親の借金を相続したら相続放棄を選択肢に
親の借金を相続した場合、相続放棄を選択肢に入れることをおすすめします。相続放棄とは、相続人が相続財産の一切を受け継がないことを選択する法的手続です。相続放棄をすると、被相続人の財産に関するすべての権利と義務を放棄することになります。
相続放棄をした場合、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しません。つまり、被相続人の借金に対する返済義務を負わなくなります。ただし、相続放棄は親の借金を清算するなどの手続ではないため、借金そのものが消えるわけではなく、負債は次順位の相続人に引き継がれます。
全員が相続放棄すると相続財産管理人が選任される
相続人全員が相続放棄を行った場合、相続財産は法的に管理者不在の状態となるため、利害関係人の申し立てにより家庭裁判所が相続財産管理人を選任します。相続財産管理人とは、相続人が誰もいなくなった場合や相続人の存在が明らかでない場合に、被相続人の財産を管理し清算する役割を担う人のことです。主な役割は、被相続人の債権者に対して借金を支払い、清算を行うことです。
相続財産管理人が選任されることで、相続人全員が相続放棄しても債務が適切に処理され、法的な秩序が維持されます。
相続放棄しても連帯保証人の地位は消滅しない
相続放棄は被相続人の債務から逃れる手段として有効ですが、相続人が被相続人の借金の連帯保証人になっていた場合は相続放棄をしても消滅しません。つまり、親の借金の連帯保証人になっていた場合、親が亡くなった後も返済義務は継続します。
債権者は親の死亡後、連帯保証人である相続人に対して直接返済を求めることができます。したがって、相続放棄を考える際は連帯保証人としての立場も慎重に確認することが重要です。
親の借金を調べる方法
親の借金の全容を把握するには、複数の方法を組み合わせて調査する必要があります。主な方法としては、信用情報機関への開示請求、郵便物や通帳の調査、遺留品の確認などがあります。
これらの方法を適切に活用することで、金融機関からの借り入れだけでなく個人間の貸借も含めた借金の全体像を明らかにすることができます。
信用情報機関に開示請求を行う
親の借金を調べるには、以下の3つの主要な信用情報機関に開示請求を行います。
- 株式会社シー・アイ・シー(CIC)
- 株式会社日本信用情報機構(JICC)
- 全国銀行個人信用情報センター(JBA)
以上の3社はどれも個人の借金に関する情報を管理している機関ですが、以下のように管理している情報の内容に違いがあります。
- CIC:クレジット会社系(信販会社、百貨店、流通系クレジット会社などが加盟)
- JICC:消費者金融会社系(消費者金融を中心とした貸金業者が主に加盟)
- JBA:銀行系(銀行や政府関係金融機関などが加盟)
どの機関に情報があるか不明な場合、3社すべてに開示請求するのがおすすめです。
郵便物や通帳、遺留品を調査する
郵便物や通帳の調査は、親の借金状況を把握するうえで重要な手段です。金融機関からの郵便物にはローンの残高や返済予定など、借金に関する重要な情報が含まれていることがあります。通帳からは預金残高や取引履歴がわかり、借金の有無や返済状況を推測できます。
親の預金口座の取引履歴を詳しく調べることで、定期的な引き落としなど借金返済の痕跡を見つけられることもあります。必要に応じ、金融機関に取引履歴の開示を請求するのも有効な方法です。
また、遺留品を調べることで親の借金の痕跡が見つかる場合もあります。たとえば、遺言書があれば資産や負債に関する情報が書かれている可能性があります。遺品の中から借用書や請求書、督促状が見つかることもあるため、これらを見落とさないよう慎重に確認しましょう。
相続放棄の手続の進め方
相続放棄を行う際は、以下の流れで手続を進めます。
- 家庭裁判所へ相続放棄の申述を行う
- 家庭裁判所からの照会書に回答する
- 相続放棄申述受理証明書を受け取る
以下では、各ステップの詳細と注意点を解説します。手続を正確に行うことで、相続に関する権利と義務を適切に放棄することができます。
家庭裁判所に相続放棄の申述を行う
被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に「相続放棄の申述」を行います。申述の際は以下の書類を準備します。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続放棄する人の戸籍謄本
- 800円分の収入印紙
状況によっては追加の書類が必要になる場合があります。申述期限は被相続人の死亡を知った日から3か月以内と定められています。期限を過ぎると原則として相続放棄ができなくなるため、十分に注意が必要です。不明な点がある場合は、事前に家庭裁判所に確認することも可能です。
費用は書類の発行手数料と収入印紙代であり、一般的には3000〜5000円程度かかります。
家庭裁判所からの照会書に回答する
