きょうだいのうち1人だけ相続放棄は可能か?ほかの相続人への影響や注意点などを解説

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きょうだいのうち1人だけ相続放棄することは可能?

相続が発生すると、残されたきょうだいの一部が「財産をもらいたくない」と考える場合があります。よくあるのは、返済しきれなかった借金があったり、相続手続に参加するメリットがなかったりするケースです。このような場合には、相続放棄を希望する人が単独で行えます。

相続放棄は各人の判断で行える

相続放棄は各相続人が単独で行える手続であり、その効果は本人に帰属します。各人が相続放棄するにあたり、ほかの相続人の同意は不要です。家庭裁判所における手続でも、ほかの相続人に協力してもらう必要はありません。法律上、相続権(遺産をもらう権利)を行使するか否かは、本人の自由意志に委ねられるのです。

相続放棄の要件と期限

相続放棄したいときは、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。この「知ったとき」とは、一般的に被相続人の死亡を知った時点を指しますが、場合によっては自分が相続人であることを知った時点とされることもあります。

なお、相続放棄は相続開始後にしかできません。亡くなった方が生前のうちに相続人と「将来相続が発生したら放棄する」といった合意を交わしても法的に無効とされています。

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きょうだいのうち1人だけ相続放棄したときの影響

相続放棄の判断は各人に委ねられており、その効果も本人に帰属しますが、残された相続人や相続財産への間接的な影響は無視できません。プラスの財産だけでなく、マイナスの財産の分配にも変化が生じるほか、税金の計算方法や家族関係にも影響することがあるのです。

ここで解説するのは、きょうだい間の金銭トラブルにも繋がりかねない相続放棄による4つの影響です。

ほかのきょうだいの相続分が増える

きょうだいのうちの1人が相続放棄をすると、その人は「初めから相続人ではなかった」とみなされます。これにより、放棄された相続分は、自動的にほかの相続人に移ることになります。厳密には、相続放棄した人の分を除いた法定相続分を、残りの相続人で再計算することになるのです。

【例】被相続人の相続人が子3人のみであり、そのうちの1人が放棄した場合の法定相続分

  • 元の相続分:各3分の1ずつ
  • 放棄後の相続分:各2分の1ずつ

きょうだいのうちの1人が相続放棄をすれば、ほかのきょうだいは相続できる財産の割合が増え、一見すると利益になるように見えます。ここで注意したいのは、放棄された権利には「マイナスの財産」も含まれる点です。

マイナスの財産がほかの相続人に移転する

相続財産には、不動産や預貯金などのプラスの財産だけでなく、返済しきれなかった債務や連帯保証人としての責任といった「マイナスの財産」も含まれることを忘れてはなりません。

マイナスの財産は、実際の遺産分割の状況にかかわらず、すべての相続人が弁済義務を有しています。相続人の関係がきょうだいである場合、うち1人が相続放棄をすると、放棄しなかった残りのきょうだいだけで債務を負担しなければなりません。必然的に1人あたりの負担額が増え、この状況は「負債をほかの相続人に移転させた」と同じ意味合いになります。

【例】債務900万円を子3人で相続することになったが、そのうちの1人が相続放棄をした場合

  • 元の相続分:3人で弁済するため、1人300万円を負担
  • 放棄後の相続分:2人で弁済するため、1人450万円を負担

相続放棄されるケースの多くはマイナスの財産が多い傾向にあります。この場合では、相続放棄しなかったきょうだいの負担が大きくなり、人間関係の悪化の原因になる可能性があります。

死亡保険金や退職金の非課税枠が使えなくなる

生命保険契約による死亡保険金や、勤務先から支給される死亡退職金は、相続税法上「みなし相続財産」として扱われ、法定相続人1人につき500万円の非課税枠があります。

本税制上では、相続放棄した人をカウントしません。きょうだいのうちの1人が相続放棄すると、ほかのきょうだいが受け取る生命保険金につき、相続放棄した人1人につき非課税となる額が500万円減ります

【例】死亡保険金が1500万円、相続人3人のうち1人が放棄した場合

  • 元の課税価格:0万円(非課税枠=500万円×3)
  • 放棄後の課税価格:500万円(非課税枠=500万円×2)

相続トラブルが発生するリスク

これまで解説したように、きょうだいのうち1人だけが相続放棄をすると、ほかのきょうだいに予期しない負担が発生することがあります。債務弁済のためのマイナス分や課税額の上昇といった金銭的負担が生じることも考えられるでしょう。

