不要な山林を相続放棄するときの注意点や相続放棄以外の処分方法を解説

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山林を相続放棄することは可能か?

相続で山林を引き継ぐことになったものの、維持管理の負担が重く手放したいと考える方は少なくありません。山林は宅地などと比べて活用が難しく、固定資産税の支払いや管理コストが重荷になることが理由です。

このような状況で検討される選択肢に相続放棄があります。相続放棄は山林を含む相続財産を放棄できる法的手段として認められていますが、いくつかの重要な条件や制限があるため、慎重な判断が必要となります。

相続放棄は相続開始から3か月以内なら可能

相続放棄は、相続開始を知った日から3か月以内に手続しなければなりません。この3か月の期間は「熟慮期間」と呼ばれ、相続人が相続について十分に考える時間として法律で定められた期間となっています。手続は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所への申述が必要です。

申述に必要な書類は、相続放棄申述書、戸籍謄本、除籍謄本、被相続人の住民票除票などです。費用は申述人1人につき収入印紙代800円と返信用の郵便切手代(1000円から3000円程度)となります。書類を提出し、家庭裁判所からの照会に回答すれば、相続放棄申述受理通知書が届いて手続完了です。

山林だけを選んで放棄することはできない

相続放棄では、特定の財産だけを選んで放棄することが認められません。相続放棄は被相続人に属する一切の権利および義務を放棄する性質のもので、山林だけを放棄して預貯金などは相続するのは不可能なのです。

ただし、山林の負担から逃れる方法が全くないわけではありません。遺産分割協議でほかの相続人に山林を譲る、相続分を譲渡する、あるいは相続後に山林引き取りサービスや相続土地国庫帰属制度を利用するなど、代替手段は存在します。特に令和5年4月からスタートした相続土地国庫帰属制度は、一定の要件を満たせば国に土地を引き取ってもらえる新しい選択肢として注目されています。

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山林を相続放棄するメリット・デメリット

山林の相続放棄を検討する際は、メリットとデメリットを慎重に比較検討することが重要です。メリットとしては税金や管理の負担から解放されるという点が大きく、デメリットとしては、山林以外の相続財産も放棄することになる点が挙げられます。相続する財産の全体像を把握したうえで、相続放棄が最適な選択かどうかを判断していく必要があるでしょう。

メリット

山林を相続放棄することで、所有者としてのさまざまな負担やリスクから解放されます。もっとも大きなメリットは経済的負担の軽減です。

短期的に見れば、相続登記の手間と費用、そして山林に必要な届出が必要なくなります。長期的には、固定資産税の支払いが不要になるほか、草刈りや間伐などの維持管理費用も発生しなくなります。また、自然災害による損害賠償リスクや不法投棄などの近隣トラブルに巻き込まれる心配も無用です。

  • 相続登記および届出による負担がなくなる
  • 固定資産税などの税負担から解放される
  • 山林維持の手間・費用がかからなくなる
  • 災害リスクや近隣トラブルを回避できる
  • 次世代への負の遺産の移転を防止できる

デメリット

相続放棄には看過できない重大なデメリットがあります。すでに述べた通り、山林だけでなく、預貯金や有価証券など、プラスの価値がある財産もすべて放棄しなければならないのです。税務の面では、相続放棄とは無関係に受け取れるとされる生命保険金につき、法定相続人1人あたり500万円と定められる非課税枠が使えなくなり、結果的に手取りが減ると言えます。

より注意したいのは、相続放棄後も一定の管理義務が残ったりする点です。手続の面では、相続放棄の性質として「相続人ごとに手続する必要があり、放棄された権利は次順位の相続人に移る」という性質を考慮しなければなりません。このせいで親族間のトラブルに発展するリスクもあります。

  • ほかの相続財産も放棄することになる
  • 生命保険金などの非課税枠が使えなくなる
  • 次順位の相続人に負担が移る
  • 管理義務が残る可能性がある
  • 放棄後の撤回は認められない

相続放棄以外で山林を処分する方法

相続放棄以外で山林を処分する方法_イメージ

相続放棄は山林の負担から解放される確実な方法ですが、ほかの相続財産も失うというデメリットが大きいのが現状です。しかし、山林を手放す方法は相続放棄だけではありません。ほかの相続人への譲渡や売却、寄付、各種サービスの利用など、いくつかの選択肢が存在します。ここでは、相続放棄以外の山林処分方法について、それぞれの特徴や手続の流れを解説していきましょう。

