告まで、経験豊富な司法書士がトータルでサポートいたします。相続に関する悩みは1人で抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載