ほかには、相続放棄したことを非難される場合も考えられます。このような意見は、管理が難しい資産(老朽化した実家や遠方の土地など)がある場合に起こりやすいと言えます。以上のような経緯で、人間関係が悪化し、その後の家族行事や相続手続に影響するかもしれません。

相続放棄による影響がきょうだいに及ばないケース

相続放棄による影響がきょうだいに及ばないケース_イメージ

きょうだいのうち1人だけが相続放棄をしても、ほかのきょうだいに影響が及ぶとは限りません。相続人の構成など、状況によっては大きな変化が生じないこともあります。

相続税の基礎控除額は変わらない

相続放棄は死亡保険金などの非課税枠を減らすものの、相続税の基礎控除額には影響が及びません。基礎控除額の計算における法定相続人の数は、相続放棄がなかったものとして考えるのです。

相続税の基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数

【例】相続人がきょうだい3人のみであり、そのうちの1人が相続放棄した場合の基礎控除額

3000万円+600万円×3人=4800万円

注意したいのは、相続税額を実際に負担するのは相続放棄をしなかった相続人となる点です。課税額の総額が増えるわけではないものの、1人あたりの負担額は増えることになります。

子・孫や甥・姪には相続権が移らない

きょうだいのうちの1人が相続放棄しても、その人の子や孫、あるいはほかのきょうだいの子(甥・姪)に相続分が移転することはありません。通常、相続権を失うと代わりにその人の直系卑属が権利を取得する(代襲相続)ところ、相続放棄に限って適用がないためです。

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相続放棄後のトラブルが起きないようにするには?

相続放棄の手続は、思わぬかたちできょうだいに金銭的・事務的負担を被らせ、人間関係の軋轢やトラブルの種になることがあります。トラブル化しないよう、事前の協議や相談を心がけましょう。

事前にきょうだいと話し合う

相続放棄を検討している場合は、早めにきょうだい間で話し合いをしておきましょう。相続財産および相続人の状況から放棄の影響を具体的に把握し、ほかのきょうだいと情報共有しておくと安心です。

相続財産から生じる「家族としての責任」については、自分の立場と放棄の理由をはっきりと説明できるようにしておくとよいでしょう。具体的には「自分は遠方に住んでいるため不動産の管理が難しい」「経済的に厳しく負債の返済が難しい」などといった説明の方法が考えられます。

可能であれば、生前のうちに将来放棄する意向であることを伝えておくとよいでしょう。相続放棄を踏まえた遺産分割やそのほかの計画が立てやすくなり、相続開始後にトラブルが起きる可能性を小さくできます。

専門家に相談する

相続放棄は一度行うと原則として撤回できないため、事前にしっかりとした判断が求められます。放棄の対象となる財産の有無や、ほかの相続人との関係性、将来的なトラブルの可能性などを総合的に考慮する必要があります。

こうした複雑な事情を見落とさずに対応するには、専門家への相談が効果的です。司法書士や弁護士に相談すれば、状況に応じたアドバイスや手続の代行を受けられ、相続放棄後の思わぬトラブルを未然に防ぐことが可能になります。

きょうだい全員が相続放棄する場合のポイント

相続放棄の手続は相続人全員で行うケースが多い傾向にあります。たとえば、プラスの財産よりもマイナスの財産のほうが多い場合などは、全員で放棄するのが合理的だと言えます。このようにきょうだい全員で放棄するときの取り扱いは、以下のように言えます。

きょうだい全員で同時に相続放棄することも可能

相続放棄は各々の判断に委ねられますが、きょうだい全員で示し合わせて放棄するのを制限されることはありません。実務面でも、相続順位が同じ相続人同士なら相続放棄申述書を複数枚同封して家庭裁判所に送付できます。

このように全員同時に相続放棄する場合の実務的なメリットは、手続をまとめて行えることです。共通で求められる必要な書類は1通で足りることができ、代表者を通じて一括して提出することで、効率的に手続を進められます。もっとも、相続放棄の申述自体は相続人それぞれが行う必要がある点に注意しなければなりません。

被相続人が親である場合の取り扱い

亡くなった人がきょうだいの親である場合、民法で定められた相続順位に従って権利が移転します。きょうだい全員(第一順位の相続人)に加え、配偶者(亡くなった時点で婚姻関係があった場合)が相続放棄をすると、相続権は第二順位の直系尊属(被相続人の親や祖父母)に移ります。

