目次
数次相続とは
数次相続とは、最初の相続が承認され遺産分割が完了する前に相続人が死亡し、次の相続が発生する状態を指します。たとえば、父親が亡くなり、その財産を相続する予定の長男が手続を終える前に亡くなると、父親と長男の両方の遺産分割が必要になります。
数次相続で相続放棄をしようとする場合、相続人は1回目の相続について承認済みであるとみなされるため、2回目の相続に対してのみ相続を放棄するか承認するか判断が可能です。しかし、財産の分配が複雑になりやすく、特に負債が絡む場合にはトラブルの火種になることもあります。
数次相続で相続放棄できるのは
数次相続が発生している状態で、放棄を選べるのは原則2回目の相続のみとなります。たとえば、1回目の相続を単純承認している場合、その財産や負債の受け継ぎはすでに確定しているため、後から放棄することはできません。一方で、2回目以降の相続については、新たに発生した相続として放棄することができます。
ただし、2回目の相続放棄が1回目の財産や負債にどのような影響を及ぼすかを慎重に確認する必要があります。特に相続財産の調査不足や手続の遅れはトラブルの原因となるため、相続放棄を選択する際には専門家に相談し、適切に対応することが重要です。
数次相続・再転相続・代襲相続の違い
相続が2回以上続くケースには、数次相続だけではなく「再転相続」や「代襲相続」と呼ばれるものもあります。これらは取り扱いが異なるため、仮に第2相続まで起きるものとして、それぞれの仕組み確認しましょう。数次相続や再転相続、代襲相続ではそれぞれ状況や手続が異なるため、相続放棄を検討する場合には慎重な判断が求められます。
数次相続
相続を承認し遺産分割協議が完了する前に相続人が死亡するケースです。相続が2回続くケースでは、第1相続の遺産の取り分を決める前に第2相続が起きる場合に、数次相続として取り扱います。
再転相続
再転相続とは、一次相続の法定相続人が死亡してしまい、遺産を承認するか放棄するか判断していない状態で、再び相続が発生した状態のことを指します。
代襲相続
原則として直系の家族において、子に続く形で親が亡くなるケースです。この場合、親の相続権は孫に直接継承されるため、数次相続・再転相続と異なり、相続が起きた回数は1回としてカウントします。
数次相続における相続放棄の手続の方法・流れ
数次相続における相続放棄の手続は、通常の相続放棄と比べて複雑です。基本的な手続の流れを示すと、次のようになります。
- 相続人調査・相続財産調査
- 必要書類を用意
- 費用を準備する
- 家庭裁判所に相続放棄の申述
- 照会書対応と相続放棄の正式手続
- 相続税申告
- 相続人調査・相続財産調査
相続人調査・相続財産調査
数次相続においては、相続人と相続財産を正確に把握する必要があります。特に相続放棄を検討する場合は、プラスの財産だけでなく、債務などのマイナスの財産も含めて慎重に調査を行いましょう。
相続人の調査方法
戸籍謄本を取得して相続人関係を確認します。被相続人の出生から死亡までの戸籍を取り寄せましょう。取り寄せた戸籍謄本に基づいて、相続人を確定させるのが目的です。
相続財産の調査方法
不動産については、法務局で登記事項証明書を取り寄せ、所有者と権利関係を確認します。預貯金は被相続人名義の金融機関に対して残高証明書を請求しましょう。
また、借入金や税金などの債務の調査も行います。なお、放棄するつもりの相続であっても、受け取れる可能性のある財産がないか注意して確認しましょう。相続放棄しても受け取れる財産には、死亡保険金などがあります。
必要書類を用意
相続放棄の手続にかかる書類については、申述人や相続状況によって異なりますが、いずれの場合においても、以下の書類は共通で必要になります。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票の除票(または戸籍附票)
- 申述人の戸籍謄本
- 収入印紙
- 連絡用の郵便切手
前述のとおり、数次相続は揃える書類が多くなるため、申請時に不足分が出ないように慎重に揃えましょう。
費用を準備する
相続放棄の手続にかかる費用は、おおよそ数千円~1万円程度です。その内訳は必要書類の取り寄せや手続の郵送代などになります。手続を専門家に依頼する場合は別途費用がかかる点に注意しましょう。
- 申述書に添付する印紙代:800円分
- 連絡用の郵便切手:申請する家庭裁判所との距離によって変動
- 被相続人の住民票の除票または戸籍附票:300円
- 被相続人の死亡記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本:750円
家庭裁判所に相続放棄の申述
相続放棄を行う場合は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書を提出します。たとえば「祖父について相続放棄し、父については財産を受け取る」といったケースでは、祖父の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に書類を提出しなければなりません。
