遺留分放棄とは?相続放棄との違いや手続の進め方・注意点などを解説

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遺留分放棄とは

遺留分とは、遺言や遺産分割協議で各々取得する財産を判断する場合に、各相続人に認められた最低限の権利を指します。遺留分を取得する権利を有する人(遺留分権利者)は、自らの意志で権利を放棄することも認められます。

遺留分放棄が必要となるケース

遺留分放棄が必要となるのは、特定の相続人に遺産を集中させるべき事情があるときや、すでに財産を受け取った人とほかの相続人とのあいだで、公平性を保った方がよいと考えられるときです。具体的には、事業承継がある場合、実家および生活資金の生前贈与がある場合などが挙げられます。

遺留分放棄が必要となるケース(一例)

  • 事業承継に際し、社長が保有する株式を後継者が生前贈与で受け取った場合
  • 配偶者の生活資本として、自宅や預貯金などまとまった財産を贈与した場合
  • 自力で生計を立てる別居親族が、相続財産を同居親族が全額取得することに同意する場合

遺留分放棄ができる人(遺留分権利者)

遺留分放棄ができるのは、遺留分権利者と呼ばれる人に限られます。具体的には、配偶者、子(代襲相続人である孫やひ孫なども含む)、直系尊属(父母・祖父母)が該当します。

一方で、きょうだいには遺留分の権利が認められていないため、放棄も不可能です。また、家庭裁判所での手続により相続放棄した人も、相続人としての地位を失っていることから、遺留分権利者ではない(遺留分放棄の必要がない)と解せます。

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遺留分放棄と相続放棄の違い

遺留分放棄と相続放棄は、一見すると似ているものの、その性質は大きく異なります。遺留分放棄は最低限保障される相続分のみを放棄する手続であるのに対し、相続放棄は相続権そのものを放棄する手続です。また、手続のタイミングや放棄後の相続人としての地位なども異なるため、状況に応じて適切な選択が求められます。

放棄する範囲の違い

遺留分放棄の場合、最低限保障される相続分(遺留分)のみを放棄し、相続人としての地位までは失いません。したがって、遺留分を放棄しても遺産分割協議への参加は可能であり、相続権を通じて相続財産に含まれる債務も承継することになります。

一方、相続放棄とは、相続人としての地位を失う手続です。一度家庭裁判所に受理されると、遺産分割協議には参加できなくなり、債務を含めて相続財産の一切を承継することがなくなります。

手続のタイミングおよび方法の違い

遺留分放棄は、被相続人の生前から行う場合は家庭裁判所で「遺留分放棄の許可」の審判が必要になりますが、亡くなった後に放棄を進める場合は意思表示だけで成立します。

これに対して、相続放棄では相続開始後しか認められず、熟慮期間と呼ばれる3か月の期限の定めがあります。家庭裁判所での手続も遺留分放棄とは区別されており、希望する人は「相続放棄の申述」を申し立てなくてはなりません。

遺留分放棄のメリット・デメリット

遺留分放棄のメリット・デメリット_イメージ

遺留分放棄には、被相続人と遺留分権利者の双方にメリットがあります。被相続人は希望に沿った遺産分配が実現しやすくなり、遺留分権利者は生前に遺留分の代わりとなる財産を受け取れる可能性があります。一方で、手続の複雑さや撤回の困難さなど、デメリットも存在します。

遺留分放棄のメリット

相続人による遺留分の放棄には、権利者側が早期に財産をもらえる可能性、被相続人側は遺産分割を予定に沿って進められる可能性があります。具体的には、次のようなことが言えます。

被相続人側のメリット

財産を残す側(将来の被相続人)にとっての遺留分放棄のメリットは、遺産分割の計画をより安全・確実に実現できる確率が上がることです。

生前贈与による財産の移転を計画に含める際、受贈者にあらかじめ遺留分を放棄してもらえば、公平性が担保され、相続開始後になって争いが発生するリスクが小さくなります。また、特定の相続人に財産を残す旨の遺言に同意をとった場合にも、同意した相続人に遺留分を放棄してもらうことで、遺言の実現性を高められます。

遺留分権利者側のメリット

遺留分権利者がその権利を放棄するメリットは、生前のうちに放棄を実行することで、権利に見合う財産をもらえる公算がある点です。このあと解説するように「放棄に見合った代償」が必要とされる兼ね合いで、遺留分の評価と釣り合う財産をもらい受けることができるのです。

また、相続後の権利関係が明確になるため、相続をめぐる争いが発生する確率を下げることができます。生前に資産を受け取ることで、将来の資産計画も立てやすくなるのも大きな利点と言えるでしょう。

遺留分放棄のデメリット

一方で、遺留分放棄には注意すべきデメリットも存在します。もっとも重要なのは、一度放棄すると原則として撤回が困難または不可能となる点です。生前に放棄する場合は家庭裁判所の許可が必要で、手続が複雑になる点にも留意しなければなりません。

また、すでに述べたとおり相続債務の承継があるため、財産を取得しなくても債権者に督促される恐れがある点にも注意したいところです。

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生前の遺留分放棄の進め方

将来の被相続人がまだ元気なうちに遺留分を放棄する場合、遺留分権利者本人の申し立てにより家庭裁判所の許可を得なくてはなりません。許可を得るには、指定された書類の提出に加え、審理により許可基準を満たすと判断してもらう必要があります。これらの手続の進め方は以下のとおりです。

家庭裁判所への申し立て

遺留分放棄の申し立ては、将来被相続人となる人の現在の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。申立人は遺留分権利者本人(推定相続人)です。

申し立てから許可までの流れは、まず申立書類の提出から始まり、その後、裁判所による審問が実施されます。審問では申立人本人から事情を聴取したうえで、許可・不許可の判断が下されることになります。なお、この一連の手続には通常1か月から2か月程度の期間を要します。