申述後、家庭裁判所から相続放棄の意思を確認するための照会書が届きます。これは申述内容の確認と、相続放棄の意思が真意であるかを確認するためのものです。
照会書には慎重に回答し、事実と異なる記載がないよう注意しましょう。回答内容によっては、追加の確認や説明を求められる場合もあります。回答期限が設けられていることが多いので、期限内に返送することも重要です。
相続放棄申述受理証明書を受け取る
照会書の回答後、申述が受理されると、家庭裁判所から相続放棄申述受理証明書が届きます。この書類は相続放棄の手続が正式に行われたことを証明するものです。相続放棄申述受理証明書は申述人1人につき1通のみ発行されます。紛失しても再発行されないため、大切に保管してください。
また、債権者からの請求や金融機関での手続などで相続放棄の事実を証明する必要がある場合に備え、必要な枚数の写しを作成しておくと便利です。
相続放棄の注意点
相続放棄の選択にはさまざまな側面があり、予想外の結果をもたらす可能性があります。相続放棄を検討する際は安易な決断を避け、十分な情報収集と冷静な分析が欠かせません。以下では、相続放棄に関する重要な注意点を詳しく解説します。これらの点を理解することで、より賢明な判断をするための指針となります。
資産も相続できなくなる
相続放棄をすると、借金だけでなくプラスの財産も一切相続できなくなります。被相続人の財産を十分に調査せずに相続放棄をしてしまうと、あとから高額な資産が見つかっても相続できなくなるため、注意が必要です。たとえば、親が生前、高額な不動産などを所有していたなどでは、借金を含めてもプラスになる可能性があるので、相続放棄を検討する際は事前に財産調査を行うことがおすすめです。
ほかの相続人とトラブルになる
相続放棄をする場合、ほかの相続人への影響を考慮する必要があります。相続放棄すると次順位の相続人に相続の権利と義務が移り、次順位の相続人のもとへ突然債権者からの請求がいく可能性があります。特に普段から付き合いのない相続人がいる場合、慎重に対応しないとトラブルに発展するリスクが高いでしょう。相続放棄を決めたらほかの相続人に事前に連絡を入れ、親の借金状況などを詳しく説明することが大切です。
相続放棄の取り消しはできない
相続放棄の申述を家庭裁判所に提出して受理されると、取り消すことができません。相続放棄を決める前に被相続人の財産状況を徹底的に調査し、場合によっては専門家のアドバイスも得ながら慎重に判断することが重要です。相続放棄は重大な決断であり、その影響は長期にわたるため、十分な情報と理解のもとで行う必要があります。
相続放棄ができない場合の対処方法
相続放棄は、相続人が単純承認をした場合にはできなくなります。単純承認とは預貯金の使用や不動産の処分などを行うことを指します。また、3か月以内に相続放棄を行わなかった場合も原則として相続放棄はできません。
このような状況で相続放棄ができなくなり、親の借金を引き継ぐことになった場合の主な対処法として、自己破産と限定承認について解説します。どちらを選ぶかは個々の状況によって異なるため、債務の規模や自身の財産状況を考慮し、適切に判断することが重要です。
自己破産
自己破産とは、裁判所に申し立てをして支払い不能であるとの免責を受け、すべての債務をゼロにする手続です。自己破産が認められればすべての借金は返済義務がなくなり、取り立てからも解放されます。
ただし、自己破産をすると信用情報に記録が残り、5~10年程度は新規借り入れやローンが利用できません。また、官報で情報が公開され、手続中は一部の職業に制限がかかるため、親の借金が原因でも自己破産するかどうかは慎重に判断する必要があります。
限定承認
限定承認とは、相続財産のプラスの価値がある部分を限度として借金などのマイナスの財産も相続する方法です。相続放棄とは異なり、プラスの財産を残しつつマイナスの財産を制限できるのが限定承認のメリットであり、限定承認であれば相続によって資産がマイナスになることはありません。使用されるケースとしては、代々受け継いできた家業があり、これを継ぐ子が親の借金を含めて相続を申し出た場合などです。
ただし、限定承認にはデメリットもあります。まず、相続人全員の意見が一致しないと申し立てができないため、1人でも反対者がいたら限定承認はできません。また、限定承認は手続が複雑であり、申し立てをしてから手続が終わるまでに1~2年程度かかることもあります。
相続手続に迷ったら司法書士へご相談を
親の借金相続は複雑な問題であり、相続放棄は1つの解決策ですが、相続財産の調査、信用情報機関への開示請求、家庭裁判所での手続など、多岐にわたるプロセスがあります。相続放棄ができない場合、自己破産や限定承認といった選択肢もありますが、それぞれに長所・短所があるので慎重な検討が必要です。
これらの複雑な手続や判断を適切に行うには、専門的な知識と経験が不可欠です。当事務所にご相談いただければ、個々の状況に合わせた最適な対応策を見出し、円滑な手続をサポートいたします。相続に関してお悩みがございましたら、ぜひ当事務所までお問い合わせください。