相続分の譲渡・ほかの相続人による取得

相続人全員で遺産分割協議を行えば、山林をほかの相続人に取得してもらえる可能性があります。協議では、当分の維持管理費として現金そのほかの換金性の高い資産を譲るなどすれば、山林の取得に合意してもらえる望みが大きくなるでしょう。

ほかには、相続分の譲渡という方法もあります。これは、自身の相続分をほかの相続人に譲り渡す契約を書面で交わし、相続人としての地位を維持したまま財産は相手方に承継してもらう方法です。

なお、山林を取得することになった相続人は、相続登記に加えて市区町村への届出が必要となります。これは「森林の土地の所有者届出制度」と呼ばれ、相続開始から90日以内の届出が義務付けられています。届出を怠ると10万円以下の過料が科される可能性があるため、制度に関する情報をしっかり共有しておくなど、注意を要します。

売却・寄附による処分

山林専門の不動産業者や森林組合に相談し、売却を検討する方法もあります。森林組合とは、森林所有者が組合員として共同し経営を行う組織で、通常は所有者からの受託により山林などの管理や売却の相談などに対応しています。不動産会社では、特に林野の取引に一定の実績がある場合、査定や販売戦略の立案から始まり、売買の仲介まで行ってくれるのが特徴です。

相談しても売却できないようであれば、自治体や公益法人への寄附という選択肢もあります。ただ、結果的に維持管理コストを転嫁するだけで収益性のない山林に関しては、引き取ってくれる可能性は低いと言わざるを得ません。売却にせよ、寄附にせよ、地道に相手方を探す活動が必要です。

山林引き取りサービスの利用

山林引き取りサービスとは、有効活用の難しい山林を引き取ってくれる民間サービスです。通常の不動産取引では対応が難しい条件の山林でも、一定の費用を支払うことで引き取ってもらえる可能性があります。費用は山林の面積や状態によって異なりますが、1筆あたり15万円程度から対応可能なサービスもあります。

サービスを選ぶ際は、実績や費用の透明性、アフターフォローの体制などをしっかりと確認することが大切です。また、複数のサービスで見積もりを取り、比較検討する必要があります。大前提として、いったん査定に出すなど、本当に売却価値がないのか(お金を払ってでも引き取ってもらう必要があるのか)を確認しなければなりません。

相続土地国庫帰属制度の活用

令和5年4月に始まった相続土地国庫帰属制度は、一定の要件を満たす土地を国に引き取ってもらえる制度です。申請には1筆あたり1万4000円の審査手数料と、10年分の土地管理費相当額の負担金が必要となります。ただし、建物がある土地や担保権が設定された土地、土壌汚染がある土地などは対象外となっています。

制度利用のための手続は、法務局への申請から始まります。申請が認められれば、負担金を納付することで土地の所有権が国に移転します。ただし、崖地や土砂災害の危険がある土地、管理コストが過大な土地などは申請が却下される可能性が高いため、事前に土地の状況を確認する必要があります

引き取ることができない土地の一例

  • 建物がある土地
  • 担保権や使用収益権が設定されている土地
  • 他人の利用が予定されている土地
  • 境界が明らかでない土地、所有権の範囲などに争いがある土地
  • 一定の勾配・高さの崖があって、管理に費用・労力がかかる土地
  • 土地の管理・処分のため、除去する必要のある有体物が地下にある土地
  • 隣接する土地の所有者などとの争訟によらなければ管理・処分ができない土地
  • そのほか、通常の管理・処分にあたって過分な費用・労力がかかる土地

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相続放棄せずに山林を活用する方法

相続した山林を手放すことが難しい場合、収益を生み出す方法を検討する必要があります。近年は環境意識の高まりやアウトドアブームの影響で、山林を活用したビジネスの可能性が広がっています。立地や面積、アクセス条件などを考慮し、最適な活用方法を見出すことができれば、負担となるはずだった山林が収益を生む資産に変わる可能性もあるのです。

林業関連での活用

林業での活用は、山林本来の用途を生かした方法といえます。自ら林業を営むのは専門知識や設備投資が必要で難しいかもしれませんが、林業事業者への貸し出しという選択肢があります。また、平成31年に始まった森林経営管理制度を利用すれば、市町村に管理を委託することも可能です。