申し立てのための必要書類と費用

申し立ての際には、記入済みの「遺留分放棄許可申立書」が必要です。そのほかの添付書類として、申立人と被相続人の戸籍謄本なども求められます。必要書類を整理すると以下のとおりです。

  • 遺留分放棄の申立書
  • 被相続人の戸籍謄本
  • 申立人(遺留分権利者)の戸籍謄本
  • 申立手数料に相当する額の収入印紙
  • 連絡用の郵便切手

遺留分放棄の申し立てに必要な手数料は、1件あたり800円です。連絡用の郵便切手の金額は各地の家庭裁判所のホームページで確認する必要があります。なお、許可基準を満たすか判断するために、追加で書類提出を求められることがあります。追加提出の可能性があるものとして、被相続人の財産目録、贈与契約書などが挙げられます。

申し立てが許可される3つの条件

遺留分放棄が許可されるためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。許可されるのは、提出書類や審問に基づいてこれらの条件をすべて満たすと判断されたときだけです。

申し立てが本人の自由意思に基づくものであること

他者(被相続人含む)からの強制や圧力によるものではないことが求められます。

放棄するための合理的な理由と必要性が存在すること

具体的には「事業承継のために特定の相続人に財産を集中させる必要がある」「配偶者の生活資本を確保するために遺留分の請求がないようにしたい」などの理由が該当します。

放棄に対して適切な代償が用意されていること

遺留分相当額程度の代償が一般的とされますが、適当な額については、必要に応じ専門家と相談しながら個別に判断する必要があります。

相続開始後の遺留分放棄の進め方

相続開始後の遺留分放棄は、関係者へ意思表示するだけで済み、家庭裁判所の許可は不要です。このとき、後日トラブルにならないよう、できるだけ口頭ではなく書面による表示を行うようにしましょう。ほかの相続人の立場を早々に安定させるために、遺留分侵害額請求権を行使できる期間内の早い段階で意思表示を実施する配慮も大切です。

遺留分放棄確認書の作成方法

遺留分放棄の意思表示は「念書」や「遺留分放棄確認書」などと題とする書類で行うとよいでしょう。確認書には、放棄者の氏名、被相続人との関係、放棄する遺留分の内容、作成日などを明記します。

書面を作成するときは、相続人でない第三者(司法書士や弁護士など)を証人を立てることで、より確実な証拠となります。さらに、署名・押印は実印を用い、印鑑登録証明書を添付することが望ましいでしょう。

作成した確認書は、放棄者と相手方がそれぞれ保管し、双方いつでも書面の内容をチェックできるようにしておきます。

遺留分侵害額請求権の時効

遺留分をほかの相続人や受遺者などに請求する権利(遺留分侵害額請求権)には時効があります。相続開始と遺留分を侵害されていることを知ったときから1年以内か、相続開始から10年が経過した時点です。

遺留分侵害額請求権の時効は相当に長く、遺留分放棄をしてもよい状況なのに意思表示してくれない相続人がいると、ほかの相続人の立場は「いつ権利を行使されるかわからない」といった不安定な状態が続きます。親族の不安を解消するためにも、その意思があるときは、時効期間の早い段階で放棄の意思を示すのが適切です。

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遺留分放棄の撤回について

すでに述べたように、生前の遺留分放棄は原則として撤回できません。これは権利関係の安定性を確保するためです。ただし、生前に放棄した場合に限り、特別な事情がある場合には撤回が認められる可能性があります。一方で、相続開始後の放棄については、撤回は認められません。そのため、遺留分放棄を行う際は、慎重な判断が求められます。

生前に放棄した場合の撤回方法と条件

生前の遺留分放棄の撤回には「放棄の前提となった事情が大きく変化した」などの特別な事情の立証が必要です。単なる気持ちの変化や家族関係の悪化といった理由では、撤回は認められません。撤回が認められる可能性のある例を挙げると、次のとおりです。

  • 事業承継を前提に遺留分放棄したが、相続開始前に後継者が亡くなってしまった
  • 生活資本を必要とする親族のため遺留分放棄したが、その親族が相続開始前に亡くなった
  • 遺留分放棄を行う際、実は許可基準を満たさない事情があった(他者からの強迫など)
  • 遺留分放棄の対象となる財産に誤認があった(新しい資産が見つかるなど)

家庭裁判所で許可を得た遺留分放棄について撤回するときは、当初手続した管轄裁判所で改めて申し立てる必要があります。必要な書類は原則として放棄したときと同じ内容ですが、撤回に至った事情を説明する資料などを個別に添付しなければなりません。

相続開始後に放棄した場合は撤回不可

相続開始後の遺留分放棄も、法的安定性の観点から撤回することができません。そのため、遺産分割協議のなかで財産の分与を受けるなど、代替案を検討しなければなりません。

なお、遺留分放棄の意思表示について瑕疵があった(意思表示するよう強制されたなど)事情がある場合には、話し合いや調停・裁判などで解決できる可能性があります。このケースでは、弁護士への相談が適切です。

遺留分放棄は慎重な判断のもと専門家に相談を

遺留分放棄は、事業承継や生活資本の確保など、特定の相続人に財産を集中させる必要がある場合に活用できる手続です。被相続人が存命中は家庭裁判所の許可が必要となり、相続開始後は意思表示で放棄が可能です。一度放棄すると原則として撤回できないため、慎重な判断が求められます。

当事務所では、遺留分放棄について、生前・相続開始後それぞれのケースで手続の進め方や必要書類の準備、許可基準の確認など、きめ細かいサポートを提供しています。遺留分放棄をお考えの方は、まずは専門家への相談をご検討ください。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載