故人の衣類を処分しても相続放棄できる?処分する場合の注意点などを解説

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相続放棄する場合に故人の衣類は処分してもよいのか

遺品のなかでも衣類はかさばるものであり、亡くなった人の身の回りの整理で早めに処分したいと考える方もいるでしょう。もし、相続放棄をする場合、相続財産を処分することで放棄が認められなくなる可能性がある点に注意しましょう。

相続放棄の条件

相続放棄とは、亡くなった人(被相続人)に属する一切の権利および義務を引き継がないとする手続です。相続放棄を行いたい場合は、原則として「相続の開始を知ってから3か月以内」(熟慮期間)に手続をする必要があります。この期間中に、単純承認(法定単純承認)に該当する行為を行ってしまうと、相続放棄ができなくなる可能性があります。

単純承認とは、被相続人の財産(債務を含む)を相続人が相続権に基づいて受け継ぐことをいいます。また、相続人が相続に対して明確に意思表示をしなくても、次のような場合は法定単純承認が成立し、相続放棄ができなくなる恐れがあります。

  • 被相続人の財産を処分するなど、一定の行為を行った場合
  • 相続放棄などの特別な手続をとらず、熟慮期間を過ぎてしまった場合

このような事態を避けるためにも、相続放棄を希望する場合は、熟慮期間内に適切な行動を取ることが重要です。

相続財産を処分すると相続放棄できなくなる場合がある

単純承認の条件は、実際に財産をもらい受けることだけではありません。亡くなった人の財産を減らす可能性のある行為(処分行為)も当てはまります。一例として挙げられるのは、下記のような行為です。

  • 預貯金を引き出す
  • 土地・建物の売却を行う
  • 遺品(特に価値のあるもの)を売却または廃棄する
  • 生前の生活費や医療・介護の費用を、亡くなった人の預貯金から支払う

財産的価値のない衣類は基本的に処分しても問題ない

生前身につけていた衣類を含む遺品は、相続財産に含まれます。原則上は衣類を廃棄したり持ち帰ったりすると、相続放棄できなくなる可能性が高くなります。

相続放棄を行う状況で処分してもいい例外として、財産的価値がないものが挙げられます。価値がゼロに近いものを捨てたり持ち帰ったりした場合は、財産が減るわけではなく、亡くなった人の身の回りを整理する慣習において当然のこととみなされるためです。

遺品を多く持ち帰る行為には要注意

遺品を整理していると「思い出になる品は持ち帰りたい」という気持ちが起こることもあるでしょう。衣類は特に故人に近いものであり、心理的に手放せなくなることもあり得ます。

注意したいのは、衣類を含む遺品を数多く持ち帰ってしまった場合、それに財産的価値が認められ、相続財産を受け取ったものとして相続放棄できなくなってしまう可能性です。どの程度であるかは個別の状況によりますが、自己判断で思い出の品を確保するのは控えたいところです。

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衣類の処分で相続放棄ができなくなってしまうケース

亡くなった人の衣類の廃棄または持ち帰りでは、そのブランド・素材・付属品などから価値を慎重に判断しましょう。ここから解説する条件に当てはまるものを処分すると、相続放棄できなくなる可能性が高まります。迷う場合は買取の専門家に査定を依頼しましょう。

相続放棄する場合で処分を避けるべき衣類の具体例

  • 工芸品や歴史的遺産としての価値がある衣類
  • ブランド品・ヴィンテージ衣類である
  • 素材や装飾品に価値がある衣類

工芸品や歴史的遺産としての価値がある衣類

作られた時代や職人により特別な価値が生じる衣類は、相続財産として扱われます。たとえば、証明書付きの高級和服などは数十万円から数百万円の価値を持つことがあり、これらを処分すると単純承認とみなされるリスクが高まります。

  • 有名デザイナーによる特注品
  • 高級呉服、伝統工芸品など
  • アンティークドレスや歴史的価値の高い衣装

上記のような衣類については、着物専門店や古美術商などの専門業者に依頼しましょう。専門業者以外で売却を行おうとすると正確な査定が難しいことが多いため、注意しましょう。

ブランド品・ヴィンテージ衣類である

衣類はブランドや作られた時期によって価値が発生し、相続財産とされることがあります。特に状態が良いものについては、高額で取引される可能性があるため、注意を要します。

  • デパート・百貨店などに入っている有名ブランドの製品
  • 近代以降に生産されたデッドストック品(すでに生産されないもの)

上記に該当するものは、箱や紙袋、そのほかの付属品にも一定の価値が認められることがあります。かさばるからと言ってむやみに処分せず、発見した状態でブランド古着を取り扱う業者などに査定を依頼しましょう。

素材や装飾品に価値がある衣類

衣類の素材や付属品に価値があり、その影響で相続財産と認められるものがあります。具体的には、次のようなものです。

  • 天然の高級素材で作られた衣類(皮革、毛皮、シルクなど)
  • 天然石で作られた装飾品付きの衣類
  • 金・銀の糸で刺繍された衣類

生地や装飾品、加工に使用された糸などの素材は、一般の人だと見極めにくいものです。安価な人工素材でできていると思い、誤って捨ててしまうケースは少なくありません。高級である可能性がある場合は、古着屋や質屋に査定を依頼するのが適切です。

