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孤独死の連絡を受けたときの初期対応
身内が孤独死をした場合、突然の連絡に戸惑うことが多いものです。しかし、このときの初期対応を誤ると、後々大きな負担を背負うことになりかねません。
特に相続に関する判断は慎重に行う必要があります。連絡を受けた際は、まず落ち着いて状況を確認し、場合によっては相続放棄も視野に入れた対応を検討しましょう。以下では、孤独死の連絡を受けた際の初期対応について解説します。
孤独死の連絡は誰から来るのか
親族の孤独死に関する第一報は、自治体・警察・住居の管理者のいずれかから入ってくるのが一般的です。連絡元により、その時点での状況をある程度まで絞り込めるでしょう。
警察からの連絡が来た場合
近隣住民などからの通報を受けて警察が対応し、遺体および現場の確認中に連絡がくるのが一般的です。親族である旨は警察の権限で調査されており、葬祭や死亡に関する自治体での手続(死亡届の提出など)は終わっていない段階であると推察できます。
自治体から連絡が来た場合
警察による確認が終わり、亡くなった人に身寄り(遺体の引き取り手)がいないと判断される状況のときは、自治体に管轄が移って親族への連絡が行われます。親族関係については自治体の権限で調査されており、火葬の手配が行われているなど、葬祭に関する手続がある程度進んでいる段階だと推察できます。
亡くなった人の住居の管理者からの連絡の場合
家賃滞納や郵便物の滞留がきっかけで孤独死が発覚し、入居時の契約状況に基づいて不動産管理会社や大家が連絡するケースが該当します。死亡に関する確認は警察もしくは自治体が行っており、住居に関する手続を身元保証人などを行ってほしいものと推察できます。
連絡を受けたときに確認すること
孤独死の連絡を受けた際は、できる限り冷静になって正確な状況把握に努めましょう。連絡してきた相手に確認したいのは、次の4点です。
- 亡くなった人が本当に自分の親族なのか
- なぜ自分に連絡が来たのか
- 遺体の場所、保管状況
- 自分に何を求められているのか
亡くなった人の身元確認や親族関係の調査は慎重に行われるのが一般的ですが、同姓同名の第三者について連絡を受けている可能性はゼロだと言い切ることはできません。親族であると確認できたら、どのような経緯で自分に連絡することになったのか聞き取りましょう。
重要なのは「連絡してきた相手が、今後どんな対応を必要としているのか」です。遺体の状況を尋ねたうえで、死亡に関する手続や葬祭の手配をしてほしいのか、何か費用を支払ってほしいのか、何のために連絡をしてきたのか具体的に確認することが大切です。
孤独死の相続は通常の相続と異なる
孤独死の相続には、その性質上、一般的な親族の不幸にはない特殊な問題があります。一言で表すなら「亡くなった直後に発生する手続を誰が・どのように負担するのか」といった問題です。具体的には、次のようなことが言えます。
遺体の引き取りや火葬について
葬祭(遺体の引き取りや火葬)については、親族と自治体のどちらが対応するのか問題になります。自治体が火葬を行った場合、遺留金(亡くなった人が所持していた財産)から費用を賄うことになりますが、不足分については相続人に請求が来る可能性があります。
賃貸物件での孤独死の場合
特殊清掃費用や原状回復費用、解約に伴う費用など、さまざまな請求を受けることがあります。これらの費用は高額になる場合があり、地震火災保険の孤独死特約などで賄えない場合、相続人の負担となります。
総務省の調査によれば、墓埋法などに基づき自治体が執り行う葬祭において、7割から8割のケースで「遺留金が余ることはなかった」と報告されています。この結果から、遺留金で賄いきれない(葬祭費用で赤字になる)ケースが少なくないことは容易に推察できるでしょう。さらに賃貸物件に関する費用まで請求されると、相続人の負担は大きくなると言わざるを得ません。
このような背景事情により、孤独死の相続では相続放棄を検討する人が多数います。以降では、相続放棄の具体的な手続を解説します。
孤独死の相続放棄をする際に対処すべきこと
孤独死の相続では「葬祭費用や賃貸物件の退去費用がかさみ、目の届く範囲で有益な財産と言えるものがない」といった事情にとらわれがちです。こういった状況でも、本当に相続放棄が適切と言えるのか慎重に調査するなど、一般的な対応を粛々と行うようにしましょう。
相続人調査を実施する
