共有持分の放棄とは?メリット・デメリットや手続の流れを解説

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共有持分の放棄とは

不動産は複数人で共同所有することが可能ですが、共有持分の放棄とは、複数人で不動産を共有している場合に自己の持分権を放棄することです。共同名義人の1人が自己の共有持分を放棄すると、その人の持分は他の共有者に帰属することになります。これについて、民法では以下のように定められています。

第二百五十五条

共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。

※引用:民法第二百五十五条|e-Gov法令検索

共有持分の放棄は「単独行為」といって、他の共有者からの承諾を得ることなく自己の意志のみで行うことが可能です。

不動産の共有はトラブルや揉め事の火種になることも多いため、トラブルを未然に防ぐために、共有持分を放棄して共有関係を解消することはよくあります。以下では相続放棄と共有持分の放棄についての違いについて解説していきます。

相続放棄と共有持分の放棄の違い

相続放棄とは、プラスの財産・マイナス財産のすべてを含めて相続財産の権利・義務を放棄する手続です。これに対し、共有持分の放棄は特定の財産・権利における持分を放棄するものであり、両者は対象となる財産の範囲が異なります。

また、相続放棄はまだ財産を相続していない段階での手続であるのに対して、共有持分の放棄はすでに自己に持分が帰属している場合に行うので、手続の時期も異なります。

また、手続上の違いとしても、相続放棄は相続を知ったときから3か月以内に行う必要があるのに対し、共有持分の放棄には期限がありません。さらに、相続放棄の申述は家庭裁判所に対して行う必要がありますが、共有持分の放棄は他の共有者への意思表示のみで効力が発生します。

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共有持分を放棄するメリット・デメリット

共有持分の放棄は、複数人で不動産を共有している状況を整理するための1つの方法ですが、共有持分の放棄を決断する前に、メリットとデメリットを十分に理解しておく必要があります。以下では、共有持分を放棄した場合に得られる効果と、考慮すべき課題について説明します。

共有持分を放棄するメリット

複数の共有者が関わる不動産では、管理や処分に関する意思決定が複雑化しやすいため、持分の放棄によってこれらの問題を解消できます。以下では、共有持分を放棄する具体的なメリットを紹介します。

将来の紛争リスクを解消できる

共有不動産では、売却や管理方法をめぐって共有者間で意見が対立することが少なくありません。これは、共有不動産の変更・処分行為には共有者全員の同意が必要であり、共有者が多数いると全員の合意を得ることが困難であるためです。

持分を放棄すれば潜在的な紛争リスクから解放され、将来的な対立や法的トラブルに巻き込まれる心配がなくなります。また、放棄をすれば意思決定に関与する必要もなくなるため、精神的な負担の軽減にもつながります。

次世代への負担軽減になる

活用が難しい共有不動産を相続させると、登記手続の煩雑さとあわせて、次世代に大きな負担を強いることになります。特に遠隔地にある土地や利用方法が限られている低い山林・農地などにおいて、維持管理の手間が大きく、適切な活用が難しい場合は、実質的に「負の遺産」となってしまう可能性があります。

このような場合、持分を放棄することで子や孫世代への不要な財産の承継を防げるため、終活対策の一環としても共有持分の放棄が活用されることもあります。

維持管理の手間と費用が削減できる

共有不動産の管理には定期的な見回り、草刈り、建物の補修など、継続的な労力と費用がかかりますが、共有持分を放棄することでこれらの管理義務から解放され、時間的・金銭的コストを削減できます。

高齢化や遠距離居住により、適切な管理が困難になるケースが増えており、維持管理の手間を避けるために共有持分の放棄が行われるケースも多くあります。

共有持分を放棄するデメリット

持分放棄自体は単独で行える法律行為ですが、一切話し合いをすることなく持分の放棄を行うと、他の共有者との揉め事になるリスクがあります。

たとえば、利用価値が低く維持管理費用が高額な不動産の場合、一方的な持分放棄は他の共有者への負担の押し付けとなり、共有者間の人間関係を悪化させる原因となりかねません。特に、相続で取得した山林や古い建物などで、誰も積極的に所有したがらない不動産の場合は注意が必要です。

