市役所で相続放棄の相談や手続はできる?相続時における役割などを解説

相続放棄を行う場合に市役所でできる相談や手続ついて解説_サムネイル

相続放棄は市役所で手続できない

相続放棄は裁判所へ申述して行う手続であるため、市役所ではできません。相続放棄をする際は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所での手続が必要です。

手続自体は市役所で行えませんが、相続放棄に必要な準備や相続に関わる手続をするうえでは市役所が活用できます。なお、相続放棄には期限があるため、申請先や手続方法などを正確に把握し、期限を過ぎることがないよう入念に準備をしておきましょう。相続放棄の期限は、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内です。期限を過ぎてからの申述は原則認められません。

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相続放棄の手続で市役所ができること

相続放棄の手続は市役所ではできませんが、手続に必要な書類は取得できます。

相続放棄の必要書類の発行

相続放棄では、一般的に以下の書類が必要です。

  • 相続放棄申述書
  • 申述人の戸籍謄本
  • 被相続人の住民票除票または戸籍の附票
  • 被相続人の戸籍謄本(被相続人と相続人の関係性によって異なる)

このうち、戸籍関係の書類や住民票の写しは市区町村の窓口で発行できますが、相続放棄申述書は裁判所公式サイトからダウンロードします。

書類の発行費用

それぞれの発行費用は、以下のとおりです。

書類名 費用額
戸籍謄本 450円
住民票の除票 200~300円
戸籍の附票 200~300円

住民票除票や戸籍の附票の費用に幅があるのは、自治体によって金額が異なるためです。基本的には300円の自治体が多いのですが、一部の自治体では200円で発行できます。取得方法は窓口での発行のほか、郵送やコンビニ交付ができる場合もあります。取り扱いは自治体によって異なるため、詳しくは発行する自治体の公式サイトなどで調べる必要があります。

市役所でも相続放棄の相談ができる

市役所でも相続放棄の相談ができる_イメージ

市役所では相続放棄に関する相談を受け付けている場合があります。相続放棄すべきかどうか迷っている場合には市役所の無料相談を活用してみましょう。ただし、市役所での相談には以下のようなデメリットもあります。

  • 専門家が持ち回りで相談を受け付けているため相談相手は選べない
  • 相談できる日程や時間が自治体によって決まっている
  • 市役所の相談では依頼まで受け付けていない場合が多い

もし、相談から依頼までを考えているのであれば、専門家を自分で選んで相談した方がよいでしょう。相談したい内容に詳しい専門家を自分で選ぶことで、市役所の無料相談サービスよりもきめ細やかなサポートが受けられます。

以上のことを踏まえ、市役所で相談したいと思った場合、以下の手順に沿って進めましょう。

窓口相談の予約

市役所の無料相談は日程が決まっているので、まずは自治体の公式サイトや広報誌などで実施状況を調べます。多くの場合、定員も設定されているので、ゆとりをもって予約を入れるようにしましょう。

受付は電話や公式サイトの問い合わせフォームで行われることが多く、予約の際に相談したい内容について簡単な説明が求められることもあります。当日スムーズに相談を進めるために、事前に相談の要点を整理しておくとよいでしょう。

必要書類の準備

相談に向け、書類などの準備を行います。多くの場合、居住確認のための本人確認書類の提示を求められるので、忘れずに準備しておきましょう。そのほか、相続関係の書類や財産状況を示す資料など、話し合いに必要な書面があれば用意しておきます。相談内容に関わる資料は、相談担当者用と自分の控え用で2部準備しておくと便利です。

市役所での相談

相談日は、予約した時刻より余裕をもって来庁するようにします。待機中に質問内容を見直し、効率よく相談ができるようにイメージしておくことが重要です。

相談には時間制限があるため、重要な事項から確認するようにしましょう。必要な部分はメモを取り、わからない点はその場で質問して疑問を解消しておきます。相談できる回数は多くの場合1~2回までなので、すべての疑問を解消し切るのが難しい場合、次に行うべきことや相談すべき場所を明確にしておくとよいでしょう。

相続放棄後に市役所から届いた通知の対処法

相続放棄の手続が行われても、裁判所から市役所へ通知が届くわけではないため、市区町村はどの相続人が相続放棄をしているかを知ることはできません。そのため、相続放棄をしても法定相続人のもとには、さまざまな通知が送られてくる場合があります。また、税金の督促もありますが、通知がきても支払わなくてよい税金があるので、対処すべきか否かを理解しておきましょう。

固定資産税・都市計画税の納税通知書

固定資産税・都市計画税は、その年の1月1日時点で課税台帳に記載されている所有者が支払う税金です。相続放棄をした相続人は、初めから相続人ではなかったものとして扱われるため、被相続人の債務を引き継ぐことはありません。しかし、固定資産税では「台帳課税主義」がとられています。

そのため、相続放棄の手続が遅れて翌年に申述書が受理された場合など、1月1日時点でまだ課税台帳に所有者としての記載があれば、たとえ相続放棄したとしても固定資産税・都市計画税の納税義務を負うことになります。

※参照:地方税法第三百四十一条│e-Gov法令検索

被相続人が滞納した税金の督促

被相続人の滞納した税金は債務に当たるため、相続放棄をすれば支払う義務はありません。前述のとおり、相続放棄をした相続人は初めから相続人ではなかったものとして扱われるため、債務を引き継ぐことはないからです。