条件の良い山林であれば、木材の売却による収入も期待できます。特に近年は、環境に配慮した持続可能な木材への需要が高まっており、適切に管理された山林からの木材は付加価値を付けて販売できる可能性があります。

レジャー施設としての活用

アウトドアブームを背景に、山林をレジャー施設として活用するケースが増えています。キャンプ場への転換は、もっとも一般的な活用方法の一つです。開発許可などの法的手続は必要になりますが、初期投資を抑えながら収益化を目指せる可能性があります。

自然体験施設や観光農園としての活用も選択肢となります。森林セラピーやツリーハウス、マウンテンバイクコースなど、山林ならではの体験型コンテンツを提供することで、独自の価値を生み出すことができるでしょう。

そのほかの活用方法

再生可能エネルギーへの注目が高まる中、山林を太陽光発電用地として活用する方法があります。傾斜地でも設置可能な営農型太陽光発電は、山林での導入に適しています。また、建設会社や土木会社への資材置き場としての貸し出しも、安定的な収入が見込める活用方法の一つです。

バイオマス発電の原料供給基地としての活用も検討に値します。間伐材や木材の端材をバイオマス発電所に供給することで、環境への貢献と収益確保を両立できる可能性があります。山林の状況や地域のニーズに応じて、最適な活用方法を選択することが重要です。

山林を相続放棄した場合の注意点

相続放棄は一度行うと取り消すことができない重要な法的手続です。山林の相続放棄を検討する際は、放棄後も残る義務や責任について、しっかりと理解しておく必要があります。特に管理義務が継続するケースや、全員が相続放棄した場合の対応には注意が必要です。ここでは、相続放棄後に直面する可能性のある問題と対処方法について解説していきましょう。

相続放棄後も残る可能性のある義務

相続放棄をしても、一定の場合には山林に関する管理義務が残ることがあります。法律では、新たな相続人が管理を始めるまでのあいだ「自己の財産におけるのと同一の注意」をもって財産を保存する義務があると定められています。

特に山林を現に占有している場合、その管理責任は重大です。不適切な管理により第三者に損害を与えた場合は損害賠償責任を負う可能性があります。また、相続開始時期と固定資産税の賦課期日との関係で、一時的に固定資産税の支払い義務が発生することもあり、さらに、共同相続人のなかで誰が負担するのか取り決めるにあたって対立が生じる可能性があるため、注意が必要でしょう。

全員が相続放棄した場合の対応

相続人全員が相続放棄をした場合、管理義務を免れるために、相続財産管理人の選任の申し立てをしなければなりません。この手続は、利害関係人または検察官が行います。申し立ての際には、相続財産の管理・処分に必要な費用として予納金の納付が求められ、その金額は数十万円から数百万円程度となることもあります。

相続財産管理人が選任されると、相続財産の管理・清算が行われます。その後、相続人不存在の確定や、債権者への支払いなどの清算手続を経て、最終的に残った財産は国庫に帰属することになります。この一連の手続には、相当な時間と費用がかかる点にも留意が必要です。

相続放棄の撤回はできない

相続放棄は、家庭裁判所で受理された時点で確定的な効果が生じ、その後の撤回は一切認められません。後日、価値のある相続財産が見つかったとしても、相続放棄を取り消すことはできないのです。そのため、手続に進む前に、把握できていない財産がないか否かを含め、遺産全体を徹底して調査しておく必要があります。

単純承認とみなされる行為

相続放棄をする前や放棄した後において、財産の承継=単純承認とみなされる行為をしないように注意を払いましょう。具体的には、山林に現状の価値が変わるような手を加えたり、処分したり、債務(生前の医療費なども含む)の一部を負担してしまったりする行為が挙げられます。これらの行為をすると、相続放棄が認められず、負担となる財産もすべて承継したものとして扱われる恐れがあります。

山林の相続放棄を検討中なら司法書士へ

相続で引き継いだ山林を手放したい場合、相続放棄は有効な選択肢の1つです。ただし、相続放棄は相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があり、山林だけでなくすべての相続財産を放棄することになります。また、相続放棄後も一定の管理義務が残る可能性があることや、相続人全員が放棄した場合は相続財産管理人の選任が必要になることにも注意が必要です。

当事務所では、山林相続に関する不安や疑問から、相続放棄の支援まで、提案や手続の代行を幅広くサポートしています。原野、山林、そのほかの建物を建てる場所として利用できない土地を相続する場合は、是非一度ご相談ください。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載