相続放棄の手続にあたっては、まず自身に相続権があるかを確認する必要があります。具体的には、戸籍謄本を取得し、以下の法定相続のルールに基づいて権利を有する親族を調査しなければなりません。このとき、ほかの相続人の相続放棄の状況も要確認事項です。
法定相続のルール
- 配偶者がいる場合:必ず相続人となる
- 血族の取り扱い:相続順位がもっとも高い人が相続人となる(以下参照)
相続順位
- 第一順位:子や孫(直系卑属)
- 第二順位:父母や祖父母のうちもっとも血縁関係の近い人(直系尊属)
- 第三順位:きょうだい
なお、第一順位にあたる人が先に亡くなっている場合は、ひ孫が繰り上がりで相続権を得ることになります。同じように、きょうだいも亡くなってる場合、甥や姪が相続人となりますが、甥・姪の直系卑属が相続人となることはありません。
戸籍謄本の取得については、令和6年3月から広域交付制度が始まり、本籍地以外の市区町村でも請求が可能になりました。ただし、取得できるには一定の条件が必要になるため、利用予定の場合は、最寄りの市区町村役場で確認しておくようにしましょう。
相続財産を調べて放棄の必要性を検討する
相続放棄の判断には、プラスとマイナスの財産を正確に把握することが重要です。プラスの財産には、預貯金、不動産、株式、生命保険金などがあります。一方、マイナスの財産には、住宅ローンなどの借入金、税金の未納分などが該当します。以下は資産別の調査方法の一例です。
不動産の調査方法
遺品に登記済証などの権利証がある場合は、記載のある情報に基づいて登記事項証明書を取り寄せます。権利証がない土地・建物については、固定資産税納税通知書や、市区町村役場で閲覧請求できる課税台帳(または名寄帳)の情報に基づき、同様に登記事項を確認します。
預貯金や証券の調査方法
預金口座や証券口座のある銀行に問い合わせ、相続人である旨の証明書を提出して残高証明書を請求します。口座の有無がわからないときは、全店照会を依頼して確認することも可能です。
債務の調査方法
遺品に金銭貸借契約書や請求書、督促状などがあれば、記載された情報に基づいて債権者に直接確認することが可能です。資料のない債務については、加盟する金融機関から融資情報を収集・管理している個人信用情報機関(日本信用情報機構や株式会社シー・アイ・シーなど)に問い合わせることで確認できます。
保険の調査方法
保険証券があれば、記載された会社に問い合わせることで詳細を確認できます。加入状況がまったくわからないときは「生命保険契約照会制度」を利用することも検討しましょう。
保険の調査では、特に賃貸物件での孤独死の場合、地震火災保険についてもよく確認しておきましょう。簡単に触れましたが、近年の保険契約には「孤独死特約」などが付されている場合があり、退去費用や特殊清掃費用が補償に含まれている可能性があるためです。
相続放棄する場合は家庭裁判所で手続する

相続放棄をすると決めた場合は、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。孤独死の場合、警察や自治体から連絡を受けた日が起算点となるのが一般的です。
申述の手続を行うのは、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。主な必要書類には、相続放棄申述書のほか、戸籍謄本などが含まれます。
相続放棄の必要書類
- 相続放棄申述書
- 申述人の戸籍謄本
- 被相続人(亡くなった人)の住民票除票または戸籍附票
- 被相続人との関係を示す戸籍謄本一式(申述する人の現在の戸籍謄本など)
- 収入印紙800円分
- 連絡用の郵便切手1000円~3000円分(管轄により金額は異なる)
相続放棄の申述から受理までの期間は約2か月ほどとなり、審理にあたっては返送が必要となる照会書・回答書が送られてきます。これらの返送が終わると、2週間ほどで「相続放棄申述受理通知書」が届き、手続が完了します。
親族全員が相続放棄した場合の流れ
相続人全員が相続放棄を選択した場合、放棄された財産が国庫に帰属するまで数か月から1年程度の期間を要するのが一般的です。裁判所で財産の管理者が選任され、相続人がいないことが確認されたのち、必要な清算を行う流れとなります。
相続財産清算人の選任
まずは放棄された財産を管理・清算するため、利害関係人(債権者や特別縁故者など)または検察官の申し立てにより、家庭裁判所が相続財産清算人を選任します。