放棄した持分は他の共有者に当然に帰属することになり、共有者の意思にかかわらず法律効果が生じます。そのため、事前に十分な話し合いを行わないまま持分放棄をすると、共有者から非難を受ける可能性があります。

したがって、持分放棄を検討する際は他の共有者との綿密な協議を行ったうえで、放棄後の管理方法や費用負担について事前に合意を形成しておくことが望ましいといえます。

共有持分を放棄する流れ

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共有持分の放棄は、他の共有者との関係や法的な手続を考慮しながら慎重に進める必要があります。ここでは、持分放棄を実行する際の具体的な流れと各段階での重要なポイントを解説します。

他の共有者への意思表示

共有持分の放棄は他の共有者への意思表示をすることで効力が生じるので、共有者間で事前に話し合うことが重要です。

意思表示のみでも放棄は可能ですが、あとから揉めないように法的な証拠となる内容証明郵便を送付しておくとよいでしょう。内容証明には、放棄する意思の明確な表明、対象となる不動産の特定、放棄の時期などを明記します。

登記手続を行う

共有持分の放棄を行ったあとは不動産登記簿の変更手続が必要となり、放棄する人と他の共有者全員で行います。手続は法務局に対して行い、登記申請書や登記原因証明情報、固定資産評価証明書などの必要書類を提出します。

なお、登記手続には登録免許税などの税金が発生するため、司法書士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

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放棄後に必要な登記手続の流れ

不動産の共有持分が放棄などによって移転する場合、法務局での登記手続が必要です。ここでは、登記完了までの具体的な流れを説明します。

必要書類の収集とかかる費用の算出

登記手続には、以下の書類が必要です。

  • 登記申請書
  • 登記原因証明情報
  • 登記識別情報(登記済証)
  • 固定資産評価証明書
  • 登記権利者(持分を取得した人)の住民票
  • 登記義務者(持分を放棄した人)の印鑑登録証明書

なお、これらの各書類の実費以外にも、以下のような税金が発生します。

  • 登録免許税
  • 司法書士報酬(司法書士に依頼する場合)

登録免許税の計算は固定資産税評価額×2%で算出できます。

司法書士報酬については、令和6年の日本司法書士連合会の調査によれば、贈与における登記の場合で平均5万3902円とされているのでこちらが目安になります。ただし、司法書士報酬は依頼する司法書士や持分放棄の対象となる不動産の評価額などによっても異なるため、依頼する際には事前に見積もりを取るようにしましょう。

※参照:報酬に関するアンケート│日本司法書士会連合会

登記申請書の作成

収集した書類をもとに、登記申請書を作成します。申請書には、登記の目的、登記原因とその日付、申請人の情報、不動産の表示などを正確に記載する必要があり、誤記や記載漏れがないよう慎重に確認します。

法務局への申請

作成した申請書と必要書類一式を不動産の所在地を管轄する法務局に提出します。共有持分の放棄による持分移転登記を行う場合、持分を放棄する人とその他の共有者全員で申請する必要があります。申請書の提出後は法務局で内容確認が行われ、不備がある場合には補正を求められるので、その場合は内容を補正して再度申請書を提出します。

なお、共有者らが登記手続に協力しなかった場合、登記引取請求訴訟を提起して確定判決を得ることで、単独での登記申請が可能です。

登記完了と登記識別情報の受領

申請内容に問題がなければ、1〜2週間程度で登記が完了します。登記完了後は新しい登記識別情報が発行され、窓口での受け取りか郵送、またはオンラインでの受け取りを選択できます。登記識別情報は次回の登記申請で必要となるため、大切に保管しましょう。

放棄手続を行う際の注意点

共有持分の放棄を行ううえでは、税金や手続面での注意点があります。放棄のタイミングや他の共有者への影響を十分に考慮し、計画的に進める必要があるので、ここでは特に重要な注意点について解説します。