第二順位の相続人もいない、または全員が相続放棄した場合は、第三順位の被相続人のきょうだい(最初の放棄者から見て叔父・叔母にあたる人)に相続権が移ります。例を挙げると、次のとおりです。

【例】母親はすでに亡くなっている状態で父親が亡くなり、その子ら全員が相続放棄をした

  • 子らの相続放棄が受理される
  • 祖父母がいないか、全員が相続放棄して受理される
  • 叔父・叔母がいないか、全員が相続放棄して受理される
  • 相続財産清算人の申し立て
  • 相続債権者創作の公告
  • 相続人不存在の確定

被相続人がきょうだいのいずれかである場合の取り扱い

亡くなった方がきょうだいのうちの1人である場合、きょうだい全員および先順位の相続人が相続放棄をすることによって、相続財産を取得する者がいなくなることがあります。ただし、先順位の相続人がいる場合、その人が相続することになります。以下は、状況別の手続の流れの一例です。

未婚(子なし)であり、きょうだいや両親、祖父母は亡くなっている場合

先順位の相続人もいないため、この時点で相続人不存在となる

配偶者や両親、きょうだいは存命しているが子はおらず、祖父母は亡くなっている場合

  • 配偶者および両親の相続放棄が受理される
  • きょうだいが相続人となるが、相続放棄を行い受理される
  • 相続人不存在になる

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相続放棄する場合の注意点

相続放棄にはさまざまな注意点があります。特定の財産を選んで放棄することができない点や、原則として一度承認された相続放棄は撤回が認められないなどです。全員が放棄した後や、放棄後に新たに財産が見つかったときの取り扱いにも注意しましょう。

特定の財産のみの相続放棄はできない

相続放棄は相続財産全体に対して行うものであり、プラスの財産およびマイナスの財産の全額に効果が及びます。したがって「借金だけ放棄し、そのほかの財産は受け取る」といった方法を選ぶことはできません。

なお、相続を避けたい財産に土地が含まれていた場合、令和5年4月27日から始まった「相続土地国庫帰属制度」を利用すれば、ほかの財産を受け取りつつ、一定の条件を満たす土地を国に引き取ってもらうことができます。ただし、この制度を利用するには国庫に帰属させるための審査があり、負担金(原則20万円・実際の負担額は土地の種類や面積による)の支払いが必要です。

相続放棄の撤回は原則不可

相続放棄が受理された場合、原則として撤回できませんが、詐欺や強迫によって相続放棄をさせられた場合は例外となるケースがあります。放棄の手続は慎重に行うべきもので、事前の相続財産の調査は欠かせないステップだと言えます。

相続財産は放棄手続の前に把握する

相続放棄後に新たな財産が見つかった場合、原則として相続放棄の効力はその財産にも及びます。たとえば、被相続人の借金だけを知って相続放棄をした後に、多額の預金や不動産が見つかったとしても、その財産を相続することはできません。撤回不可と合わせて注意したいポイントです。

相続放棄しても保存義務が残る場合がある

相続人全員が相続放棄して相続人不存在となった場合でも、相続財産の対象である不動産に居住している、定期的に通っているなど、「現に占有している状態」となっている相続人は、相続財産を適切に維持管理する義務(保存義務)が発生します。この義務は相続財産清算人に財産を引き渡すまで残ります。

なお、この義務を果たさないと、相続する予定だった土地・建物の荒廃などが原因で、近隣への被害による損害賠償請求されるなどのリスクを負うことがあります。

相続財産の保存義務から免れるには、全員が放棄した後に相続財産清算人(相続財産管理人)を選任してもらい、義務を引き継いでもらう必要があります。選任にあたっては、家庭裁判所での手続が必要です。

相続放棄は家族への影響を含めて検討しよう

相続放棄は、きょうだいのうちの1人だけが行うことも、全員が行うことも可能です。注意したいのは、ほかのきょうだいにマイナスの財産が移転したり、死亡保険金の非課税枠が減少したりすることです。

当事務所では、相続放棄の手続に関する支援だけでなく、事前の調査や家族での話し合いについてもアドバイスを提供しています。家族との将来を見据えて、疑問や不安があるときは、お気軽にご相談ください。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載