衣類を処分しても相続放棄が認められた判例

衣類を処分しても相続放棄が認められた判例_イメージ

相続放棄を行う場合の衣類の取り扱いでは、財産的価値がないものの具体例や、廃棄や持ち帰りが認められる範囲が悩ましいところです。また、実際に衣類を処分するにあたって「相続財産の処分にあたる行為」と「単なる管理行為」の区別もしっかり押さえておくことが重要です。

経済的に価値がないと判断したケース

処分しても相続放棄できるとされる衣類の具体例は、過去の判例で挙げられています。重要なのは、使用できるか否かではなく、売買そのほかの取引の対象にできるかどうかです。

東京高裁昭和37年7月19日判決

被相続人の衣類を処分したケースで、これらは財産的価値を有さない物であり、その廃棄は単純承認の効果を生じさせるものではないと判断されました。裁判所は「使用にたえないものではないにしても、もはや交換価値はないものというべきであり、その経済的価値は皆無といえないにしても、いわゆる一般的経済価値あるものの処分とはいえない」と単純承認を否定しています。

形見として引き取ったと判断したケース

形見分け・思い出の品の確保などといった目的で衣類を確保する行為については、感情的価値と経済的価値に分けて判断されます。遺品を持ち帰っても良いかどうかは、下記の判例が参考になります。

山口地裁昭和40年5月13日判決

この判決では、相続人が被相続人の愛用していたジャケット数点と位牌を形見として持ち帰ったケースです。これらの物は「形見としての性質が強く、かつ社会通念上も許容される範囲内であり、相続財産の処分とはいえない」として相続放棄が認められました。特に「経済的な価値が乏しい」であることが重視されているようです。

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相続放棄前後の衣類の取り扱い方法

相続放棄を予定している場合、故人の衣類の扱いでは「相続財産の処分とみなされないようにすること」が大切です。捨てられないもの、価値が高い可能性があるものについては、単純承認となることを避けるため、相続放棄を行っていない相続人に対応を依頼しましょう。

現状のまま保管できるようにする

相続放棄を予定している場合、衣類を自己判断で処分するのではなく、価値がはっきりするまで現状のまま保管する方法を検討すべきです。利用しやすいものとして、トランクルームやコンテナボックスなどの短期保管サービスが挙げられます。

問題となるのは、保管費用の負担です。経済的には亡くなった人の預貯金から支出するのがベストですが、これによって「相続財産を処分した」と判断されてしまう恐れがあります。無難なのは相続人自身の財産などで費用を支払う方法ですが、難しい場合は専門家に判断してもらいましょう。

放棄しない相続人に引き渡す

相続放棄をしなかった相続人がいる場合、遺産分割協議前に放棄しない相続人に衣類などの遺品を引き渡すのが無難です。引き渡しのときは、放棄しない相続人のあいだで遺産の横領や無断処分の疑いが生じないよう、すべての相続財産を相続人に引き渡す旨を伝えておくとよいでしょう。不要なトラブルを避けるためにも、引き渡し先の相続人とのあいだで確認書を交わしておくと安心です。

相続放棄する予定で衣類を処分するときの注意点

相続放棄を予定する状況で衣類の廃棄または持ち帰りを行うときは、すでに述べたとおり、本当に処分しても良いものか正確に判断しておくことが重要です。具体的には、以下のようなことが言えます。

価値不明の場合は事前に査定を依頼する

故人の衣類の中に価値が判断しにくいものがある場合は、自己判断で処分せず、専門業者による査定を検討しましょう。査定できる業者がわからないときは、衣類に関してわかることをメモにまとめ、相続放棄の相談先となる司法書士などの専門家と相談すると良いでしょう。

衣類以外の日用品・家財の処分も同様に扱う

相続放棄における判断基準は、衣類だけでなく、日用品や家財道具にも適用されます。食器、家具、電化製品、そのほかのものについても「使用済みで市場価値が低いもの」と「価値がある可能性があるもの」を区別することが重要です。

一般的な日用品(使い込まれた家具、日常食器など)は、衣類と同様に財産的価値が低いと判断されることが多く、処分しても単純承認とはみなされない可能性が高いです。しかし、骨董品や美術品としての価値がある食器類、ブランド家具、高価な家電製品などは注意が必要です。

相続放棄でお困りなら当事務所へご相談ください

相続放棄を検討しているとき、故人の衣類の取り扱いは慎重になるべきです。日常的に使用されていた普段着などは廃棄しても持ち帰っても問題ない傾向にありますが、高級着物やブランド品、装飾品付きの衣類は慎重な対応が必要です。

当事務所では、相続放棄や遺品整理に関するご相談を承っております。遺品の処分の判断に迷われた際は、ぜひご相談ください。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載