共有持分の放棄は先着順になる

共有者が持分を放棄すると、その持分は他の共有者に当然に帰属します。しかし、最後の1人となった場合は持分を承継する共有者が存在しないため、持分を放棄できません。

そのため、共有持分を放棄する際は、他の共有者の意向を確認しながら計画的に手続を進めることが重要です。そして、もし最後の1人になってしまった場合、不動産の売却や贈与など別の対応策を検討する必要があります。

放棄した年の固定資産税は発生する

固定資産税は毎年1月1日時点での所有者に課税される性質上、その年の途中で持分を放棄しても固定資産税の納税義務は残ります。また、固定資産税の課税においては不動産登記名義をもとに納税義務者が決定されるため、共有持分を放棄していても、登記を変更しないと固定資産税が課税されることに注意が必要です。

なお、共有不動産の固定資産税を支払う場合、代表者に納付通知書が送付されるので、代表者がまとめて納付を行います。そのため、金銭的なトラブルを避けるためには、放棄前に代表者との間で精算方法を確認しておくのがよいでしょう。

持分の取得者には贈与税が課税される

共有持分を放棄すると、持分を取得した側に贈与税の負担が発生します。共有持分の放棄は法律上の贈与には該当しませんが、相続税法上は自分の財産を相手に無償で与えるという性質上、持分を取得した共有者に贈与税が課税されることになっています。

なお、贈与税には税負担を軽減できる制度があります。まず、暦年課税制度を活用すれば年間110万円までの基礎控除が認められ、これを超えない贈与であれば贈与税が発生しません。

また、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子・孫への贈与では相続時精算課税制度を選択でき、2500万円までの特別控除を利用できます。これらの制度を適切に活用することで、持分取得者の税負担を抑えることが可能です。

代替手段を検討する

共有持分を放棄することが難しい場合、共有物件を分割することで問題を解決できる場合があります。法律上認められている分割方法としては、以下の3つの方法があります。

  • 代償分割
  • 現物分割
  • 換価分割

代償分割は、共有者の1人が他の共有者の持分を取得し、その見返りとして金銭で補償するという方法です。たとえば、相続によってきょうだい間で共有となった実家について、1人が居住を継続するために、きょうだいの持分を買い取り、金銭を支払うといったケースがこれにあたります。

現物分割は、共有財産を物理的に分けて単独所有とする方法です。たとえば、広い土地を共有している場合、それを複数の区画に分筆すれば、それぞれの共有者が独立して所有権を持つことができます。

換価分割は、共有物件を売却してその代金を分配する方法です。競売によって不動産を現金化し、その売却代金を持分割合に応じて分けることで解決を図ります。

共有持分の放棄でお困りなら司法書士へ

共有持分の放棄は、将来の紛争リスクの回避や管理負担の軽減といったメリットがある一方で、税金面や他の共有者との関係悪化といった影響もあるので、慎重な検討が必要です。

手続の際は共有者への意思表示や登記申請など、専門的な知識と経験が必要となるので、共有物件の分割など代替手段の検討も含めて状況に応じた適切な判断が求められます。

当事務所では、共有持分の放棄に関する相談から内容証明郵便の作成、登記申請手続まで、ワンストップでサポートいたします。お客様の状況に応じ、放棄以外の解決策も含めた最適なプランをご提案いたしますので、まずはお気軽にご相談ください。専門家による丁寧なサポートで、スムーズな問題解決をお手伝いいたします。

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記事の監修者

司法書士法人さくら事務所 坂本孝文

司法書士法人さくら事務所
代表司法書士 坂本 孝文

昭和55年7月6日静岡県浜松市生まれ。大学から上京し、法政大学の法学部へ進学。
平成18年に司法書士試験に合格。その後、司法書士事務所(法人)に入り債務整理業務を中心に取り扱う。
平成29年に司法書士法人さくら事務所を立ち上げ、相続手続や不動産登記、債務整理業務を手がける。

【メディア掲載】
・「女性自身」2024年5月7・14日合併号にて相続手続の解説を掲載