相続放棄にかかる費用の内訳
相続放棄の手続では、家庭裁判所で申述するため必要費用(実費)が最低限かかり、専門家に依頼する場合は報酬が上乗せされます。その結果、自分で手続する場合は数千円から1万円程度、専門家に依頼する場合は4万円から12万円程度が総額となります。
自分で手続する場合の費用
相続放棄の申述にあたっては、1人あたり800円の手数料と、戸籍謄本などの必要書類の交付手数料が必要です。自分で手続するなら、上記以外の費用はかかりません。
ここで、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本が3通あるものとして、被相続人の子が放棄するケースを考えてみましょう。この場合の費用の内訳は、下記のように考えられます。
費用がかかる項目 | 金額 |
---|---|
申述のための費用 | 800円 |
相続放棄申述書の作成 | 0円 |
被相続人の戸籍謄本の取得 | 450円 |
被相続人の戸籍附票の取得 | 300円 |
相続人の戸籍謄本の取得 | 450円 |
郵便料金 | 実費 |
合計 | 2000円+郵便料金 |
実際の相続放棄は「利益になる財産と比べて債務が多すぎる」といった理由で行われることが多く、複数の相続人がいる場合は共同で手続するのが一般的です。このケースでは、申述のための費用および相続人の戸籍謄本の交付手数料が人数分かかります。仮に、配偶者と子2人の計3人が共同で申述するものとして、費用を計算しなおしてみましょう。
費用がかかる項目 | 金額 |
---|---|
申述のための費用 | 800円×3人分 |
相続放棄申述書の作成 | 0円 |
被相続人の戸籍謄本の取得 | 450円 |
被相続人の戸籍附票の取得 | 300円 |
相続人の戸籍謄本の取得 | 450円×3人分 |
郵便料金 | 実費 |
合計 | 4500円+郵便料金 |
実際にかかる費用は、親族関係や放棄する人の数によってまちまちです。相当に複雑な家族構成になっても、実費の部分は1万円程度で済むものと考えられます。
司法書士に依頼する場合の費用
司法書士に相続放棄の手続を依頼する場合、報酬の相場は3万円から5万円程度となるのが一般的です。報酬以外にも、実費、相談料、申述書の作成代行費用、書類取得の代行費用がかかり、総額を計算する際の内訳は下記のような試算となります。
- 基本報酬:3万円~5万円程度
- 申述書の作成代行費用:5000円~1万円程度
- 書類取得の代行手数料:2000円~3000円程度/1通(交付手数料含む)
- 相談料:0円~6000円/30分
弁護士に依頼する場合の費用
弁護士に相続放棄を依頼する場合、着手金および基本報酬の合計で5万円から10万円程度かかるのが一般的です。報酬以外にも相談料などの費用がかかり、総額の試算は下記のようになります。
- 基本報酬:5万円~10万円程度
- 申述書の作成代行費用:5000円~1万円程度
- 相談料:0円~6000円/30分
- そのほかの費用:実費(必要書類の交付手数料など)
相続放棄の費用を抑えるためのポイント
相続放棄の目的の多くは「マイナスの財産の承継を避けるため」であり、手続費用もなるべくかけたくないと思うのが一般的です。実際に安く済ませるためには、自力で対応するのが一番ですが、手続の性質上「ミスが許されない」といった問題があります。節約しながらトラブルなく手続を終えるには、どんな対応をすれば良いのでしょうか。
必要書類はなるべく自分で準備する
相続放棄のための書類は、それほど苦労せずに準備できます。相続放棄の申述書は自分で作成する必要がありますが、それ以外の必要書類の収集(戸籍謄本や住民票)は、本来なら本人が請求するものであり、請求手順も難しくありません。複数の相続人で同時に放棄するのであれば、事前の打ち合わせの上、被相続人に関する書類は代表者が対応し、ほかの書類は申述人がそれぞれ自分の書類を取り寄せる対応をすることで、スムーズに揃えられるはずです。
複数の専門家に相談して比較する
状況によっては専門家による代行がどうしても必要となる場合がありますが、その際も費用を抑える方法があります。複数の専門家に相談し、費用やサービス内容を比較することで、費用対効果の高い支援を安価で受けられる可能性が大きくなります。