選任に際しては予納金が必要で、その額は数十万円から100万円程度です。予納金は、相続財産清算人の報酬や公告費用などに充てられます。選任された相続財産清算人は、財産の調査・管理、債権者への弁済、残余財産の処理などを行います。
相続人不存在の確定
相続財産清算人が選任されると、まず相続人捜索の公告が行われます。この公告は官報に掲載され、6か月の期間が設けられます。このあいだに相続人である旨を名乗る人がいなければ、相続人不存在が確定します。このあと解説する特別縁故者は、この段階で名乗ることが可能です。
また、相続債権者や受遺者に対する請求申出の公告も行われ、こちらは2か月の期間が設定されます。この期間内に債権者は、相続財産清算人に対して債権の申し出を行う必要があります。
相続財産の清算・特別縁故者への分与
相続人不存在が確定した後、相続財産の清算が始まります。清算では、まず相続債権者への弁済が行われ、その後に特別縁故者への分与が検討されます。ここで言う特別縁故者とは、内縁の配偶者、生計を共にしていた者、被相続人の療養看護に努めた者などです。
分与の判断は家庭裁判所が行い、被相続人との関係の深さや貢献度などが考慮されます。ただし、まず相続財産から債務の支払いが行われ、その後に特別縁故者への分与が検討されます。分与額は、清算後に残った相続財産の範囲内で決定されます。
残余財産の国庫帰属
債権者への弁済と特別縁故者への分与が完了した後に残った財産は、国庫に帰属します。この手続は、相続財産清算人が管轄の法務局に国庫帰属の申請を行うことで開始されます。国庫帰属が認められると、相続財産清算人は法務局に対して残余財産を引き渡します。これをもって相続財産清算人の職務は終了します。
孤独死の相続放棄で注意すべきポイント
孤独死の相続放棄には、通常の相続放棄とは異なる注意点があります。例を挙げるなら、相続放棄をする意思を示しても、遺体の引き取りや葬祭を強く要請される場合があります。放棄した遺族が負担から免れるかどうかも確実ではなく、状況を慎重に確認する必要があります。
遺体の引き取り・葬祭の取り扱い
たとえ子やきょうだいなどの近しい親族であっても、遺体の引き取りや葬祭を行う法的な義務はありません。むしろ、相続放棄を考えている場合は、これらの手続になるべく関与しないのが賢明です。引き取りを拒否した場合、自治体により行旅死亡人としての取り扱いや、生活保護法による葬祭扶助の対象となります。
注意したいのは、自治体に任せたとしても、遺留金で賄えなかった葬祭費用の請求は免れられない点です。自治体によっては、生前の親族関係や遺族の経済状況などを考慮して請求を見送るケースもありますが、あくまで例外的な対応と考えるべきでしょう。
単純承認とみなされる可能性
相続放棄を予定する場合は、むやみに相続財産を処分しないことが重要です。処分とは、財産の売却や使用だけでなく、遺品の整理や廃棄なども含まれます。たとえ価値の低い物でも、遺品などを勝手に処分してしまうと、単純承認とみなされ、相続放棄できなくなる恐れがあります。
特に注意が必要なのは、葬儀費用や清掃費用の支払いです。これらの費用を亡くなった人の財産から支払ってしまうと、相続財産の処分と判断される可能性があります。家財道具の片付けも同様であり、大家から強く要請があるとしても、専門家に相談するまでのあいだは手をつけないのが無難です。
賃貸契約の保証人が負う原状回復費用
孤独死の現場となった賃貸物件では、特殊清掃や原状回復のために多額の費用が発生する場合があります。しかし、相続放棄をすれば、原則としてこれらの費用を負担する必要はありません。
ただし、被相続人の賃貸借契約で保証人になっていた場合は例外です。保証人としての責任はその人固有のものとされ、相続放棄の効果は及びません。滞納分の家賃や退去費用を保証人が負う契約となっている場合、その保証人が相続放棄したとしても、依然として支払義務は残るのです。
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孤独死した人の相続では、葬祭費用や原状回復費用などの予期せぬ費用負担を求められる可能性が大きく、相続放棄を検討せざるを得ないことが多々あります。連絡を受けたときは死亡に関する手続の負担を確認し、自分でもしっかりと調査したうえで放棄に踏み切ることが大切です。
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