照会書対応と相続放棄の正式手続
申請後、家庭裁判所から送付される照会書に回答し返送すると、約10日後に「相続放棄申述受理通知書」が届きます。これで相続放棄が正式に認められますが、通知書は再発行ができないため保管が必要です。また、必要に応じて「相続放棄申述受理証明書」を取得し、債権者対応や金融機関での手続に備えましょう。
相続税申告
相続放棄した人について受け取った財産(死亡保険金など)がある場合は、原則として相続税の申告が必要です。申告期限は、相続開始を知った日から10か月以内です。なお、一次相続分の相続税申告は、二次相続の相続人に限り、二次相続の発生後10か月以内に期限を延長することが可能です。
なお、数次相続の相続税申告では、前回の相続税額のうち一定額を控除する「相次相続控除」が利用できる場合があります。適用条件が整っていれば忘れずに適用するようにしましょう。
相続放棄以外の選択肢
負債などを含めた財産すべてを相続する単純承認を避けたい場合、相続放棄以外にも選択肢があります。それぞれの方法を理解し、自分や家族にとって最適な手段を選ぶことが大切です。
遺産分割協議の活用
遺産分割協議を通じて、財産や負債の分配を柔軟に調整することも可能です。相続人全員で話し合いを行い、相続財産を誰がどのように引き継ぐのかを決めることで、負債の負担を軽減したり、円滑な財産分配を実現したりする可能性があります。
限定承認
限定承認は、相続した財産のプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ方法です。これは、負債が財産の額を超えるリスクを回避するための方法です。この手続には家庭裁判所への申し立てが必要であり、相続人全員の協力が得られるかどうかが大きなポイントになります。
再転相続における相続放棄
ここでは数次相続と勘違いしやすい再転相続における相続放棄について解説します。再転相続は、相続を承認するか否かか確定されていないため、一次相続と二次相続以降、それぞれで判断する必要があります。
以下では、相続放棄を行う3つのパターンについて、それぞれの相続を承認または放棄できるかについて詳しく解説します。相続放棄の順番やタイミングによって、最終的に相続する財産や負担が大きく異なる可能性があるため、各パターンにおける適切な手続方法とその結果を把握することが必要です。
一次相続を放棄して二次相続を承認
一次相続の放棄後、二次相続を承認することで、一次相続の財産(借金など)は引き継がれず、二次相続のみを相続します。手続の順番に関係なく結果は同じです。
一次相続を承認して二次相続を放棄
原則として一次相続の承認後に二次相続を放棄することは認められません。二次相続では、一次相続の相続権も承継しているため、二次相続を放棄すると最初から相続人でなかったと見なされるためです。
一次相続・二次相続ともに放棄
2つの相続を放棄する場合、二次相続の放棄を行えば自動的に一次相続も放棄されるため、改めて一次相続の放棄手続は不要です。なお、同時に放棄手続を行っても同じ効果が得られます。
相続放棄をする際の注意点
相続放棄は、財産や負債を一切引き継がない選択肢ですが、慎重な対応が求められます。特に期限や手続の流れを理解し、財産の全容を把握することが重要です。
相続放棄ができる期間は3か月
数次相続における熟慮期間は、第2相続の相続人が相続の開始があったことを知ったときから3か月となります。一次相続と二次相続の両方の相続状況を加味したうえで判断する必要があるため、財産や負債の内容を十分に調査することが重要になります。
熟慮期間の延長は可能
熟慮期間内に判断が困難な場合、家庭裁判所に申請することで延長が可能です。この延長が認められるケースとしては、相続財産の調査が完了せず相続放棄の判断ができない場合などがあります。「単純に忙しくて手続できなかった」などでは認められないため注意しましょう。
相続放棄のリスク
相続放棄は相続財産の全容を正確に把握したうえで、検討するようにしましょう。あとからプラスの価値が高い財産が見つかっても放棄を撤回することはできません。そのため、負債が見つかっても安易に相続放棄を選ばす、ほかの状況を踏まえたうえで判断するようにしましょう。
数次相続や再転相続の放棄手続は専門家へご相談を
数次相続や再転相続における相続放棄の手続は、非常に複雑で慎重に進める必要があります。前回の相続に関連する書類や手続も絡んでくるため、注意すべき点が多岐にわたります。
こうした複雑な手続をスムーズに進めるためには、司法書士などの専門家のアドバイスを受けることが重要です。専門家に相談することで、誤った手続や不利益を避け、正確な対応が可能になります。もし手続に不安を抱えている場合は、ぜひ当事務所へご相談ください。経験豊富な司法書士が丁寧にサポートいたします。