検討の第一歩となるのが、各弁護士・司法書士が実施する初回無料相談です。この機会を活用して、相続放棄の手続に関する基本的な情報を得るとともに、サービス内容と費用の見積りを確認しましょう。費用の比較では、単純に「高いか・安いか」だけではなく、十分な支援を受けられるかどうかもチェックすることが大切です。
法テラスの民事法律扶助制度を利用する
経済的に余裕がない場合、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助制度を利用することで、相続放棄の手続に関する費用を抑えることができます。法テラスとは、誰でも法的トラブルの解決に臨めるよう支援を行う窓口であり、支援の一環として弁護士費用および司法書士費用の立て替えを行うのが「民事扶助制度」です。
民事法律扶助制度の利用条件としては、資産が一定額以下であることや、勝訴の見込みがあることなどが挙げられます。申し込みが行えるのは、全国にある法テラスの窓口か、契約のある弁護士や司法書士の事務所です。まずは電話で問い合わせ、自身が対象となるかを確認しましょう。
相続放棄の費用が高くなるケース
相続放棄した方が良い状況はさまざまで、なかには対応が難しい場合もあります。また、遺産の全容がわからなかったりなどで、なかなか放棄に踏み切れなかったりすると、専門家による対応が必須となるだけでなく、その報酬も高額化します。
相続財産の調査が難航する場合
相続放棄するかどうかの判断材料は、事前の財産調査の結果です。調査では、金融機関への照会、不動産登記簿の確認、納税記録の確認と多岐にわたる対応が必要になり、都合により自力では難しいため専門家に依頼するケースが多々あります。
問題は、調査にあたって専門家報酬がかかるだけでなく、対応が複雑化することによって報酬に加算が生じる可能性がある点です。具体的には、被相続人が多数の金融機関と取引があった場合や、海外に資産を持っていた場合、そのほか家族の知らないところに遺産(債務含む)を持っていたりする場合などが挙げられます。こうした場合には、調査が難航し、専門家報酬に3万円から5万円程度上乗せされます。
相続放棄の期限を過ぎている場合
相続放棄ができるのは、原則として相続開始を知った日から3か月以内です。実際には、相続財産の調査が難航するなどして、期限に間に合わないこともあります。こうした場合には上申書を作成し、通常の相続放棄の書類に添付しなければなりません。
作成・提出する上申書には、期限後申述に関するやむを得ない理由を説明しなければなりません。その内容は、裁判所が相続放棄の申述を受理するか否かを判断する重要な材料であり、専門家による個別対応が必要です。そのため、期限後の相続放棄は基本的に弁護士または司法書士に依頼することになり、報酬にも2万円から4万円程度の加算があります。
相続人の間で問題が起きている場合
相続人の間で意見対立などの問題が起きている場合、その調整を行ってから相続放棄しなければなりません。いったん放棄してしまうと、事情が大きく変わったとしても、取り消しは認められないためです。このようなケースでは、調整にあたって弁護士などの介入が必要となり、支払う報酬にも状況に応じた加算があります。具体例を挙げ、対応方法を紹介してみましょう。
相続放棄を巡って意見が対立しているケース
よくあるのは、ある相続人は相続放棄を希望している一方で、別の相続人は放棄に反対しているケースです。反対する理由が「どうしても手放せない財産の存在」であれば、利益になる財産の限度で債務を承認する「限定承認」と呼ばれる方法も検討できます。こうした検討にあたっては、専門家による相続人および相続財産の見極めが必要です。
別の相続人から相続放棄を提案されているケース
相続放棄するかどうかは、相続権のある人がそれぞれ自己の責任で判断すべきですが、なかには「ほかの相続人が強くすすめてくる」といった場合があります。相手の言い分について腑に落ちないときは、相続財産を自ら調査したり、財産目録の開示を求めたりする必要があるでしょう。こうした場合には、財産隠しの可能性を含めて、専門家による慎重な対応が求められます。