相続放棄した相続人がいる場合、被相続人の債務は残りの相続人や次順位の相続人が引き継ぐことになります。たとえば、配偶者と第一順位の相続人である子の全員が相続放棄した場合、第二順位の相続人である父母・祖父母が債務を引き継ぎます。

このように、相続人のうちの誰かが相続放棄した場合、被相続人が滞納した税金は残りの相続人や新たに相続人となる人の間で分配されることになります。

空き家の管理状況についての通知

空き家の管理状況についての通知が届いた場合、自身に管理義務があるのかを把握したうえで、対応しなければなりません。相続放棄した場合の不動産の管理義務は、その不動産を引き渡すまでの間は現に占有する者が管理義務を負うとされています。

「現に占有する」とは、事実上管理している状態のことです。たとえば、住んでいる地域から離れたところにある空き家を相続し、これまで管理にも携わっていないような空き家であれば、現に占有しているとはいえないでしょう。その場合、相続放棄をすれば管理義務はなくなります。

なお、相続人全員が相続放棄した場合、利害関係人の申し立てによって相続財産清算人が選任され、清算人が空き家の管理義務を負うことになります。

※参照:民法第九百四十条│e-Gov法令検索

地籍調査の立ち会いの通知

地積調査とは、市町村が主体となって土地の所有者・地番・地目を調査し、土地の境界と面積を測量する調査のことです。地籍調査で土地の境界を決める際は、隣接する土地の所有者同士で決める必要があるため、土地所有者は地積調査に立ち会う必要があります。

相続放棄をした場合、ほかの相続人が土地を引き継ぐのであれば、その土地を引き継ぐ相続人が地籍調査に立ち合うべきでしょう。もし、すべての相続人が相続放棄をしている場合、空き家の場合と同じく管理義務の問題になり、現にその土地を占有している者が地籍調査に立ち会うべきであると考えられます。

市役所でできる相続放棄以外の手続

相続放棄の手続は裁判所で行う必要がありますが、市役所では相続に関連するほかの重要な手続を行うことができます。これらの手続には期限が設けられているものも多く、適切な対応が求められます。

死亡届の提出

死亡届は、亡くなった方の親族や同居者などが、死亡の事実を知った日から7日以内に市役所へ届け出る重要な書類です。届け出る場所は、亡くなった方の死亡地・本籍地か、届出人の所在地の市役所です。届出用紙は各自治体で書式が決まっており、市役所で入手できます。届出の際には、以下のものが必要です。

  • 死亡届出書
  • 死亡診断書または死体検案書(医師が作成したもの)
  • 届出人の本人確認書類
  • 届出人の印鑑
  • 亡くなった方の保険証や年金手帳など

なお、死亡届は代理人が提出することもでき、葬儀社が代行して届け出る場合もあります。

国民健康保険

国民健康保険に加入している方が亡くなったときは、亡くなった日から14日以内に国民健康保険資格喪失届を市区町村へ提出します。届出ができるのは、世帯主もしくは同一世帯の人です。届出の際は、以下のものが必要です。

  • 国民健康保険被保険者証
  • 死亡を証明する書類(死亡届のコピーなど)
  • 届出人の本人確認書類
  • 届出人の印鑑

介護保険の資格喪失届出

65歳以上の方、もしくは40歳以上65歳未満で要介護・要支援認定を受けていた方が亡くなった場合、介護保険の資格喪失手続を行います。介護保険の資格喪失手続は、亡くなった日から14日以内に亡くなった方の住所地である市区町村へ届出が必要になります。必要なものは以下のとおりです。

  • 介護保険被保険者証
  • 負担割合証、負担限度額認定証など(持っている場合)

世帯主変更届

亡くなった方が世帯主であった場合、世帯主の変更手続を市役所で行います。世帯主変更届は、世帯主が亡くなった日から14日以内に居住地の市役所へ提出します。世帯主変更届の届出をするのは、新しい世帯主本人または同一世帯の人ですが、委任状があれば代理人が届出をすることも可能です。手続には以下の書類が必要になります。

  • 世帯主変更届
  • 届出人の本人確認書類
  • 届出人の印鑑
  • 国民健康保険被保険者証(国民健康保険に加入している世帯の場合)
  • 委任状(届出人が亡くなった方と同じ世帯でない場合)

なお、亡くなった世帯主の家族も国民健康保険に加入していた場合、一度家族全員分の保険証も返却し、世帯主と被保険者証番号を書き換えて再度交付を受けます。

相続放棄の手続は司法書士がサポートします

相続放棄は裁判所での手続が必要ですが、市役所では必要書類の取得や無料相談が可能です。ただし、市役所での相談には時間や回数の制限があり、相談担当者も選べません。また、期限のある手続が多いため、慎重な対応が求められます。

このように相続放棄の手続は複雑であり、3か月という期限もあるため、早めの対応が重要です。当事務所では、相続放棄をすべきかの判断から必要書類の収集、家庭裁判所への申述まで、期限管理を含めて一貫してサポート可能です。市役所で取得した書類の確認や、その後の具体的な進め方についてもご説明できるので、相続放棄の手続に不安がある方はぜひ一度ご相談ください。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載