専門家に依頼すべきケース
相続放棄は慎重に行うべき手続ですが、一方で、自分たちで判断して手続に踏み切るにあたって余裕がなくなることが多いのも特徴です。迷うことがあったり、多くの日数を費やしたりすることがあれば、迷わず専門家に相談した方が良いと言えます。具体的には、次のような場合です。
申述の期限が迫っている場合
相続が開始すると、最初の1か月は死後事務(葬儀など)に追われ、それから遺品整理や相続財産の状況把握が始まるのが一般的です。通常の対応をしていても、申述の期限である3か月はあっという間に経ってしまいます。期限後の申述の対応は難しく、専門家報酬も高額になるでしょう。ある程度の日数が経ち「期限まで余裕がない」と分かったときは、速やかに弁護士や司法書士に依頼するのが適切です。
手続に対応する余裕がない場合
相続放棄は、複数の相続人で一緒に手続する必要に迫られることが多く、各自の時間的余裕が問題となります。仕事や家事があり手続対応のための時間がない人や、入院・施設入居そのほかの事情がある人がいると、期限に間に合わせるための余裕は少なくなります。このような場合には、書類収集のミスによる時間のロスをなくすためにも、都合のつく人から弁護士や司法書士に一任するのが確実です。
放棄しようとする相続人の数が多い場合
各自がそれぞれ申述しなければならないとする性質上、相続放棄には「人数が多いほど手間も時間もかかる」特徴があります。代表者を決めて対応するとスムーズですが、負担が大きく、必要書類の多さもあり、対応できない場合も出てくると考えられます。適切に手続を進めるためにも、人数が多いときは専門家に任せるようにしましょう。
司法書士と弁護士、どちらに依頼すべき?
相続放棄の手続を専門家に依頼する際、司法書士と弁護士のどちらを選ぶべきか迷うことがあります。両者にはそれぞれ特徴があり、案件の複雑さや予算、必要とするサービスの内容によって最適な選択が変わってきます。ここでは、司法書士と弁護士それぞれに依頼するメリット、そして状況に応じた専門家の選び方について解説します。
司法書士に依頼するメリット
司法書士に依頼するメリットは、比較的低コストである点です。依頼先によって差はありますが、司法書士の報酬は弁護士よりも安価に設定されていることが多く、予算に制約がある場合に適しています。一般には法的トラブルの対応=弁護士といったイメージがありますが、司法書士でも相続に関する手続全般を取り扱っており、対応に差はありません。
手続の面では、家庭裁判所から送られてくる相続放棄照会書・回答書につき、司法書士に依頼した場合だと本人宛に届く点が挙げられます。本書面は、家庭裁判所が本人に対して「本当に放棄しても良いのか」と問うためのもので、なるべく自分で回答したい内容となります。煩わしく感じられる側面はあるものの、自分で受け取り・回答できると安心です。
弁護士に依頼するメリット
弁護士に依頼するメリットは、相続人同士あるいは債権者とのトラブルに対応できる点です。親族間で調整を行う必要があったり、厳しい督促があったりするケースでは、弁護士に依頼した方が良いと言えるでしょう。特に督促対応では、誤った対応によって債務の承継を認めたことになるリスクがあるため、代わりに専門家が対応してくれると安心です。
ほかにも、弁護士に依頼する場合だと、弁護士法に基づく照会権限により、財産調査がいくらかスムーズに進む利点もあります。これらの利点のため報酬は高額化する傾向にあるため、司法書士と使い分けると良いでしょう。
相続放棄は専門家に依頼すると確実
相続放棄は重要な決断であり、一度行うと取り消すことができません。一方で、申述期限が短く、相続財産の調査を含め、十分に時間を確保できるとも言えないのが難点です。申述の期限が迫っている場合や、対応する時間がない場合、相続人の数が多い場合などは、費用がかかっても専門家に任せた方が安心です。
弁護士や司法書士などの相続手続を扱う専門家は、手続に関する提案や、ミスがないかどうかのチェック、さらに「本当に相続放棄した方がいいのか」といった判断なども行っています。心配があるときは、無料相談だけでも利用することをおすすめします。